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第2巻 そして解散へ

コミ イズ チェンジド ザ コンシチュエンシイ

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 急遽、新革党の本部が赤坂の貸しビルの一室に置かれたが、そこで、総選挙へ向けた新革党の会合が行われた。新革党からの立候補者は現在10名を超えるが、何やら特別な言いつけがあるとかで、この日渦川の下に呼ばれたのは現職の4名だけであった。

「諸君、よく来てくれた。民自党と戦うにはあまりに寡兵だが、問題は兵の質だ」
 その質すら若輩の集まりだと世間は言っているし、自分でもそう感じている。
「新進気鋭な諸君らを持ってすれば、民自党という大兵にも勝負をできると私は確信している。しかし、兵糧尽きては兵も戦えない。そこでこれを受け取って欲しい」
 渦川がそう言うと、緒川順子から4名に紙袋を渡される。なにが入っているんだと思ってみてみると、現金で1000万円が入っていた。俺はこんなものが紙袋で渡される世界が本当にあるんだと一瞬めまいがした。
「先生、よくこんなに集めることができましたね。こっちの方はあまり期待していなかったのですが・・・」
 4名の中で一番当選回数の多い会田が心配そうに言う。
「今回だけだ。負けたら次回の分はない。だから是が非でも勝たなければならない」
 渦川にとって勝つとは、政党交付金の要件である国会議員5名を維持することだ。立候補者は10名を超えているが、そうそう当てにはできない。ここにいる5名は是が非でも勝たなければならないというのが本音だろう。

 それぞれが渦川に感謝の言葉を述べ、激励の言葉を受ける。そして、俺の番が来たとき一応礼を言っておこうと思ったら、とんでもないことを言い渡された。
「古味君。君には茨城で戦ってもらう」
「なんだって?」
 すっとんきょうな俺の声を聞いて、若手3名が凍り付く。そこには気を留めず渦川に詰め寄る。
「聞いていない」
「その通りだ。今日ここで始めて話したことだ」
 ははーん、この人は近畿地方の出身だから、千葉と茨城の位置関係がよくわかっていないんだな。よくあるある。今度、関東地方の地図でも広げて東京以外の県を全て言えるかどうか確かめてみたいものだ。
「言っておくが間違いなどではないぞ。君には茨城で戦ってもらいたい。だが、もし君に言い分があるのなら先に聞いておこうか」
「いや、だって前回当選したのは千葉だから」
「それなら君はその千葉の選挙区で地元民のために何かこれといった功績は上げたのかね?」
 そう言われると言葉に詰まる。いやっそれなら茨城に行ったって同じだろう。
「私もあてずっぽうで君に選挙区を変えろと言っているわけではないのだ。きちんと選挙情勢を分析した上でこの決定をしたのだ」
「選挙情勢を分析したというなら、どういう分析結果か教えてもらえますか?」

 渦川が煙草に火を付けて椅子に座った。俺はもちろん渦川の正面に座って下手なことを言おうものなら飛びかかろうと思っていたが、他の3名も同じように座って渦川の言を待つ。今まで民自党の中にいたから当選したというのは4名皆同じであって、果たして渦川の分析と言うのは信頼に足るものだろうか?
「まず。古味君。君の千葉での評判だが正直言って最低だ。ニートを煽ることには成功したかもしれないが、それがかえって一般の人たちの不評を買っている。なんでこんな騒ぎを起こす、乱暴な人を当選させてしまったのだろうと」
 俺はしばらくの国会議員の生活に慣れて当選したときのことは忘れてしまっていたが、確かに炎上の勢いに乗って当選しただけ、その性質が逆に一般の人を不安にさせているというのだ。
「だが、一方でニートを巻き込んで騒ぎを起こしたことで、世間での知名度を上げた。そして、ある意味で戦う若者のイメージを持たれたことも確かだ」
 むむむ、なんとなく言っている意味はわかる。つまり茨城に行けってことは。。。
「そうだ。敵は水園寺親子だ」
「ええっ」
 今度は3名がおかしな声を上げた。
 来たな。俺はニヤリとしたが。。。いや待て、あきらかにあの親子(特に息子の義光)は敵だと思うが勝てるかどうかとは別問題だ。あれだけ強固な地盤を築き、今まで挑んだ候補者はことごとく敗れてきたではないか。
「確かに地盤は強固だった。しかし、最近炎上騒ぎのただ中にいるご仁がいるのは君も知っているだろう」
「すると私が挑むのは」
「そうだ、父親の水園寺幸房の方だ」
 なるほど、火だるまの老人にけしかけられる獣の役目というわけか。現状、世論はあの親子には逆風かもしれない。地元の千葉でそんな評判じゃ、こっちに喧嘩を売った方が、確かに当選する可能性は高いかもしれない。
「それに・・・・君も炎上は得意だろう?」
 にやりと渦川が笑う。

 少し落ち着きを取り戻した頭で考える。渦川の考えを聞いて、あながち無謀な戦いってわけでもなさそうだ。まあ、どうせ次はないと思っていたわけだし(1000万円もらってしまったし)、最後の戦いだと思って水園寺親子に挑んでみるのも面白いかもしれない。
 俺は無言で渦川に了解を表し、急ごしらえの新革党本部を後にした。
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