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生方蒼甫の譚
ギルドにて
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街は夕暮れ時だった。坑道から町の外れに転移する。ギルドの目の前に行きたい所だが、まだ人の目がある中での転移は少々気が引けた。
パラメータをいじったせいか、ミノタウロスを担いでいてもそれほど重さは感じない。
が、町行く人の視線は痛い。
もっと英雄にあこがれる視線を期待してたんだけどなぁ……
明らかに、殺人犯か野党を見る……蔑むような目である。
これから亜人の死体は運ばないようにしよう。
視線をかいくぐりながら冒険者ギルドの前までたどり着いた。
サトシが扉を開けてくれるので、かさばるミノタウロスを足から押し込み入り口を潜り抜ける。
掲示板を眺めていた冒険者たちは、何事かとこちらを見て、固まっている。
そりゃそうだろう。魔導士がミノタウロスを担いで入り口から入ってくるんだから。俺でも突っ込みたくなるよ。
「なっ!!どっ!でっ!!」
受付嬢がバグった?
「ドッドッ……!」
どっどっ?
「どっどうしたんですか!?何事ですか!!」
まあ、そうなるだろうな。
「ああ、鉱山の奥に居たミノタウロスだ。取り敢えず証拠……というか、買い取ってくんない?素材として。」
「あっぁ!おっおまちくっください!」
受付嬢が腰砕けになりながら、2階へ上がって行く。ギルマスでも呼びに行ったかな?
しばらく待つと、受付嬢といかついおっさん……って、俺と大して変わらんが……やってきた。
「おい、ミノタウロスを倒したってのはお前らか!」
「ああ、で、どう?買い取ってくれる」
おっさんは顎に手を当てしばらくミノタウロスの死体と俺たちを見比べながら考え込んでから、
「よし。買い取ろう。で、お前たちはあの鉱山のどこまで入った?」
「鉱山は奥まで行ったと思うな。一番奥は古代の神殿につながってた。で、そこからは結構時間が掛かりそうだったんで一回帰ってきたってわけだ。」
「帰ってきたって、デュラハンとサイクロプスは居なかったのか?」
「ほう。よく知ってんな。居たよ。」
「倒したのか?」
「さすがにミノタウロスで疲れ果てたからな。奴らはまだだ。」
「まだ?」
「ああ、いずれ倒そうとは思うが、今は休みたい。」
「なんだ!?休んだら何とかなるもんなのか?」
「なんとかなるんじゃないか?まあ、やってみるさ。ところで……
ギルドは何処まで知ってんだ?あの鉱山の事。」
「……」
ギルマスの目が変わる。俺たちの事を値踏みしてるようだな。
って。やべ。今NPC相手に真剣にやり取りしちゃったよ。ここ数か月ゲーム内で生活しててすっかり忘れてたけど。
ってかゲームAIよくできてんな。チキショウ。俺の研究って意味あんのかなぁ……なんか心配になってきた。
「いや、悪かった。」
俺の表情などそっちのけでギルマスが話し始める。ああ、このあたりはAIというかシーケンスになってんのね。
「鉱山に高難度の討伐対象がゴロゴロ居ることはギルドでも把握してはいたんだ。だが、どこまで情報を開示するかで鉱山の所有者と揉めててな。」
「鉱山の所有者は領主じゃないんですか?」
サトシも普通に会話してるな。まあ、仕方ないな。俺でさえがNPCだってことを一瞬忘れてたくらいだ。なにより周りにいるのは俺以外全部NPCなんだからな。ま、サトシにとっての日常なんだろうな。いや、まあ、それは良い。取り敢えず情報収集に集中しよう。
「依頼は領主からって聞いたけど違うのか?」
「いや、依頼は領主で間違ってねぇ。が、鉱山の所有者は別だ。ここはなかなか難しい問題でね。」
「どういうことだ。領主の先祖がこの鉱山で一儲けしたって話じゃなかったか?」
「ああ、それはそれは間違ってねぇな。初代の領主様が鉱山で財を成したのは本当だ。だが、問題はその後だ。当時このあたりを仕切ってた辺境伯が鉱山の所有権を主張してきたんだよ。」
「鉱山の権利を横取りってことですか?」
「言いがかりじゃねぇのか?」
「まあ、それに近いんだろうけどな。王国の貴族相手じゃどうしようもないだろ。だが、その貴族がやり手だったのが横取りまではしなかったところだな。採掘量に税を掛けたんだよ。」
「そこまで暴利じゃなかったってことか。」
「そういうこった。大した額じゃなかったらしい。まあ、俺も領主様から聞いただけだから実際の金額は判らんが、ことを荒げて王国貴族を敵に回すよりよほど良かったってことだ。」
「で、その貴族が今回の件で口出ししてきたのか?」
「ああ、採掘が出来なくなって、税が入らなくなったからな。領主様は鉱山再開の為に調査依頼を出したわけだ。そしたら、鉱夫たちからすぐに情報が入った。」
「それが、デュラハンやらマンティコアか。」
マンティコアって俺の言葉にギルマスの視線が鋭くなる。緘口令でも引かれてたのか?
「それはお前たちが見たのか?」
「いや、情報収集してたら……な。」
「そうか……それは良い。で、その情報からかなり危険な依頼だってんで、領主様は魔獣討伐依頼に変更しようとしたんだが……」
「貴族から横やりが入ったのか?」
「ああ、理由はわからんが魔獣討伐依頼は取り下げろと来た。領主様も随分交渉したみたいだが無理だったそうだ。結局探索依頼を細々と出すのが関の山だったってことだ。」
「だから、情報も寄こさなかったってか?」
「全職員に周知するような内容じゃないからな。」
「そうかい。」
依頼を受けた後、いろいろ情報収集してれば、この話に行きついたんだろうな。で、問題はこっから先だ。どのあたりまで情報が得られるかだな。
「で、中の様子はどのあたりまで把握してるんだ?」
「……」
「今更隠しても仕方ないだろ?俺たちなら鉱山開放できるかもしれんぞ?」
ギルマスはしばらく考え込んでから、くいっと顎をしゃくる。
「ついてこい。」
俺たち三人はギルドの2階に通された。
パラメータをいじったせいか、ミノタウロスを担いでいてもそれほど重さは感じない。
が、町行く人の視線は痛い。
もっと英雄にあこがれる視線を期待してたんだけどなぁ……
明らかに、殺人犯か野党を見る……蔑むような目である。
これから亜人の死体は運ばないようにしよう。
視線をかいくぐりながら冒険者ギルドの前までたどり着いた。
サトシが扉を開けてくれるので、かさばるミノタウロスを足から押し込み入り口を潜り抜ける。
掲示板を眺めていた冒険者たちは、何事かとこちらを見て、固まっている。
そりゃそうだろう。魔導士がミノタウロスを担いで入り口から入ってくるんだから。俺でも突っ込みたくなるよ。
「なっ!!どっ!でっ!!」
受付嬢がバグった?
「ドッドッ……!」
どっどっ?
「どっどうしたんですか!?何事ですか!!」
まあ、そうなるだろうな。
「ああ、鉱山の奥に居たミノタウロスだ。取り敢えず証拠……というか、買い取ってくんない?素材として。」
「あっぁ!おっおまちくっください!」
受付嬢が腰砕けになりながら、2階へ上がって行く。ギルマスでも呼びに行ったかな?
しばらく待つと、受付嬢といかついおっさん……って、俺と大して変わらんが……やってきた。
「おい、ミノタウロスを倒したってのはお前らか!」
「ああ、で、どう?買い取ってくれる」
おっさんは顎に手を当てしばらくミノタウロスの死体と俺たちを見比べながら考え込んでから、
「よし。買い取ろう。で、お前たちはあの鉱山のどこまで入った?」
「鉱山は奥まで行ったと思うな。一番奥は古代の神殿につながってた。で、そこからは結構時間が掛かりそうだったんで一回帰ってきたってわけだ。」
「帰ってきたって、デュラハンとサイクロプスは居なかったのか?」
「ほう。よく知ってんな。居たよ。」
「倒したのか?」
「さすがにミノタウロスで疲れ果てたからな。奴らはまだだ。」
「まだ?」
「ああ、いずれ倒そうとは思うが、今は休みたい。」
「なんだ!?休んだら何とかなるもんなのか?」
「なんとかなるんじゃないか?まあ、やってみるさ。ところで……
ギルドは何処まで知ってんだ?あの鉱山の事。」
「……」
ギルマスの目が変わる。俺たちの事を値踏みしてるようだな。
って。やべ。今NPC相手に真剣にやり取りしちゃったよ。ここ数か月ゲーム内で生活しててすっかり忘れてたけど。
ってかゲームAIよくできてんな。チキショウ。俺の研究って意味あんのかなぁ……なんか心配になってきた。
「いや、悪かった。」
俺の表情などそっちのけでギルマスが話し始める。ああ、このあたりはAIというかシーケンスになってんのね。
「鉱山に高難度の討伐対象がゴロゴロ居ることはギルドでも把握してはいたんだ。だが、どこまで情報を開示するかで鉱山の所有者と揉めててな。」
「鉱山の所有者は領主じゃないんですか?」
サトシも普通に会話してるな。まあ、仕方ないな。俺でさえがNPCだってことを一瞬忘れてたくらいだ。なにより周りにいるのは俺以外全部NPCなんだからな。ま、サトシにとっての日常なんだろうな。いや、まあ、それは良い。取り敢えず情報収集に集中しよう。
「依頼は領主からって聞いたけど違うのか?」
「いや、依頼は領主で間違ってねぇ。が、鉱山の所有者は別だ。ここはなかなか難しい問題でね。」
「どういうことだ。領主の先祖がこの鉱山で一儲けしたって話じゃなかったか?」
「ああ、それはそれは間違ってねぇな。初代の領主様が鉱山で財を成したのは本当だ。だが、問題はその後だ。当時このあたりを仕切ってた辺境伯が鉱山の所有権を主張してきたんだよ。」
「鉱山の権利を横取りってことですか?」
「言いがかりじゃねぇのか?」
「まあ、それに近いんだろうけどな。王国の貴族相手じゃどうしようもないだろ。だが、その貴族がやり手だったのが横取りまではしなかったところだな。採掘量に税を掛けたんだよ。」
「そこまで暴利じゃなかったってことか。」
「そういうこった。大した額じゃなかったらしい。まあ、俺も領主様から聞いただけだから実際の金額は判らんが、ことを荒げて王国貴族を敵に回すよりよほど良かったってことだ。」
「で、その貴族が今回の件で口出ししてきたのか?」
「ああ、採掘が出来なくなって、税が入らなくなったからな。領主様は鉱山再開の為に調査依頼を出したわけだ。そしたら、鉱夫たちからすぐに情報が入った。」
「それが、デュラハンやらマンティコアか。」
マンティコアって俺の言葉にギルマスの視線が鋭くなる。緘口令でも引かれてたのか?
「それはお前たちが見たのか?」
「いや、情報収集してたら……な。」
「そうか……それは良い。で、その情報からかなり危険な依頼だってんで、領主様は魔獣討伐依頼に変更しようとしたんだが……」
「貴族から横やりが入ったのか?」
「ああ、理由はわからんが魔獣討伐依頼は取り下げろと来た。領主様も随分交渉したみたいだが無理だったそうだ。結局探索依頼を細々と出すのが関の山だったってことだ。」
「だから、情報も寄こさなかったってか?」
「全職員に周知するような内容じゃないからな。」
「そうかい。」
依頼を受けた後、いろいろ情報収集してれば、この話に行きついたんだろうな。で、問題はこっから先だ。どのあたりまで情報が得られるかだな。
「で、中の様子はどのあたりまで把握してるんだ?」
「……」
「今更隠しても仕方ないだろ?俺たちなら鉱山開放できるかもしれんぞ?」
ギルマスはしばらく考え込んでから、くいっと顎をしゃくる。
「ついてこい。」
俺たち三人はギルドの2階に通された。
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