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サトシの譚

得られた好機

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「アイ!」
 サトシは限界の体に鞭打って、小屋の中へと飛び込む。
 そこには大小さまざまな石ころの様な物が飛び散っていた。それが竈の破片だと気づくのにそれほど時間はかからなかった。サトシは急いで外に飛び出す。すると数匹のゴブリンがアイを担いで畑を超えて行こうとしている。
「アイを返せぇ!!」
 行動加速ヘイストをかけながらアイの後を追う。
 泥沼を使い足止めを試みるが、狙いが定まらない。魔力の使いすぎだろう、先ほどからサトシの視界はゆがみ始めている。行動加速ヘイストをかけていながらも思ったほど足が前に出ない。ゴブリンとの距離は徐々に広がって行く。
『一か八か!』
「ファイアストーム!!!」
 魔術錬成で炎の竜巻をアイたち向かう前方に出現させた。炎の勢いは今までにないほど強く、直撃したゴブリンはその場で燃え尽きた。
 一瞬ゴブリン達の足が止まる。しかし、すぐに炎を迂回して進んで行く。わずかに詰まった距離は、また徐々に開いてゆく。

 丘を越え、草原を抜けると森に入った。時折ゴブリンの鎧が光を反射する。それを頼りに真っ暗な森の中をサトシは追いかける。
 森の中の道は、いつの間にか急な上り坂になっていた。

 土だった地面が岩肌になったころ、アイたちの気配が消える。そのまままっすぐに進むと、山の斜面に大きな洞穴が口を開けていた。

 洞穴は随分深いようで、奥の方にわずかに光が見える。サトシは用心しながら中へと入って行く。
 進むほど明るくなってきた。松明がたかれているようだ。滑る足場を気にしながら先へ進む。
 すると、わずかに声がする。
「……」

「ぃゃぁ…」
 進むほど声は大きくなる。

「いやぁーー!」
 アイだ。サトシは走り出す。
 最後の魔力を振り絞り、行動加速ヘイストをかける。思うほどの効果は得られないが、必死に足を前に出す。道が二手に分かれていて片方の道が明るい。そちらからアイの声がする。サトシは明るい方の道へ進む。道は左に曲がっている。曲がり角にたどり着くと、明るい部屋に出た。そこには今にもゴブリンに襲われそうになっているアイが居る。
「アイ!」
「サトシ!」

 ドガッ!!
 ザシュッ!!

 背後から何かがぶつかった。大きめの衝撃と、胸のあたりに違和感がある。サトシは視線を落とし自分の胸を見る。
 胸当てから見慣れない銀色の突起が出ている。胸から下が熱い。何か熱い液体が下に流れているのを感じる。しばらく見ていると、突起の下から血が噴き出ているのが見えた。
 圧倒的な眠気。意識がもうろうとしてくる。
「いやぁーーー!」
 アイの声が遠くに聞こえる。

 キャキャキャキャ!
 前に聞いたことのある、耳障りな笑い声。これも遠くに聞こえる。ああ、眠い。

 ………

 ……

 無機質なアナウンスが頭の中に流れる。

「脆弱接続を発見できませんでした。第1段階フェーズより再演算を行います。」

 ……

 ……

 ……

 サトシが目を覚ますと、そこにはここ数日見続けている天井があった。
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