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5島連盟編
28 迎えに来たよ
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「アサヒ?!」
様子がおかしいことに気付いたアネモスが声を上げた。
「ちょっと何その血?! 水竜王、癒しの魔術は得意だったよね?」
「勿論だ。しかし反対の属性である炎竜王には、私の魔術が効く保証は無い」
「なんでそう無駄に偉そうなんだよ! ああもう、僕は癒しの魔術は得手じゃないんだ!」
青い竜の背でアネモスは慌てふためいた。
水竜王ピンインは相変わらずマイペースでふんぞり返っている。
アサヒの方は自分で自分の吐血にショックを受けていて、それどころではない。
「ふん……」
一緒に脱出した光竜王ウェスぺは、4人の竜王から距離を置いていた。彼は不機嫌そうに鼻を鳴らすとそっぽを向く。黄金の竜は身をひるがえして飛び始めた。
「え?! ウェスぺ、逃げるのかい?」
「付き合ってられるか」
なんと。
光竜王ウェスぺは仮にも助けたアサヒ達を置いて、自分だけさっさと帰ってしまった。
引き留めようとしたアネモスが憤慨する。
「なんだアイツ! 最悪だな!」
「アネモス、今はあの柱をどうにかしないと」
「何言ってるんだ。無理しないで一度引き上げたほうが」
竜を寄せて話していると、水竜王の乗る朱色の竜も身体を寄せてきた。同乗している土竜王スタイラスが言う。
「いや、可能なら今のうちに攻撃を加えた方が良い」
「どうして?!」
「あの毒の霧の発生速度から計算すると、数時間でこの一帯は濃い毒の雲に包まれる。そうなると、風竜王が風で吹きはらえる量を越える」
スタイラスの言葉を聞いたアサヒは、竜の背中で再び立ち上がって、手のひらをズボンに擦り付けて血をぬぐう。
「守りを固められると厄介ってことだろ。せめて今の内に一本くらいは撃破しておかないと」
戦意に反応して金色の火の粉がアサヒの足元に舞いおどる。
納得がいかない顔をしているアネモスだったが、スタイラスは無視してアサヒに向かって話しかけた。
「炎竜王、あの石柱は上からではなく、側面から攻撃した方が良い。水竜王が海の渦に干渉して、石柱を斜めにしてくれるそうだ」
スタイラスの手前でピンインが「お安いご用である」と威張っている。
アサヒは海面に垂直に立つ5本の石柱を改めて見つめた。確かに側面から攻撃して、可能なら横倒しにした方が良さそうだ。
「風竜王、お前の気持ちは分かるが炎竜王には攻撃してもらわなければならない。霧が炎を遮らないように気流を操作してくれるか」
「……撤退のタイミングを誤らないでね、皆。アサヒは限界だよ」
「大丈夫だって」
なおも心配そうにするアネモスをアサヒは強引にさえぎった。
「やろう」
作戦提案者の土竜王スタイラスは、ピンインと共に海底の地面を揺り動かして石柱に影響を与えられないかやってみるつもりらしい。アサヒの出番は他の竜王の準備が終わってからトドメの一撃を叩きこむことだ。
「内なる大気、外なる原石……」
風に乗ってスタイラスの低い声が聞こえてくる。
竜王の魔術は無限の大気を介して、形なき世界の意思にアクセスするもの。アサヒにとってそれは宇宙であり、光竜王ウェスぺにとっては光陰、水竜王ピンインにとっては母なる海、風竜王アネモスにとっては時空、土竜王にとっては大地であるが、全て同じものを指している。
二人の竜王の魔術によって、石柱が揺れ始める。
残念ながら地震と大波だけで横倒しにできるほど簡単ではないようだ。最終的にアサヒが炎で側面を叩く必要があるだろう。
様子を見ながらアサヒはゆっくり詠唱を始める。
「そは人を裁きし」
古代、炎は人にとって容易く利用できるものでは無かった。
ライターもマッチもなく、限られた道具で炎を発生させるのは難しい。
「天の炎」
だから昔の人にとっては料理に使う火よりも自然が起こす火、雷の後の火災の印象の方が強い。天災の炎は人々にとって理由の分からぬ天の神の怒りであった。
「神々が下せし……」
アサヒの額に汗が伝う。
身体が熱いのに汗は冷たい。背中がぐっしょりと汗で濡れている気配がする。急激に体力を消耗し、生命力で補おうとしていることに気付いたが、魔術を途中でキャンセルすることはできなかった。
「天炎金槍」
魔術を解き放つ瞬間、視界がゆがむ。
目眩だ。
その一瞬でアサヒは自分の魔術が失敗したことを悟った。
「うまくいったか?!」
他の竜王が石柱に注目する中、アサヒはよろめき、竜の背中に崩れ落ちた。
「一本、傾いてヒビが入ってる。あと少しみたいだ。アサヒ?」
「大丈夫……」
「そんな青い顔で何言ってるんだ! どうみたって大丈夫じゃないよ!」
撤退しようと騒ぐアネモス。
その時、海面に突き出た石柱では異変が起こっていた。
傾いた石柱が元に戻り始める。
アサヒが傷つけた石柱の傷がゆっくりとふさがり始めた。
「そんな……?!」
いつの間にか、アサヒ達、竜王を取り囲むように、ゆるゆると毒の雲が迫っている。目の前だけではなく、遠回りして後ろからも。
死の気配が近い。
アサヒは荒い息を吐いた。
最後の力を使って石柱に攻撃するか、他の竜王のために毒の雲を炎で蒸発させて血路を開くか。
最後?
死を覚悟してるのか、俺は。
死は恐ろしい。
当たり前のことだけれど、どうなるか分からない無明の闇で一人きりになるのは怖い。転生して次がある? 本当に?
ふと、アサヒは灰色のコンクリートの街並みを思い出す。あそこは、至るところに機械がある世界だった。
機械によって便利な生活をしていて、衣食住に不自由しなかったように思う。生まれた家は一般家庭で両親もいたと思うが、今となっては具体的に思い出せない。
セピア色の思い出の中で、アスファルトに舗装された道を歩いていた自分は、途中で立ち止まる。
帰らないと……どこへ?
ここは自分のいるべき世界ではない。
地球で生きていた頃は、いつも心のどこかでそう感じていた。
では帰るべき場所はどこにあるのか。
夢の中で誰かが自分を呼ぶ。
帰ってきて、と言って繰り返し呼ぶ声が聞こえる。
こんなところで死にたくない。
俺の帰る場所は……
『……どうやら痺れを切らして迎えに来たようだぞ、盟友よ』
「え?」
思わずアサヒは顔を上げた。
疲労の限界で少しの間、幻を見ていたらしい。
気が付くと空の上でアサヒは竜の背で膝をついている。海には相変わらず石柱がそびえたっていた。
いや、状況が少し変化している。
風に乗って無数の鳥の羽ばたきのような音が聞こえた。
ヒューヒューと空を切り裂く音が近付いてきている。
「アサヒ、あれを見て!」
アネモスが腕をさす方向を見る。
そこには空を飛ぶ竜の群れの姿があった。形も色もとりどりの竜の背には武装した男達が乗っている。彼らはアサヒ達を取り巻く毒の雲を魔術で払いながら進軍してきていた。
そして竜に先導されるように、巨大な5つの島が姿を現す。
空飛ぶ島には、島の位置をコントロールできるよう魔術が組み込まれている。そしてそのコントロールは、竜王だけではなく女王にも委ねられていた。竜王は転生によって島を不在になる期間がある。そのため竜王不在時にも島を動かせるような仕組みとなっているのだ。
だから島が動くことは不思議ではない。
だが、5つの島がそろって動くのは、空飛ぶ島の歴史が始まって千年近くになるが、これが初めてではないだろうか。
呆気にとられるアサヒの目の前に、真っ先に風をきって飛んできた深紅の竜が舞い降りる。
「……全く、我らが王にも困ったものだ。帰りが遅いから迎えに来てみたのだが。大正解だったようだな」
「ヒズミ!」
全速力で竜を駆ってきた割には涼しい顔をしている年上の男を見上げ、アサヒは絶句した。
様子がおかしいことに気付いたアネモスが声を上げた。
「ちょっと何その血?! 水竜王、癒しの魔術は得意だったよね?」
「勿論だ。しかし反対の属性である炎竜王には、私の魔術が効く保証は無い」
「なんでそう無駄に偉そうなんだよ! ああもう、僕は癒しの魔術は得手じゃないんだ!」
青い竜の背でアネモスは慌てふためいた。
水竜王ピンインは相変わらずマイペースでふんぞり返っている。
アサヒの方は自分で自分の吐血にショックを受けていて、それどころではない。
「ふん……」
一緒に脱出した光竜王ウェスぺは、4人の竜王から距離を置いていた。彼は不機嫌そうに鼻を鳴らすとそっぽを向く。黄金の竜は身をひるがえして飛び始めた。
「え?! ウェスぺ、逃げるのかい?」
「付き合ってられるか」
なんと。
光竜王ウェスぺは仮にも助けたアサヒ達を置いて、自分だけさっさと帰ってしまった。
引き留めようとしたアネモスが憤慨する。
「なんだアイツ! 最悪だな!」
「アネモス、今はあの柱をどうにかしないと」
「何言ってるんだ。無理しないで一度引き上げたほうが」
竜を寄せて話していると、水竜王の乗る朱色の竜も身体を寄せてきた。同乗している土竜王スタイラスが言う。
「いや、可能なら今のうちに攻撃を加えた方が良い」
「どうして?!」
「あの毒の霧の発生速度から計算すると、数時間でこの一帯は濃い毒の雲に包まれる。そうなると、風竜王が風で吹きはらえる量を越える」
スタイラスの言葉を聞いたアサヒは、竜の背中で再び立ち上がって、手のひらをズボンに擦り付けて血をぬぐう。
「守りを固められると厄介ってことだろ。せめて今の内に一本くらいは撃破しておかないと」
戦意に反応して金色の火の粉がアサヒの足元に舞いおどる。
納得がいかない顔をしているアネモスだったが、スタイラスは無視してアサヒに向かって話しかけた。
「炎竜王、あの石柱は上からではなく、側面から攻撃した方が良い。水竜王が海の渦に干渉して、石柱を斜めにしてくれるそうだ」
スタイラスの手前でピンインが「お安いご用である」と威張っている。
アサヒは海面に垂直に立つ5本の石柱を改めて見つめた。確かに側面から攻撃して、可能なら横倒しにした方が良さそうだ。
「風竜王、お前の気持ちは分かるが炎竜王には攻撃してもらわなければならない。霧が炎を遮らないように気流を操作してくれるか」
「……撤退のタイミングを誤らないでね、皆。アサヒは限界だよ」
「大丈夫だって」
なおも心配そうにするアネモスをアサヒは強引にさえぎった。
「やろう」
作戦提案者の土竜王スタイラスは、ピンインと共に海底の地面を揺り動かして石柱に影響を与えられないかやってみるつもりらしい。アサヒの出番は他の竜王の準備が終わってからトドメの一撃を叩きこむことだ。
「内なる大気、外なる原石……」
風に乗ってスタイラスの低い声が聞こえてくる。
竜王の魔術は無限の大気を介して、形なき世界の意思にアクセスするもの。アサヒにとってそれは宇宙であり、光竜王ウェスぺにとっては光陰、水竜王ピンインにとっては母なる海、風竜王アネモスにとっては時空、土竜王にとっては大地であるが、全て同じものを指している。
二人の竜王の魔術によって、石柱が揺れ始める。
残念ながら地震と大波だけで横倒しにできるほど簡単ではないようだ。最終的にアサヒが炎で側面を叩く必要があるだろう。
様子を見ながらアサヒはゆっくり詠唱を始める。
「そは人を裁きし」
古代、炎は人にとって容易く利用できるものでは無かった。
ライターもマッチもなく、限られた道具で炎を発生させるのは難しい。
「天の炎」
だから昔の人にとっては料理に使う火よりも自然が起こす火、雷の後の火災の印象の方が強い。天災の炎は人々にとって理由の分からぬ天の神の怒りであった。
「神々が下せし……」
アサヒの額に汗が伝う。
身体が熱いのに汗は冷たい。背中がぐっしょりと汗で濡れている気配がする。急激に体力を消耗し、生命力で補おうとしていることに気付いたが、魔術を途中でキャンセルすることはできなかった。
「天炎金槍」
魔術を解き放つ瞬間、視界がゆがむ。
目眩だ。
その一瞬でアサヒは自分の魔術が失敗したことを悟った。
「うまくいったか?!」
他の竜王が石柱に注目する中、アサヒはよろめき、竜の背中に崩れ落ちた。
「一本、傾いてヒビが入ってる。あと少しみたいだ。アサヒ?」
「大丈夫……」
「そんな青い顔で何言ってるんだ! どうみたって大丈夫じゃないよ!」
撤退しようと騒ぐアネモス。
その時、海面に突き出た石柱では異変が起こっていた。
傾いた石柱が元に戻り始める。
アサヒが傷つけた石柱の傷がゆっくりとふさがり始めた。
「そんな……?!」
いつの間にか、アサヒ達、竜王を取り囲むように、ゆるゆると毒の雲が迫っている。目の前だけではなく、遠回りして後ろからも。
死の気配が近い。
アサヒは荒い息を吐いた。
最後の力を使って石柱に攻撃するか、他の竜王のために毒の雲を炎で蒸発させて血路を開くか。
最後?
死を覚悟してるのか、俺は。
死は恐ろしい。
当たり前のことだけれど、どうなるか分からない無明の闇で一人きりになるのは怖い。転生して次がある? 本当に?
ふと、アサヒは灰色のコンクリートの街並みを思い出す。あそこは、至るところに機械がある世界だった。
機械によって便利な生活をしていて、衣食住に不自由しなかったように思う。生まれた家は一般家庭で両親もいたと思うが、今となっては具体的に思い出せない。
セピア色の思い出の中で、アスファルトに舗装された道を歩いていた自分は、途中で立ち止まる。
帰らないと……どこへ?
ここは自分のいるべき世界ではない。
地球で生きていた頃は、いつも心のどこかでそう感じていた。
では帰るべき場所はどこにあるのか。
夢の中で誰かが自分を呼ぶ。
帰ってきて、と言って繰り返し呼ぶ声が聞こえる。
こんなところで死にたくない。
俺の帰る場所は……
『……どうやら痺れを切らして迎えに来たようだぞ、盟友よ』
「え?」
思わずアサヒは顔を上げた。
疲労の限界で少しの間、幻を見ていたらしい。
気が付くと空の上でアサヒは竜の背で膝をついている。海には相変わらず石柱がそびえたっていた。
いや、状況が少し変化している。
風に乗って無数の鳥の羽ばたきのような音が聞こえた。
ヒューヒューと空を切り裂く音が近付いてきている。
「アサヒ、あれを見て!」
アネモスが腕をさす方向を見る。
そこには空を飛ぶ竜の群れの姿があった。形も色もとりどりの竜の背には武装した男達が乗っている。彼らはアサヒ達を取り巻く毒の雲を魔術で払いながら進軍してきていた。
そして竜に先導されるように、巨大な5つの島が姿を現す。
空飛ぶ島には、島の位置をコントロールできるよう魔術が組み込まれている。そしてそのコントロールは、竜王だけではなく女王にも委ねられていた。竜王は転生によって島を不在になる期間がある。そのため竜王不在時にも島を動かせるような仕組みとなっているのだ。
だから島が動くことは不思議ではない。
だが、5つの島がそろって動くのは、空飛ぶ島の歴史が始まって千年近くになるが、これが初めてではないだろうか。
呆気にとられるアサヒの目の前に、真っ先に風をきって飛んできた深紅の竜が舞い降りる。
「……全く、我らが王にも困ったものだ。帰りが遅いから迎えに来てみたのだが。大正解だったようだな」
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