ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

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エピローグ

01 いつか時の果てで

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 水竜王ピンインは、水の島アントリアで軟禁状態になっていた。勝手に島を出ていった件で、怒った竜騎士達に「しばらく外に出ないでください」と見張りを付けられてしまったのだ。

「これでは、あの後どうなったか分からぬではないか!」

 プンプンと不満を述べるピンイン。
 世話係に任命されたセイランは子供のように駄々をこねる竜王をなだめながら、相槌をうった。

「そうですね。アサヒがどうしているか、気になります。最後の魔術で力を使い果たして倒れたんですよね?」
「そうだ。あれくらいで炎竜王が死ぬとは思えんが、万が一ということもある。昏睡しておったし、後遺症が残っておらんか心配だ」

 アントリアの空は、島の天辺から降り注ぐ噴水のような透明な水の壁の向こうにあって、陽光は水の壁で穏やかに屈折して木漏れ日のように見える。
 空を見上げながら水竜王は唇を尖らせた。

「結局、我が宝物である海神の玉は取り戻せなかったし」

 石柱を破壊した後、竜王はそれぞれ自分の島に戻った。
 その時に、うっかりしていたピンインは、ウェスペがどさくさに紛れて海神の玉を持って行ったことに気付かなかったのだ。

「あやつめ~!」
「5つの島の距離が近くなったのです。追及する機会も今後、出てくるでしょう」

 今まで長い歴史の中で、距離をとって浮かんでいた5つの島が、現在は飛竜一日以内の距離で並んで浮かんでいる。
 アントリア、リーブラ、ピクシスは同盟を組んで、アウリガとコローナに敵対していたはずだが、今、5つの島の間に敵意や殺意は無かった。穏やかな空気が島の間を流れている。
 もちろん、各島の民の中には、身内を殺されたりして他の島の者が赦せないと思っている者もいるだろうが、それより今ある平和を享受しようと考える者が多くなっているようだった。
 これから先、5つの島の関係がどのように変化していくのか。
 それは竜王達の判断に掛かっている。





「天覇同盟は破棄だからね」

 光の島コローナで、光竜王ウェスペと風竜王アネモスは向かい合って話をした。
 お互い言いたいことは分かっているが一応、言葉にしておかないと気が済まないのだ。

「そもそも僕は同盟に賛成した覚えなんかないし。というか、僕に謝罪は無し?!」
「謝罪が必要か? この頭を下げて貴様が納得するなら、いくらでも下げてやろう」
「きいーっ、憎たらしいーっ!」

 何事もなかったかのように堂々としているウェスペに、アネモスは「一回凹ませてやりたい」と心底思った。

「今後、一切、うちの島に入ってこないでよ。ウェスペ、僕は君が大嫌いだ」
「心得ておこう」

 平静な顔で頷くウェスペに、もう言うことはないとアネモスは早々に退出しようとした。
 竜王の会談は他の竜騎士や一般人が入ってこないよう、ウェスペの私室で行われた。瀟洒な家具が置かれた室内に目を走らせたアネモスは、机の上に置かれた蒼い宝玉を見た。

「……早めに、世界に還してあげなよ。時間を止めたままだと、生まれ変われなくなる」

 宝玉の中に眠る魂に気づいたアネモスは、それだけ言って部屋を出た。ウェスペがどんな顔をしているか興味はあったが、後ろは振り返らない。凹ませてやりたい程憎い相手だが、プライベートに踏み込んで悪意を持って傷つけるのは違うと思ったからだ。
 風竜王が退出した後、ウェスペは額に手をあてた。

「お前に会いたいぞ、ルーク。竜王となって数百年以上経つのに、いまだにこんな気持ちを味わうことになるとは。だから親しい人間は作らなかったというのに」

 理を捻じ曲げて死した側近を復活させてみようか、と少し考える。
 風竜王は「馬鹿なことを」と怒るだろうが……炎竜王は、あの男はどう言うだろうか。意外と「別に良いんじゃないか」と言いそうな気がする。
 そこまで考えて、ウェスペは側近を復活させる必要が無いことに気付いた。あんなに激しく募っていた地上への想いはどこかへ消えてしまっている。悔しいことに、今のウェスペは孤独ではないのだった。
 ウェスペは立ち上がると、蒼い宝玉を窓辺に持っていく。
 そうして、白亜の都を照らす陽光に宝玉をさらした。

「また会おう、ルーク。いつか時の果てで、我らは必ず巡り会うだろう……」

 宝玉の中の魂が光の粒となって、無限の大気エアに溶けていくのを、ウェスペは穏やかな表情で見送った。





 ピクシスの竜騎士カズオミ・クガは、数日ぶりに土の島から故郷に戻ってきた。
 最近、土の島に入り浸りになっている。もともと工作好きのカズオミにとって、技術者の多いリーブラは色々勉強になるし気の合う者も多く楽しい場所なのだ。

「ただいまー」

 土竜王から持たされたお土産を持って、王都アケボノにある学院の寮の扉を開く。
 古い寮は取り壊しが始まっていて、今はアサヒが用意した新しい寮が正式な寮になっていた。
 久しぶりに足を踏み入れた寮は静かだった。

「あれ? 誰もいないの?」

 しーんと静まりかえった建物の空気に、カズオミは不安を覚える。
 玄関を見回すと、なぜかカズオミを出迎えるように小さな亀が玄関のカーペットの上に鎮座していた。

「……」

 無言で亀と見つめあうカズオミ。
 固まっていると、後ろの扉が再度バタンと開いた。

「何をやっているのだ、カズオミ・クガ」
「あ、ハルト・レイゼン……」

 振り返ったカズオミは、赤毛の若者と目があってびっくりした。
 渦巻き眉毛が特徴の彼はアサヒの友人のような位置にいるが、身分差があってカズオミにとっては話がしにくい相手だ。今も呼び捨てにしちゃったよ、と内心あわてている。

「あわわ」
三等級テラが俺の名を呼び捨てにするとは」
「すいませんっ!」
「ふん、別に構わん。どうせアサヒは気にしないだろうからな」

 ハルトはカズオミの謝罪を鷹揚に受け入れると、帰省の荷物を持ったカズオミを眺めた。

「さっさと荷物を置いて付いてこい。ああ、その土産は持ってこいよ」
「どこへ……?」
「決まっているだろう」

 急かされるままカズオミは荷物を亀の横において、訳知り顔のハルトと共に寮を出た。


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