48 / 159
第二部 時空越境
48 二人の出会い
しおりを挟む
アウロラ帝国で枢たちが魔族と戦っていた時。
心菜はひとり、霧で白く染まった森を歩いていた。
「枢たん、浮気してないかなあ」
歩きながら、心菜は枢との出会いについて思い出していた。
やんちゃ盛りな中学時代、心菜は「番長」がマイブームで、ノリの良い男子数人を従えて謎の派閥を作っていた。表向きは平凡なバスケットクラブで、心菜はマネージャーだったのだが。
「ピーチラムネを十本買ってくるのです!」
「はい、心菜さん!」
マネージャーが部員をパシらせる謎の部活になっていた。
「書道部が部室を返してくれ、って言ってるぞ」
そんなやりたい放題の心菜の前に現れて、鼻柱を折ったのが枢だった。書道部員に頼まれて交渉に来たのだ。
「やなこった、です! 部室を返して欲しければ自分で来やがれ、です」
「お前、髪の毛ふわふわだなー。家で飼ってるゴールデンレトリバーみたいだ」
「ちょ、勝手に頭を撫でないで下さい!」
威嚇しても全く動じない枢に頭を撫でられて、心菜は不覚にもときめいた。
「ふぉーりんらぶ……」
「な?! うちの部のアイドル心菜さんがーっ!」
ショックの悲鳴でバスケット部員の心中が明かされる。彼らは心菜の可愛さに従っていたらしい。
腕力で従えていたつもりの心菜はがっかりだ。
「近藤さん、私は書道部の要求を飲んだ訳ではないですよ!」
「まあ落ち着いて桃シュークリームでも食えよ」
「い、いただきます」
子犬でも見るような目で、微笑ましそうに心菜を眺める枢。恋愛経験値の低い心菜にだって分かる。相手にされてない。女だと思われてない。
「負けてたまるものかー!」
地道なドリブルを重ね、会話のボールを奪って、何とかシュートを叩き込み、枢を落とした頃には……すっかり書道部の部室の件を忘れていた。
好きになったのは心菜の方からだった。
枢の独特の寛容さは、不思議と女性に好意を抱かせる。無自覚に女性を惹き付ける彼を見て、心菜はいつも焼きもきしていた。
本人は浮気だと思っていなくても、異世界で女の子を引っ付けている可能性がある。
「枢たん、どこーーっ?!」
森の中で叫ぶ心菜。
叫びは深い森にこだましていく。
ここはウェスペラという国があった場所。
異世界に落ちてきてしまった心菜は、どこに行けばいいか分からないまま、ひとまず自分の出身地を目指していた。枢なら探しに来てくれるだろうと思ったので、行きたいところに行くことにしたのである。
「それにしても、もともと田舎の国でしたが、ますます秘境になっているのです」
ウェスペラは森林の奥、湖のほとりに建てられた小さな国だった。
旅の途中に聞いた話によると、魔族が国王夫妻を殺し、国を乗っ取ったそうだ。国民はほうぼうに逃げ出し、今は植物に覆われた廃墟だけが残っているそうな。
魔族の根城になっているので、旅人も近付かない地域になっているらしい。
心菜は用心しながら、森の中の廃墟に足を踏み入れる。
「本当に滅んでしまったのですか……あ、暁に鳴る鐘が残ってますね」
廃墟の中央に高い建造物があって、金色の鐘が吊るされていた。
毎朝、虹の神イーリスに祈りを捧げるために鳴らしていた鐘。
赤茶色の血のような染みがこびりつき、錆び付いた鐘を見て、心菜は眉をひそめた。
「レナ……レナじゃないか。待ち続けていた甲斐があった」
突然、若い男性の声がした。
建物の屋根に、フードを被った男性が出現する。
「誰ですか?」
心菜は日本刀を召喚しながら、男性に問いかけた。
「僕だよ、カインだ、レナ。君の婚約者さ」
男性はフードを取った。
銀髪に紅い瞳の、整った容姿がフードの下から現れる。肌に走る奇妙な紋様と、身にまとう淀んだ魔力からして、魔族と思われる。
心菜の異世界での名前「レナ」を知っているということは、異世界で生きていた頃にしつこく言い寄ってきた男、カイン本人に違いないようだ。親同士の決めた婚約者とは言え、枢以外と結婚をするつもりのなかった心菜は生涯独身を押し通した。
心菜の知っているカインは人間だった。
魔族ではなかったはず。
「勘違いです人違いです貴方なんか知りません!」
心菜は後退りして、逃げ出そうとした。
「はははっ、逃がさないよ、レナ! 僕は魔族となり、百年以上ここでずーっと待っていたんだ!」
廃墟を覆う蔦がわらわらと動いて、心菜の行く先を阻む。
「予言の通り、生まれ変わった君はここに現れた。僕らは結ばれる運命なんだよ!」
カインは暑苦しい視線で心菜を凝視する。
まさか、こんなところで根暗なストーカー野郎と再会するとは思っても見なかった。
植物の壁の前で立ち止まった心菜は、鞘から日本刀をすらりと抜く。
くるりと振り返って、刀を正眼に構えた。
「枢たんに誤解されないように、ここで貴方を始末します……!」
「やはりそう来るか。それでこそレナ、ウェスペラの戦巫女だ。僕は今度こそ君を手にいれる」
カインは嬉しそうに笑う。
不気味なオーラが足元から立ち上った。
「……私の好きな人は今も昔も枢たんオンリーなのです! そこをどけーーっ!」
白銀の刀身をかかげ、心菜は鋭い気合いの声と共に、男に切りかかった。
心菜はひとり、霧で白く染まった森を歩いていた。
「枢たん、浮気してないかなあ」
歩きながら、心菜は枢との出会いについて思い出していた。
やんちゃ盛りな中学時代、心菜は「番長」がマイブームで、ノリの良い男子数人を従えて謎の派閥を作っていた。表向きは平凡なバスケットクラブで、心菜はマネージャーだったのだが。
「ピーチラムネを十本買ってくるのです!」
「はい、心菜さん!」
マネージャーが部員をパシらせる謎の部活になっていた。
「書道部が部室を返してくれ、って言ってるぞ」
そんなやりたい放題の心菜の前に現れて、鼻柱を折ったのが枢だった。書道部員に頼まれて交渉に来たのだ。
「やなこった、です! 部室を返して欲しければ自分で来やがれ、です」
「お前、髪の毛ふわふわだなー。家で飼ってるゴールデンレトリバーみたいだ」
「ちょ、勝手に頭を撫でないで下さい!」
威嚇しても全く動じない枢に頭を撫でられて、心菜は不覚にもときめいた。
「ふぉーりんらぶ……」
「な?! うちの部のアイドル心菜さんがーっ!」
ショックの悲鳴でバスケット部員の心中が明かされる。彼らは心菜の可愛さに従っていたらしい。
腕力で従えていたつもりの心菜はがっかりだ。
「近藤さん、私は書道部の要求を飲んだ訳ではないですよ!」
「まあ落ち着いて桃シュークリームでも食えよ」
「い、いただきます」
子犬でも見るような目で、微笑ましそうに心菜を眺める枢。恋愛経験値の低い心菜にだって分かる。相手にされてない。女だと思われてない。
「負けてたまるものかー!」
地道なドリブルを重ね、会話のボールを奪って、何とかシュートを叩き込み、枢を落とした頃には……すっかり書道部の部室の件を忘れていた。
好きになったのは心菜の方からだった。
枢の独特の寛容さは、不思議と女性に好意を抱かせる。無自覚に女性を惹き付ける彼を見て、心菜はいつも焼きもきしていた。
本人は浮気だと思っていなくても、異世界で女の子を引っ付けている可能性がある。
「枢たん、どこーーっ?!」
森の中で叫ぶ心菜。
叫びは深い森にこだましていく。
ここはウェスペラという国があった場所。
異世界に落ちてきてしまった心菜は、どこに行けばいいか分からないまま、ひとまず自分の出身地を目指していた。枢なら探しに来てくれるだろうと思ったので、行きたいところに行くことにしたのである。
「それにしても、もともと田舎の国でしたが、ますます秘境になっているのです」
ウェスペラは森林の奥、湖のほとりに建てられた小さな国だった。
旅の途中に聞いた話によると、魔族が国王夫妻を殺し、国を乗っ取ったそうだ。国民はほうぼうに逃げ出し、今は植物に覆われた廃墟だけが残っているそうな。
魔族の根城になっているので、旅人も近付かない地域になっているらしい。
心菜は用心しながら、森の中の廃墟に足を踏み入れる。
「本当に滅んでしまったのですか……あ、暁に鳴る鐘が残ってますね」
廃墟の中央に高い建造物があって、金色の鐘が吊るされていた。
毎朝、虹の神イーリスに祈りを捧げるために鳴らしていた鐘。
赤茶色の血のような染みがこびりつき、錆び付いた鐘を見て、心菜は眉をひそめた。
「レナ……レナじゃないか。待ち続けていた甲斐があった」
突然、若い男性の声がした。
建物の屋根に、フードを被った男性が出現する。
「誰ですか?」
心菜は日本刀を召喚しながら、男性に問いかけた。
「僕だよ、カインだ、レナ。君の婚約者さ」
男性はフードを取った。
銀髪に紅い瞳の、整った容姿がフードの下から現れる。肌に走る奇妙な紋様と、身にまとう淀んだ魔力からして、魔族と思われる。
心菜の異世界での名前「レナ」を知っているということは、異世界で生きていた頃にしつこく言い寄ってきた男、カイン本人に違いないようだ。親同士の決めた婚約者とは言え、枢以外と結婚をするつもりのなかった心菜は生涯独身を押し通した。
心菜の知っているカインは人間だった。
魔族ではなかったはず。
「勘違いです人違いです貴方なんか知りません!」
心菜は後退りして、逃げ出そうとした。
「はははっ、逃がさないよ、レナ! 僕は魔族となり、百年以上ここでずーっと待っていたんだ!」
廃墟を覆う蔦がわらわらと動いて、心菜の行く先を阻む。
「予言の通り、生まれ変わった君はここに現れた。僕らは結ばれる運命なんだよ!」
カインは暑苦しい視線で心菜を凝視する。
まさか、こんなところで根暗なストーカー野郎と再会するとは思っても見なかった。
植物の壁の前で立ち止まった心菜は、鞘から日本刀をすらりと抜く。
くるりと振り返って、刀を正眼に構えた。
「枢たんに誤解されないように、ここで貴方を始末します……!」
「やはりそう来るか。それでこそレナ、ウェスペラの戦巫女だ。僕は今度こそ君を手にいれる」
カインは嬉しそうに笑う。
不気味なオーラが足元から立ち上った。
「……私の好きな人は今も昔も枢たんオンリーなのです! そこをどけーーっ!」
白銀の刀身をかかげ、心菜は鋭い気合いの声と共に、男に切りかかった。
155
あなたにおすすめの小説
異世界をスキルブックと共に生きていく
大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました
まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。
ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。
変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。
その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。
恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる