セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉

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第四部 星巡再会

114 新たなスキル

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 俺は「どうしよう」と後悔していた。
 すごく間抜けな話なのだが、頭が大聖堂の天井につっかえて身動きが取れない。
 体は水晶とおぼしき透明な鱗に覆われた竜のもの。背中に翼があるようなんだが、屋内では使えない。鍵爪の付いた手足をみっともなく折り畳んで、皆を踏み潰さないように縮こまるしかない。
 というか、なんでセーブクリスタルと合体してドラゴンになるんだ?! 意味わかんねーぞ!
 
「枢たん……ですよね?」
 
 足元で、心菜がキラキラした目で見上げてくる。
 
『う、うん』
「すごい! 格好いいです!」
 
 ありがとう……だが俺はセーブポイント転生以来の珍事に早くも心折れて泣きそうだ。ドラゴンの体が動かしにくいったら無い。
 人間に変身できれば良いのだが、セーブクリスタルだった時に変身魔法だけは取得できなかったので、変身系のスキルを持っていない。
 
『心菜……俺、屋内から出られそうにないから、あと千年くらい、いろいろ諦めて引きこもるよ……』
「何言ってるんですか?! 皆の石化を解いたり、ミッションが残ってるでしょう!」
 
 彼女の言う通りなんだが、この格好を皆にさらすの、嫌だなあ。
 
「分かりました。プランCです」
『何のプランだ。事前に聞いてねーぞ』
「細かいことは良いじゃないですか。この大聖堂の天井を壊して、枢たんは大空に羽ばたくのです。そして皆を石化から解放し、悠々と去っていくのでした」
『おい』
「そして山奥で、可愛い恋人と幸せなドラゴン生活を開始するのです!」
  
 そういう漫画あったような気がするな……。
 
『天井を壊すのは却下だ』
「なぜですか?!」
『ここの建物の修繕費、セレロン金貨、百万枚要るんだよ……』
 
 お前払えるか? 払えないだろう。
 アダマス王国の貴族や、外国の資産家が寄進した莫大な費用で大聖堂は建造されているのだ。
 
「では、枢たんが小さくなるのみです」
『おい心菜、その手の刀は』
「覚悟!」
 
 切り刻んであげます、と抜刀して微笑む心菜に恐怖した俺は、狭い屋内で逃げ場所を探してアワアワした。
 
『あ』
 
 グラリと傾いだ体が、無数の水晶の欠片に分解する。
 水晶の破片は細氷のように空中に溶けて消えた。
 そして、その一瞬の後、俺は人間の体に戻っていた。
 服装は竜になる直前のままだ。
 床に尻餅を付いて唖然とする俺の前に浮かぶ、システムメッセージ。
 
『経験値が再計算されました。レベルが加算されます。新たにスキル"晶竜転身"、"青晶眼"を習得しました』
 
 レベルが一気にLv.1205に上がった。
 Lv.999になってから溜まり続けていた経験値が、レベルに昇華されたようだ。
 それにHPとMPが回復して満タンになってやがる。
 追加されたスキル「晶竜転身」は、竜に変身する技だ。スキルの説明文を読むと、厳密には水晶で竜体を作成し、意識をそちらに移す技らしい。服装などが変わらないのは、俺の肉体は変化せずに水晶に取り込まれている状態だからのようだ。竜に変身している間は、物理攻撃を受けても精神攻撃を受けても自分のレベル以下なら無効になるらしい。
 そして「青晶眼」は、霊体など肉眼で見えないものを見通し、手で触れたりできるようになる。シノノメを捕まえたのは、このスキルの効果なのだろう。
 
「戻れて良かったですね、枢たん!」
「うわっ」
 
 心菜は、空中のメッセージを見上げる俺の体に乗っかって、俺の顔に両手を伸ばし、のぞきこんできた。
 
「目の色が、爽やかブルーになってますね」
「嘘?!」
 
 副作用か? 他に容姿が変わってるところがないのだろうか。鏡を見るのが怖い。
 頬をペタペタ触ってくる心菜の手をやんわり押し戻し、立ち上がる。
 
「皆を元に戻さないとな」
 
 俺は「解呪リリース」と唱える。
 MPが回復していたおかげで、アダマスの国の隅々まで魔法を行き渡らせることができた。
 街に喧騒が戻ってくる。
 石化していた神官たちも元に戻り、床で寝ていた椿が起き出した。
 俺の姿を見て、真は安堵したように苦笑する。
 
「やっぱり枢っちが助けてくれたんだな。まあ、そうなるかと思ってたけど……ところで枢っち、ステータスどうしたん?」
「へ?」
 
 何かおかしい事があるだろうかと自分のステータスに目を走らせて、気付いた。
 偽装が解除されている。
 もう一人の自分との統合の際に、状態がリセットされたらしい。
 今は偽装していないデフォルトのステータスが表示されている。誰でも見られる簡易ステータスは「聖晶神アダマント Lv.1205」、鑑定が成功すれば「近藤 枢 Lv.1205 種族:神族 クラス:聖晶神アダマント」とスキル称号諸々が見放題だ。
 
「恥ずかしいから見るなーっ! 今すぐ偽装するから!」
「ふはっ、枢っちの素のステータス見ちゃった」
 
 真がニヤニヤ笑いを浮かべる。
 後ろの壁際の神官たちが「ありがとうございます聖晶神さま」と密かに手を合わせて俺を拝んでいた。やめろ。
 
 
 
 
 サナトリスはすっかり空気だった。
 彼女が黙っているのは、枢の隣に立つ栗色の髪の少女を見たからだ。
 少女は土埃に汚れた服を着ていた。擦り傷だらけの手に持った武器らしい細身の剣の鞘は、魔族のものらしい血で黒ずんでいる。栗色の柔らかそうな髪は乱れ、額は汗に濡れていた。
 きっと激しい戦いを潜り抜けたのだろう。
 疲労で立っているのもつらいはずだ。
 しかし、それにも関わらず、少女の笑顔は見ているこちらがハッとするほど、晴れやかで綺麗だった。
 
「あれが、カナメ殿の……」
「恋人の心菜よ」
 
 サナトリスの疑問に、黒髪の少女が答えた。
 彼女も枢の仲間で、名前は「ツバキ」と言うらしい。
 
「諦めない。へこたれない……だから枢の隣に立っていられるのかもね」
「そうか。それは、完敗だな」
 
 自分たちが不甲斐なく石化させられている間も、戦っていたのだろう。
 枢と一緒に。
 
「失恋したのか、私は。悲しくて悔しい気持ちになるかと思っていたが、そうでもないな」
 
 強い心菜が、枢の隣に立つのは納得ができる。
 ストンと胸に落ちるように、サナトリスはその事実を受け入れた。
 別にこれで枢との縁が切れる訳ではない。
 今まで通り、枢はサナトリスを旅の仲間として扱ってくれるだろう。
 
「……カナメ様! 宮廷魔術師が通信魔法で、救援要請を受けました」
 
 一同が少し和んでいると、大聖堂に神官が早足で入ってくる。
 
「同盟国タンザナイトが、魔神ベルゼビュートと、正体不明・・・・のダンジョンから出てきた軍勢の侵略を受けているとのことです。至急、各国に支援を求めると……」
「何?」
 
 石化させられる直前、魔神ベルゼビュートがタンザナイトに飛ぶから追いかけようと会話していた。だから、タンザナイトが魔神に襲われているというのは予想通り。
 だが、正体不明のダンジョンから出現した軍勢とは、何のことだ。
 枢も困惑した表情になっている。
 嫌な予感がした。
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