会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件

もっちもっち

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第1巻 1期目 当選~特別会前日

妹二人と赤坂でイタ飯

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 昼頃には妹たちが赤坂に到着する予定だ。
 一緒に昼食をとったあと、議員宿舎のまわりを案内するつもりでいた。

 下の妹の名前は由香(ゆか)。現在高校三年生の受験生だ。
 家族の中では唯一の“秀才”で、都内の有名女子大を目指しているらしい。
 最近は千葉市の予備校に通っているという。

 ただ、姉の恵に比べて、頭はいいが家事が苦手で、ちょっと抜けたところがある。

 実は先日の引っ越し手伝いのときにも来るはずだったのだが、電車で寝過ごして東京まで行ってしまい、結局来られなかった。

 今回はそんなことがないよう、姉妹一緒に来るとのことだ。

 そんなことを考えていたら、スマホが鳴った。由香からだ。

「お兄ちゃん、赤坂駅に着いたけど、どこで待てばいいの?」
「地下鉄の出口がいっぱいあって、わかんないよ~」

「議員宿舎から一番近いのは2番出口。10分くらいで行くから、そこで待ってて」

 俺は議員宿舎を出て、坂を下りながら赤坂駅へ向かった。

 都内の地下鉄駅によっては、出口を出たらすぐオフィス街で飲食店が見当たらない場所もあるが、赤坂駅周辺は飲食店が意外と多い。
 駅の近くで、気の利いた店でも探そう。
 とはいえ、さすがに今日は一人のときみたいに牛丼やつけ麺ってわけにはいかない。

 狭い交差点を渡り、ビルの間の歩道を抜けると、赤坂駅の2番出口が見えてきた。
 ……が、妹たちの姿はない。

 スマホを取り出し、由香に電話をかける。

「今どこだ?」

「ごめん!なんかこの先に“乃木坂駅”って標識が出てる……」

「おい、それ逆方向だろ……!」

 どうやら、出口を出たあとの進行方向を間違えたらしい。
 まあ、地下鉄の駅なんて1kmも離れていないことが多いから、そう遠くはないはず。

「それ以上歩くとまた迷うぞ。そこで待ってろ。俺が行く」

 まるで山奥での捜索のような気分で、俺は乃木坂方面へ向かって小走りに進んだ。

 赤坂から離れるにつれ、周囲の風景が少しずつ変わっていく。
 飲食店は少なくなり、高級そうな住宅街が広がる。
 このあたりの1ルームは、月10万以上が相場だろう。

「あっ、お兄ちゃーん!」

 遠くから手を振るのは、長いロングヘアの由香。
 その隣にいるショートカットの女性が姉の恵だ。髪型が正反対なので、遠目でも見分けがつく。

「ごめんね。2番出口って聞いてたけど、なんとなくそっちに歩いてたら、気づいたら迷ってた」

「うん、そんな気はしてた」

「……まあ、東京不慣れな二人だからな。しゃーない」

「で、どこでご飯食べるの? せっかくだから、ちょっとオシャレなイタリアンがいいな。パスタとか」
 由香が言うと、恵もそれにうなずく。

「OK。じゃあ、店探そう」

 とはいえ、ランチをやっている店は意外と少なく、結局3人はかなり歩き回る羽目になった。

 ようやく見つけたのは、こじんまりしたイタリアンレストラン。
 パスタ一皿1500円とちょっと高めだったが、もう足も限界だった。

 店内で注文を待ちながら、近況報告を始める。

「由香は、英語が得意なんだよね。英米文学部だっけ?」
「うん。留学もする予定なの」
「おー。それなら就職にも困らないだろ」

「ちょっと、そんな軽い気持ちじゃないんだから! 本気でやるんだよ、私は」

 しっかりしてるんだか、抜けてるんだか。

「でも、いい加減の代名詞だったお兄ちゃんが国会議員になったんだから、世の中って不思議だよね。あれって、おじいちゃんじゃなくてもなれるんだ?」

 ……受験生なんだから、そのへんは勉強しておけと言いたくなった。
 政治経済は、受験科目にないのだろうか。

 そうこうしているうちに、注文したナポリタンが届いた。
 おしゃれな皿に、きれいに盛り付けられたスパゲッティ。
 見た目も味も上品だが、男には少し量が物足りない。

「由香ったら、留学とか言って。お父さんももう年なんだからね」

 恵が眉をしかめて言う。

 確かに、大学進学に加えて留学となれば、経済的負担は相当だ。

「だったらさ、東京の大学通うなら、議員宿舎で一緒に暮らすか?」

「えっ、本当に?」

「まあ、衆議院はいつ解散があるか分からないし、落選したらすぐ出て行かなきゃいけないけど……その間ならいいよ」

「うーん、ちょっとお父さんにも相談してみる」

「その前に、まずは受験に受かってからでしょ」

 またしても恵が冷静に突っ込む。

 確かに、受験まで1年。
 それまでに解散総選挙がない保証もない。
 でも、少しでも親父の負担を軽くできるなら、やれることはやっておきたい。

 ようやく昼食を終えた3人は、パスタ屋を出た。
 たっぷり歩いたせいで、皆ぐったりしていたが、予定どおり議員宿舎の前まで案内することにした。

「わー、すごい! これ、28階もあるの!?」

 由香が見上げて歓声を上げる。

 今朝ここへ来たときには、さほど感じなかったが――
 妹たちの反応につられて、改めてその豪奢なタワーマンションを見上げる。

 たしかに、こんな場所に住めるのは、普通の会社員なら相当な高給取りじゃないと無理だ。

 ちょうどそのとき、ハイヤーが一台到着し、
 スラリとした美人が颯爽と車から降りてエントランスに入っていった。

 誰かの関係者だろうか。
 いや、あの雰囲気は……ちょっと飲まれそうになったのは俺だけかもしれない。

「もう十分見たから、ここでいいよ」
 妹たちはそう言って、中には入らずに帰ることにした。

 ここまでの道のりで、すっかり疲れてしまったらしい。

 ……まあ、今日のところはこのくらいでいいか。

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