フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
111 / 126
不屈の剣

108 新しい剣が出来上がりました!(9/30 改稿)

 焚き火の灰にサツマイモを埋めておいた。
 ちょうど、ほっくほくの食べ頃じゃないかな。
 俺は灰の中から焼き芋を掘り出した。
 
「ルクスの作ったご飯は、美味しいから好き!」
 
 幼馴染みは満面の笑顔で、焼き芋を食べている。
 少女の着ているモスグリーン色のスカートの上に、紅葉がふわりと落ちた。栗鼠がドングリを抱えて、チョロチョロ走ってく。すっかり秋だな。
 ここは、俺が人間の少年だった頃によく遊んだ、故郷の森だ。
 ということは、これは夢なのかな。
 焼き芋を食べたいけど、食べてしまったら夢から覚めるかもしれない。だいたいご飯にかぶりつく瞬間に夢は覚めるものだ。
 
「食べないの?」
「俺は遠慮しとく」
 
 蜂蜜色のサツマイモの断面を見ながら、よだれを飲み込んで我慢する。断面からは、良い匂いのする湯気が立ち上っていた。
 現実で実物が食いたい。
 
「変なのー」
 
 ころころ笑う少女の瞳は、明るい金色だった。
 あれ? こいつって、赤い髪と目をしてなかったっけ。
 
「ルクスが食べないなら、私がルクスの分まで食べちゃうよ?」
「タベチャウゾー」
 
 途中で変な声が入った。
 誰の声だろう。
 幼馴染みの声と重なって聞こえる。
 
 
 
 
「アサゴハン、タベチャウゾー」
「……うわっ」
 
 俺は汗をびっしょりかいて、飛び起きた。
 お腹の上からビヨーンと何かが跳ねる。
 
「マスター、オハヨウ、オハヨウ!」
「うわっ……ってなんだ、エムリットじゃないか」
 
 布団から這い出し、ベッドから降りて、床を転がるエムリットを持ち上げる。
 
「おはよう、エムリット」
「グッモニーン。マスター、ユメ、ミテタ?」
「夢?」
「ウナサレテタ」
「何かあったっけ……?」
 
 エムリットを持ち上げている間に、寝ている間に見ていた夢の残滓は、さっぱり消え去っていた。
 落ち着いて周囲を観察すると、そこは物置のような部屋だった。
 床の上には工具が散乱し、壁際には壊れた時計が積み重なっている。
 
「起きたのか、ゼフィ」
 
 イヴァンが部屋に入ってきた。
 
「おはよう、イヴァン。俺どのくらい寝てた?」
「三日だ」
「そんなに?!」
 
 市長のバーガーさんにお酒をすすめられて、その後の記憶が無い。
 
「ここどこ?」
「ここは、南の時計地獄クロックヘルだ」
「え?」
 
 ニダベリルじゃないの? という俺の疑問を察したのか、イヴァンは暗い表情だった。
 
「ゼフィが酒に酔ったついでに魔物を一時的に追い払った後、俺たちとゴッホさんガーランドさんは時計地獄クロックヘルに、市長のバーガーさん率いる一部の大地小人は別の場所へと、ニダベリルから避難を開始した」
「避難? 市長さんはニダベリルを放棄する判断をしたの?」
「魔物の攻撃で、ニダベリルを囲む壁はだいぶ薄くなっていたから、突破されるのは時間の問題だった」
 
 イヴァンの説明に、俺の眠気はすっかり覚めた。
 寝ている間にいろいろあったんだな。
 
「それじゃ今、ニダベリルはどうなってるの?」
「つい先ほど、壁が破られて街の中に魔物が侵入したらしい。逃げ遅れた大地小人たちは、邪神ヒルデに本にされているかもしれない」
「そんな!?」
 
 俺は急いで身なりを整えて、部屋から飛び出した。
 
「兄たん、師匠!」
 
 クロス兄は通路で丸くなっており、師匠のヨルムンガンドは石のお椀の中を水で満たして、お風呂に入っていた。
 
「なんだゼフィ、起きたのか。調子はどうだ?」
「兄たん、俺、大地小人の皆を助けに行く!」
「起きたばかりなのにゼフィは忙しすぎるぞ!」
 
 クロス兄は、わたわたして俺を止めようとした。
 師匠のヨルムンガンドが、ゆったり水に浸かりながら言う。
 
「フェンリル兄は、過保護じゃのう~」
 
 本当にな。
 俺は深呼吸して、クロス兄の青い眼を見上げた。
 
「兄たん、俺、大地小人を助けに行きたい。だって気になるんだもんっ」
 
 正面から訴えると、クロス兄は「うっ」とたじろいだ。
 
「うう、ゼフィの可愛さで、思わず許可してしまいそうだ」
 
 このまま兄たんを丸めこんじゃえ!
 そう、意気込んでいると。
 
「――うおおおっ、できたーーっ!」
 
 急に誰かの大声が響き渡った。
 ゴッホさんの工房のある辺りで、ガラガラと物が崩れる音がする。
 何事ですか。
 
「できたぞ! 最っ高の剣だ!」
 
 工房から知らない人が出てくる。ゴッホさんじゃない。
 誰だ?
 
「おい、お前!」
「はい?」
 
 その男性は目の下にものすごい隈を作っていた。
 尋常ではない剣幕で俺に向かって歩いてくる。
 そしてズバッと勢いよく、手に握った棒をこちらに突き出した。
 
「二度と折るんじゃねえぞ」
「あ」
 
 それは、修理をお願いしていた愛剣・天牙だった。
 
「ど、どうも。って大丈夫?!」
 
 男性は俺に天牙を渡すと、地面に倒れて豪快な寝息を立て始めた。
 イヴァンが苦笑して補足する。
 
「ほら、水車を見に行った時に助けた人だよ」
「言われてみれば、そんなやついたな」
「鍛冶の心得があると言って、ガーランドさんと一緒にゼフィの剣を打ってたんだ」
  
 おかげで一週間かかるはずが、三日で作業が終わったらしい。
 
「ありがとう! これで邪神もまっぷたつだよね?」 
「おいこら、ゼフィ!」
 
 新しい剣で早く魔物を試し切りしてみたいなあ。
 俺は喜びいさんで駆け出した。
 慌ててクロス兄が追ってくる。
 走りながら、俺は天牙を鞘から抜いた。
 新しくなった刀身は見た事のない澄み切った空色で、金粉をまぶしたような輝きを放っていた。
感想 107

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。