会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件 権力闘争編

もっちもっち

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パンデミック後の世界

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 ほんの数年前、大国同士が激しく貿易戦争を繰り広げており、首脳の一言やSNSでのつぶやきひとつで、他国が右往左往するような日々が続いていた。

 もっとも、それは国家間の話だ。一般国民はというと、大規模コンサートや世界的スポーツイベント、グルメに夢中で、いかに日常を楽しむかに余念がなかった。

 当時のわが国は、外交に極端に弱い阿相政権下にあり、大国の首脳の気まぐれな一言にも翻弄され、ついには政権がなぎ倒されそうなほどの窮地に立たされていた。

 だが、状況は思わぬかたちで変わる。「パンデミック」――その一言が世界を混乱の渦に叩き込んだことで、皮肉にも阿相政権はその危機を脱することになる。

 もちろん、誰かが突然「パンデミック」と叫んだわけではない。予兆はあった。ある都市で原因不明の熱病が流行し始めた、という報道が徐々に人々の耳に届くようになっていたのだ。

 やがて、国際機関が「パンデミック」を宣言。各国は一斉に国境を閉じ、航空便は止まり、観光もビジネスも姿を消した。さすがの大国も貿易戦争どころではなくなり、各国政府は国内の混乱収拾に奔走することになる。

 この未曾有の混乱は、外交下手な阿相政権にとってはまさに“渡りに船”だった。

 阿相元春は、もともと外交嫌いで、海外との往来を制限したいという本音を持っていた。若者が騒ぐイベントも嫌悪していたため、規制には容赦がなかった。

 阿相政権はこれ幸いとばかりに、外国人の入国を制限し、国民の行動を徹底的に管理した。大規模イベントは禁止され、感染者と接触すればその行動履歴を細かく追及された。十分に確保できないワクチンの予約に人々は殺到し、テレビでは毎日感染者数が速報される。旅行も飲食もカラオケもフィットネスもNG、果ては部活動や学校までもが止まった。

 経済への悪影響を懸念する声も上がったが、「パンデミック」の猛威がそれらをかき消してしまう。

 結果的に、阿相元春ら“年寄り”の強硬な判断が、国内の感染拡大を一定程度抑えたという評価につながり、政権は一時的に支持率を回復する。

 当然ながら、全国規模で人々が動く総選挙など論外とされ、任期満了以外の選挙はタブー視されるようになった。阿相政権は延命に成功したのである。

 そのころ、新革党の党首・渦川俊郎は、苦悩のさなかにいた。

 彼の政治的基盤は観光業であり、父が経営するホテルチェーンはパンデミックの打撃をもろに受け、ついには倒産に追い込まれた。
 いかに理想を掲げようと、世界規模の疫病の前では成す術もない。まぐれで支持を取り戻した民自党の前に、新革党は風前の灯火となった。

 それでも渦川はあきらめなかった。東奔西走し、打開策を模索した――が、ついに過労で倒れ、そのまま帰らぬ人となった。

 突然の党首の死。新革党は求心力を失い、民自党への吸収合併がささやかれるようになる。もともと民自党への反発を旗印に集まった政党である以上、リーダーなき今、統一の意思は続かない。

 老獪な阿相元春がこの隙を見逃すはずもなかった。阿相は、かつて新革党に属しながらも民自党との因縁が薄い古味良一に触手を伸ばす。

 渦川への忠義から迷う古味だったが、意外にも彼を説得したのは、渦川を敬愛していた緒川順子であった。

 緒川にとっても苦渋の選択だったが、渦川亡きあとを託せるのは古味しかいないと判断し、民自党への合流を受け入れるよう彼を説得した。もちろん、その背景には、阿相元春が緒川順子の実父であるという事実も影を落としている。

 そして――古味良一は緒川順子と結婚した。

 「パンデミック」に疲弊していた国民にとって、新革党の吸収と同時に報じられたこの結婚は一服の清涼剤となり、ワイドショーも新聞もこぞって報じた。(もちろん、裏の思惑や陰謀を匂わせる記事も乱れ飛んだ)

 こうして“ウルトラC”を決めた阿相政権は、倒れることなく、今なお続いているのである。
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