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ピクシス奪還編
16 霊廟の前にて(ヒズミ視点)
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ピクシス中央の火山に向かっていたヒズミは空を見上げて目を細めた。
王城の上空に舞う竜の影が見える。
「……おや。反乱かな」
「そのようだな」
光竜王ウェスペは面白そうに眉をあげる。
ヒズミは内心を表に出さないように気を付けながら、淡々としらばっくれた。
「どうする? 炎竜王の霊廟はすぐそこだが」
「ふむ。小雀が二羽、空を飛んでいるだけではないか。放っておけ。今はこちらの方が先だ」
黒髪の従卒ルークを連れたウェスペは、ヒズミの案内のもと最短ルートで火口にある炎竜王の霊廟を目指していた。
木や草が少ない岩肌を登っていくと、火口に岩で組まれた小さな建物が見えてくる。
紋様が刻まれた石の柱が建物の周囲を囲うように立っている。
柱に囲まれた中央の建物が霊廟で、過去の炎竜王やコノエ家の先祖の遺骨の一部が収められている。霊廟は島の中央、島全体に影響を及ぼす魔術の行使に向いた場所にある。先祖の遺骨なども魔法的なアイテムとして、魔術の行使の補助や炎竜王の力を増幅する役割を持つ。
「さて、結界を解いてもらおうか」
霊廟は関係者以外が立ち入りできないようにコノエ家によって結界が張られている。
ヒズミは頷くと霊廟の前に立った。
「祖霊よ我が声を聞け。我が名はヒズミ・コノエ。炎竜王の血を継ぎし末なり。消えぬ炎よ、島を導きたまえ。解除」
目に見えない透明の結界に火花が散り、結界の壁が光の粉となって空に消える。
「やっとか、長かったぞ……おや、まだ結界が残っているようだが」
「重要な場所だ。結界は二重になっている」
大事な霊廟の結界を、子孫の一言で解除できると悪用される可能性がある。霊廟を守る結界は二重になっていて、さらに霊廟の機能の一部は条件がそろわないと解放できないようになっていた。
ヒズミは次の結界を解除するフリをしながら、霊廟に手を差し伸べた。
二番目の結界は炎竜王の血筋というだけでは解除できない。女王か竜王のどちらかの資格を持つ者でなければ解除できないようになっている。そして、霊廟にはコノエ家にだけ伝わる利用方法がもうひとつあった。
「炎竜王よ、島を守ると誓いしコノエの戦士に一時の力を与えたまえ……」
肩の上で小型化している深紅の竜が身震いする。
霊廟に隠された機能のひとつを使ってヒズミは炎竜王の力の根源、火山の核にアクセスする。熱く燃えたぎる魔力が竜を通してヒズミに伝わってきた。
竜王ではない通常の竜騎士のヒズミでは、この魔力を扱いきれず身体が持たない。もって一時間といったところだろう。だが、時間稼ぎには十分だ。
「……やはり、そのつもりだったか、ヒズミ・コノエ」
炎の魔力をまとって振り返るヒズミを見返して、光竜王ウェスペは眉をしかめる。
「素直すぎるとは思ったが。自爆覚悟の特攻とは、呆れたものよ」
ある程度ヒズミの意図を察していたらしい。
ウェスペは思ったより淡泊な反応だった。
「しかし、弟と共に暮らしたかったという君の想い、偽りではないだろう。今一度、考えてみると良い。炎竜王の力をうばった後は、兄弟仲良く暮らさせてやっても良いのだぞ?」
誘うように言うウェスペに、ヒズミは返事の代わりに相棒の火竜レーナを実体化させた。
深紅の鱗がつややかに光る火竜が背後でコウモリ型の一対の翼を広げる。
「弟が炎竜王であろうと、なかろうと、会話をしてこなかったのは私の過ちだ。私自身がその機会があっても踏み込んで来なかった。そして、まだ遅くはない」
「ほう?」
「竜王が孤独かどうか、それは炎竜王に直接聞いて判断する。光竜王ウェスペよ、我ら兄弟の仲をこれ以上、邪魔しないでもらおうか……!」
ヒズミの怒りを体現するように、相棒の竜レーナは火の粉を散らしながら咆哮した。
「はははっ、そうだな。無粋な真似はよしておこう。しかしヒズミ・コノエよ、火の島の力を借りたとて、竜王である私に勝てると思わないことだな!」
哄笑するウェスペの手元で、金色の蛇が輝いた。
みるみるうちに太く長く巨大化した金色の蛇は、胴の長い金色の竜の姿を取る。
一般の竜と違い、蛇のように長い胴体の各所に銀色の鳥の翼が4対生えている。頭上にいただく複数の角は複雑な形で絡み合い、ダイヤのように神々しく光っていた。
従卒と共にウェスペは竜に乗り込んで飛び立つ。
ヒズミも相棒の背に乗って、空へ舞い上がった。
二頭の竜は旋回しながら互いに攻撃を放つ。
深紅の炎と黄金の光線が空中で交差した。
王城の上空に舞う竜の影が見える。
「……おや。反乱かな」
「そのようだな」
光竜王ウェスペは面白そうに眉をあげる。
ヒズミは内心を表に出さないように気を付けながら、淡々としらばっくれた。
「どうする? 炎竜王の霊廟はすぐそこだが」
「ふむ。小雀が二羽、空を飛んでいるだけではないか。放っておけ。今はこちらの方が先だ」
黒髪の従卒ルークを連れたウェスペは、ヒズミの案内のもと最短ルートで火口にある炎竜王の霊廟を目指していた。
木や草が少ない岩肌を登っていくと、火口に岩で組まれた小さな建物が見えてくる。
紋様が刻まれた石の柱が建物の周囲を囲うように立っている。
柱に囲まれた中央の建物が霊廟で、過去の炎竜王やコノエ家の先祖の遺骨の一部が収められている。霊廟は島の中央、島全体に影響を及ぼす魔術の行使に向いた場所にある。先祖の遺骨なども魔法的なアイテムとして、魔術の行使の補助や炎竜王の力を増幅する役割を持つ。
「さて、結界を解いてもらおうか」
霊廟は関係者以外が立ち入りできないようにコノエ家によって結界が張られている。
ヒズミは頷くと霊廟の前に立った。
「祖霊よ我が声を聞け。我が名はヒズミ・コノエ。炎竜王の血を継ぎし末なり。消えぬ炎よ、島を導きたまえ。解除」
目に見えない透明の結界に火花が散り、結界の壁が光の粉となって空に消える。
「やっとか、長かったぞ……おや、まだ結界が残っているようだが」
「重要な場所だ。結界は二重になっている」
大事な霊廟の結界を、子孫の一言で解除できると悪用される可能性がある。霊廟を守る結界は二重になっていて、さらに霊廟の機能の一部は条件がそろわないと解放できないようになっていた。
ヒズミは次の結界を解除するフリをしながら、霊廟に手を差し伸べた。
二番目の結界は炎竜王の血筋というだけでは解除できない。女王か竜王のどちらかの資格を持つ者でなければ解除できないようになっている。そして、霊廟にはコノエ家にだけ伝わる利用方法がもうひとつあった。
「炎竜王よ、島を守ると誓いしコノエの戦士に一時の力を与えたまえ……」
肩の上で小型化している深紅の竜が身震いする。
霊廟に隠された機能のひとつを使ってヒズミは炎竜王の力の根源、火山の核にアクセスする。熱く燃えたぎる魔力が竜を通してヒズミに伝わってきた。
竜王ではない通常の竜騎士のヒズミでは、この魔力を扱いきれず身体が持たない。もって一時間といったところだろう。だが、時間稼ぎには十分だ。
「……やはり、そのつもりだったか、ヒズミ・コノエ」
炎の魔力をまとって振り返るヒズミを見返して、光竜王ウェスペは眉をしかめる。
「素直すぎるとは思ったが。自爆覚悟の特攻とは、呆れたものよ」
ある程度ヒズミの意図を察していたらしい。
ウェスペは思ったより淡泊な反応だった。
「しかし、弟と共に暮らしたかったという君の想い、偽りではないだろう。今一度、考えてみると良い。炎竜王の力をうばった後は、兄弟仲良く暮らさせてやっても良いのだぞ?」
誘うように言うウェスペに、ヒズミは返事の代わりに相棒の火竜レーナを実体化させた。
深紅の鱗がつややかに光る火竜が背後でコウモリ型の一対の翼を広げる。
「弟が炎竜王であろうと、なかろうと、会話をしてこなかったのは私の過ちだ。私自身がその機会があっても踏み込んで来なかった。そして、まだ遅くはない」
「ほう?」
「竜王が孤独かどうか、それは炎竜王に直接聞いて判断する。光竜王ウェスペよ、我ら兄弟の仲をこれ以上、邪魔しないでもらおうか……!」
ヒズミの怒りを体現するように、相棒の竜レーナは火の粉を散らしながら咆哮した。
「はははっ、そうだな。無粋な真似はよしておこう。しかしヒズミ・コノエよ、火の島の力を借りたとて、竜王である私に勝てると思わないことだな!」
哄笑するウェスペの手元で、金色の蛇が輝いた。
みるみるうちに太く長く巨大化した金色の蛇は、胴の長い金色の竜の姿を取る。
一般の竜と違い、蛇のように長い胴体の各所に銀色の鳥の翼が4対生えている。頭上にいただく複数の角は複雑な形で絡み合い、ダイヤのように神々しく光っていた。
従卒と共にウェスペは竜に乗り込んで飛び立つ。
ヒズミも相棒の背に乗って、空へ舞い上がった。
二頭の竜は旋回しながら互いに攻撃を放つ。
深紅の炎と黄金の光線が空中で交差した。
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