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プロローグ
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俺の名前は古味良一(こみ・りょういち)、30歳、独身。ほんの数週間前まではごく普通の会社員だった。
千葉県の片隅に一人暮らしをしながら、数年続けた食器の訪問販売の仕事を退職し、衆議院議員選挙に立候補――そして、なぜか当選してしまった。明日から俺は“政治家”になる。
昔から政治や討論番組を見るのが好きで、仕事帰りには晩酌しながらテレビのニュース番組をハシゴするのが日課だった。
そして、画面の向こうの議員たちを見ながら、「俺でもできるんじゃないか」とか「こんなに金もらえるなら、会社辞めてやる」なんて、酒の勢いで勝手なことをブツブツ言っていた。
だがある日、ふと気づいた。
「自分でもできそう」と思えるようなことを、誰も実行していない――そう考えたとき、モヤモヤが怒りに変わった。
地元の政治家に手紙も書いた。「こういうことをやってくれ」と。
返ってきたのは、「国家には優先順位がある」とか、「そんなのは公約にしていない」といった、使い古された言い訳ばかりだった。
なら、自分でやるしかない。
選挙資金は、貯金を崩せばギリギリなんとかなる。
そもそも、訪問販売の仕事は天職というわけでもなかったし、「落ちたらハローワークにでも行けばいい」と腹を括った。
俺の選挙公約は、あくまで“庶民感覚”から考えたものだ。特に自信があったのが、次の三つ。
待機児童を解消するための公的施設の設置
この問題はいまさら説明するまでもないが、保育園の空きがなくて働きたくても働けないママさんが大勢いる。
俺自身は独身貴族で子育て経験なんてないが、近所の奥さんたちがこの話題ばかりしていたので、誠に勝手ながら公約に採用した。
人身事故対策として、すべての駅にホームドアを設置
千葉から都内へ通勤していた俺にとって、人身事故はまさに“日常”。
事故が起きれば改札前は人の山。ホームにすらたどり着けない。
電車に乗っても満員のまま数十分止まり、地獄のような時間を過ごすことになる。
鉄道会社任せでは進まない。国家の力で一気にやってしまおう――そう決めた。
有休の買い取り制度とプレミアムフライデーの法制化
中小企業勤めの俺にとって、有休消化やプレミアムフライデーは「都市伝説」だった。
この点については、きっと全国の“報われないお父さん”たちの共感を得られると信じていた。
ちなみに、待機児童対策は他の候補者も公約にしていたが、「本気度が違う」と評価されたらしい。
選挙戦では、ウグイス嬢も選挙カーも使わず、俺一人で自転車に乗って選挙区を駆け回った。
もともとサイクリングが趣味だったので苦ではなかったが、車に比べれば機動力では劣る。
だからこそ、ネットを駆使し、有権者と双方向のコミュニケーションを図ることで挽回した。
必死に走り回り、路上で演説し、ひたすら真面目に活動するその姿が、いつのまにか人々の共感を呼んでいたようだ。
そして、選挙当日。
選挙事務所にいたのは、俺とテレビと、だるま一体。
閑散としていたが、開票速報が始まってすぐ――まさかの「当確」報道が流れた。
俺は激戦区・千葉で、与党の現職候補を破って当選してしまったのだ。
当選が確定したとたん、テレビ局や新聞社からの取材依頼が殺到した。
その中のインタビューで、俺は調子よくこう答えた。
「つい先日まで会社員でした。この経験を生かし、国民目線で政治に取り組んでいきます」
その言葉に、なぜかメディアも、他の政治家たちも拍手喝采。
そして与党からは、「ぜひ入党し、国家のために尽くしてほしい」とのお誘いまで受けることになる――。
千葉県の片隅に一人暮らしをしながら、数年続けた食器の訪問販売の仕事を退職し、衆議院議員選挙に立候補――そして、なぜか当選してしまった。明日から俺は“政治家”になる。
昔から政治や討論番組を見るのが好きで、仕事帰りには晩酌しながらテレビのニュース番組をハシゴするのが日課だった。
そして、画面の向こうの議員たちを見ながら、「俺でもできるんじゃないか」とか「こんなに金もらえるなら、会社辞めてやる」なんて、酒の勢いで勝手なことをブツブツ言っていた。
だがある日、ふと気づいた。
「自分でもできそう」と思えるようなことを、誰も実行していない――そう考えたとき、モヤモヤが怒りに変わった。
地元の政治家に手紙も書いた。「こういうことをやってくれ」と。
返ってきたのは、「国家には優先順位がある」とか、「そんなのは公約にしていない」といった、使い古された言い訳ばかりだった。
なら、自分でやるしかない。
選挙資金は、貯金を崩せばギリギリなんとかなる。
そもそも、訪問販売の仕事は天職というわけでもなかったし、「落ちたらハローワークにでも行けばいい」と腹を括った。
俺の選挙公約は、あくまで“庶民感覚”から考えたものだ。特に自信があったのが、次の三つ。
待機児童を解消するための公的施設の設置
この問題はいまさら説明するまでもないが、保育園の空きがなくて働きたくても働けないママさんが大勢いる。
俺自身は独身貴族で子育て経験なんてないが、近所の奥さんたちがこの話題ばかりしていたので、誠に勝手ながら公約に採用した。
人身事故対策として、すべての駅にホームドアを設置
千葉から都内へ通勤していた俺にとって、人身事故はまさに“日常”。
事故が起きれば改札前は人の山。ホームにすらたどり着けない。
電車に乗っても満員のまま数十分止まり、地獄のような時間を過ごすことになる。
鉄道会社任せでは進まない。国家の力で一気にやってしまおう――そう決めた。
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この点については、きっと全国の“報われないお父さん”たちの共感を得られると信じていた。
ちなみに、待機児童対策は他の候補者も公約にしていたが、「本気度が違う」と評価されたらしい。
選挙戦では、ウグイス嬢も選挙カーも使わず、俺一人で自転車に乗って選挙区を駆け回った。
もともとサイクリングが趣味だったので苦ではなかったが、車に比べれば機動力では劣る。
だからこそ、ネットを駆使し、有権者と双方向のコミュニケーションを図ることで挽回した。
必死に走り回り、路上で演説し、ひたすら真面目に活動するその姿が、いつのまにか人々の共感を呼んでいたようだ。
そして、選挙当日。
選挙事務所にいたのは、俺とテレビと、だるま一体。
閑散としていたが、開票速報が始まってすぐ――まさかの「当確」報道が流れた。
俺は激戦区・千葉で、与党の現職候補を破って当選してしまったのだ。
当選が確定したとたん、テレビ局や新聞社からの取材依頼が殺到した。
その中のインタビューで、俺は調子よくこう答えた。
「つい先日まで会社員でした。この経験を生かし、国民目線で政治に取り組んでいきます」
その言葉に、なぜかメディアも、他の政治家たちも拍手喝采。
そして与党からは、「ぜひ入党し、国家のために尽くしてほしい」とのお誘いまで受けることになる――。
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