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生方蒼甫の譚
兄弟
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「あなた方が皆を楽にしてくれたんですか?」
そんな声が暗闇から聞こえてきた。
かすれた涙声で、とぎれとぎれになりながら。
「誰だ?」
ライトボールが暗闇を照らすと、そこには初老の男性が佇んでいた。
エントランスに飾ってあった肖像画の人物だな。
なんで見覚えがある?
「エレミヤ・アレクと申します。」
アレク?ああ、
「領主様のお知合いですか?」
「領主ですか。領主は弟が務めております。私は町を追われた身です。この屋敷に幽閉され、どれだけの時が過ぎたのかもわかりません。」
道理で領主様に似てるわけね。お兄さんか……
ん?兄弟の話してたっけ?
いや、この屋敷に住んだことないはずだよな。領主様。屋敷の存在すら知らなかったし。
おりょ?ちょっと待て。この人いつからここに居るわけ?
「ステータス」
一応確認してみると……ああ、案の定ってやつだな。
「エレミヤ 職業:ゴースト」
いや、ゴーストって職業なの?
って、ああ、アイがサトシの後ろで震えてるよ。まあ、そうなるわな。まあ、それはそれでかわいいので許そう。
「うるさい!」
なぜおれの考えがわかる?解せぬ。
「エレミヤさんはどうしてここに?」
サトシは背後にアイを隠しながら、穏やかに尋ねる。
正直なところ、アイを庇ってるというよりは、アイが暴走してやたらめったらにライトボールで攻撃するのを抑えてるってのが正しいかもな。
「私は町の人間から敵視され、この地下室に幽閉されて拷問を受けていたのです。」
「拷問ですか?」
確かに、今このエレミヤさんは、腕に鎖をかけられ、天井からつるされた格好になっている。が、コーストなんだから抜けられそうなもんだが……
「えーと。単刀直入に伺いますが、ご自身は生きておられるとお思いですか?」
おっと、サトシ。ストーレートだね。もっとオブラートに包んだ聞き方とか無かった?
「……ああ」
エレミヤは、諦めのこもったため息交じりの声で続ける。
「そうですか。皆さんからはやはりそう見えるのですね。
私もそうではないかと薄々は感じていたんです。
このような姿になってもここに縛り付けられているとは。何ともお恥ずかしい。」
「恥ずかしいことではないと思いますが、もしよろしければ、どういった経緯でこのような事になったのか教えていただけませんか?」
エレミヤはしばらく黙っていたが、意を決したように口を開いた。
「つまらない話になると思いますが、聞いていただけますか?」
サトシと俺は深くうなずく。それを見て、エレミヤはぽつぽつと話し始めた。
「私は弟と二人でこの町の鉱山を取り仕切っていました。仲は良かったのですが、考え方の違いから衝突することも多くて。」
「弟さんが、町の人間をけしかけたってことですか?」
「いえ、そういうわけではないんです。
……そうですね。もっと前からお話ししたほうがいいかもしれませんね。
私たち兄弟は子供の頃王都に住んでいました。」
「王都ですか。」
王都と来たか。やっぱり一度行ってみる必要があるかもな。
「はい。住んでいたと言っても幼いころに両親と死に別れ……あ~。ストリートチルドレンとでも言うんでしょうか、浮浪児として兄弟でその日その日を必死に生きておりました。」
「それは、何とも大変だったでしょう?」
「ええ、そうだったかもしれません。しかし、当時は生きることに必死でしたらか大変とかそういう気持ちではありませんでした。
町の食堂の裏で残飯を漁り、道行く人から財布をすったり、野党の真似事のような事もしておりました。子供二人で生きてゆくには、どんなことでもしなければならなかったのです。」
記憶を探るように遠い目をしながらエレミヤは語り続ける。俺とサトシは黙って聞くことにした。
「ある祭りの日に、人込みの中で掏った財布には大金が入っていました。
まあ、今にして思えばそれほどの金額ではなかったんでしょうが、まとまった金が手に入るとは思っていなかった私たちはいつもより贅沢な食事をしたり、着るものを買ったり……大喜びで散在しました。
しかし、やはり神様はどこかで見ているのでしょうね。その財布はどうやら盗賊団の幹部の物だったようなのです。子供に掏られたと有っては、盗賊団の名折れでしょうからね。私たち兄弟はその盗賊団から執拗に追われるようになりました。
運よく逃げ延びることが出来ましたが、すでに王都には私たち兄弟の居場所はありませんでした。
王都を離れ二人で荒野をさまよいながら逃げ続けましたが、例え王都から離れても大きな町ではその盗賊団の手下たちが幅を利かせていて、休める場所はほとんどありませんでした。
そんな中、この場所にたどり着いたのです。ここは森こそありますが土地がやせていて農業には向かず、魔獣も多く危険な土地でした。こんな土地に住んでいるのは、我々と同じように土地を追われて逃げてきた人々だけです。そんな人たちが身を寄せ合って集落をつくっていました。」
なるほど。領主様に聞いた話と一致する。エレミヤは淡々と話をつづけた。
「集落の人々は私たち兄弟の事を快く受け入れてくれました。境遇が同じだったこともあるのでしょう。そんな集落にひとりの目しいた老人が居ました。彼は物知りで、狩猟に適した場所や罠のつくり方、集めてきた野草が食べれる物なのか等色々なことを教えてくれました。
集落の人間からの信頼も厚く長老と呼ばれていました。
彼がある日、この場所がかつて『エンドゥ』と呼ばれていて、中央に神殿を配した大都市だったと教えてくれたのです。神殿の中には最高神エンリルが祀られており、今も多くの財宝が眠っているとのことでした。」
邪神はエンリルなのか?でも「エンリルめぇ」みたいなこと言ってなかったっけ?
「その話に興味を持ったのは弟でした。彼は、財宝を手に入れれば私たちを受け入れてくれたこの集落の人たちを豊かにしてあげることが出来ると考えたようです。その日のうちに神殿だった山の周囲を探索し始めました。
当初、私はその話を信じておらず、神殿への入り口を探し回る弟を呆れ気味に見ていただけなのですが、必死に探し回り魔獣に襲われながらもあきらめず続ける弟の姿に、私も協力することにしたのです。
そんなことを続けていると、弟が山から離れた場所に洞窟を見つけたのです。その洞窟は神殿とされる山からは離れていましたので、私は神殿にはたどり着けないのではないかと弟を止めたのですが、弟は強い口調で「必ず神殿に繋がっている」と言って聞かなかったのです。
今にして思えば、その時すでに弟は神殿の邪神に魅入られていたのでしょう。
その洞窟は弟が言う通り、神殿へと通じていました。神殿奥の間にたどり着いた私たちは、そこですでに虫の息となっているマンティコアを見つけたのです。」
そんな声が暗闇から聞こえてきた。
かすれた涙声で、とぎれとぎれになりながら。
「誰だ?」
ライトボールが暗闇を照らすと、そこには初老の男性が佇んでいた。
エントランスに飾ってあった肖像画の人物だな。
なんで見覚えがある?
「エレミヤ・アレクと申します。」
アレク?ああ、
「領主様のお知合いですか?」
「領主ですか。領主は弟が務めております。私は町を追われた身です。この屋敷に幽閉され、どれだけの時が過ぎたのかもわかりません。」
道理で領主様に似てるわけね。お兄さんか……
ん?兄弟の話してたっけ?
いや、この屋敷に住んだことないはずだよな。領主様。屋敷の存在すら知らなかったし。
おりょ?ちょっと待て。この人いつからここに居るわけ?
「ステータス」
一応確認してみると……ああ、案の定ってやつだな。
「エレミヤ 職業:ゴースト」
いや、ゴーストって職業なの?
って、ああ、アイがサトシの後ろで震えてるよ。まあ、そうなるわな。まあ、それはそれでかわいいので許そう。
「うるさい!」
なぜおれの考えがわかる?解せぬ。
「エレミヤさんはどうしてここに?」
サトシは背後にアイを隠しながら、穏やかに尋ねる。
正直なところ、アイを庇ってるというよりは、アイが暴走してやたらめったらにライトボールで攻撃するのを抑えてるってのが正しいかもな。
「私は町の人間から敵視され、この地下室に幽閉されて拷問を受けていたのです。」
「拷問ですか?」
確かに、今このエレミヤさんは、腕に鎖をかけられ、天井からつるされた格好になっている。が、コーストなんだから抜けられそうなもんだが……
「えーと。単刀直入に伺いますが、ご自身は生きておられるとお思いですか?」
おっと、サトシ。ストーレートだね。もっとオブラートに包んだ聞き方とか無かった?
「……ああ」
エレミヤは、諦めのこもったため息交じりの声で続ける。
「そうですか。皆さんからはやはりそう見えるのですね。
私もそうではないかと薄々は感じていたんです。
このような姿になってもここに縛り付けられているとは。何ともお恥ずかしい。」
「恥ずかしいことではないと思いますが、もしよろしければ、どういった経緯でこのような事になったのか教えていただけませんか?」
エレミヤはしばらく黙っていたが、意を決したように口を開いた。
「つまらない話になると思いますが、聞いていただけますか?」
サトシと俺は深くうなずく。それを見て、エレミヤはぽつぽつと話し始めた。
「私は弟と二人でこの町の鉱山を取り仕切っていました。仲は良かったのですが、考え方の違いから衝突することも多くて。」
「弟さんが、町の人間をけしかけたってことですか?」
「いえ、そういうわけではないんです。
……そうですね。もっと前からお話ししたほうがいいかもしれませんね。
私たち兄弟は子供の頃王都に住んでいました。」
「王都ですか。」
王都と来たか。やっぱり一度行ってみる必要があるかもな。
「はい。住んでいたと言っても幼いころに両親と死に別れ……あ~。ストリートチルドレンとでも言うんでしょうか、浮浪児として兄弟でその日その日を必死に生きておりました。」
「それは、何とも大変だったでしょう?」
「ええ、そうだったかもしれません。しかし、当時は生きることに必死でしたらか大変とかそういう気持ちではありませんでした。
町の食堂の裏で残飯を漁り、道行く人から財布をすったり、野党の真似事のような事もしておりました。子供二人で生きてゆくには、どんなことでもしなければならなかったのです。」
記憶を探るように遠い目をしながらエレミヤは語り続ける。俺とサトシは黙って聞くことにした。
「ある祭りの日に、人込みの中で掏った財布には大金が入っていました。
まあ、今にして思えばそれほどの金額ではなかったんでしょうが、まとまった金が手に入るとは思っていなかった私たちはいつもより贅沢な食事をしたり、着るものを買ったり……大喜びで散在しました。
しかし、やはり神様はどこかで見ているのでしょうね。その財布はどうやら盗賊団の幹部の物だったようなのです。子供に掏られたと有っては、盗賊団の名折れでしょうからね。私たち兄弟はその盗賊団から執拗に追われるようになりました。
運よく逃げ延びることが出来ましたが、すでに王都には私たち兄弟の居場所はありませんでした。
王都を離れ二人で荒野をさまよいながら逃げ続けましたが、例え王都から離れても大きな町ではその盗賊団の手下たちが幅を利かせていて、休める場所はほとんどありませんでした。
そんな中、この場所にたどり着いたのです。ここは森こそありますが土地がやせていて農業には向かず、魔獣も多く危険な土地でした。こんな土地に住んでいるのは、我々と同じように土地を追われて逃げてきた人々だけです。そんな人たちが身を寄せ合って集落をつくっていました。」
なるほど。領主様に聞いた話と一致する。エレミヤは淡々と話をつづけた。
「集落の人々は私たち兄弟の事を快く受け入れてくれました。境遇が同じだったこともあるのでしょう。そんな集落にひとりの目しいた老人が居ました。彼は物知りで、狩猟に適した場所や罠のつくり方、集めてきた野草が食べれる物なのか等色々なことを教えてくれました。
集落の人間からの信頼も厚く長老と呼ばれていました。
彼がある日、この場所がかつて『エンドゥ』と呼ばれていて、中央に神殿を配した大都市だったと教えてくれたのです。神殿の中には最高神エンリルが祀られており、今も多くの財宝が眠っているとのことでした。」
邪神はエンリルなのか?でも「エンリルめぇ」みたいなこと言ってなかったっけ?
「その話に興味を持ったのは弟でした。彼は、財宝を手に入れれば私たちを受け入れてくれたこの集落の人たちを豊かにしてあげることが出来ると考えたようです。その日のうちに神殿だった山の周囲を探索し始めました。
当初、私はその話を信じておらず、神殿への入り口を探し回る弟を呆れ気味に見ていただけなのですが、必死に探し回り魔獣に襲われながらもあきらめず続ける弟の姿に、私も協力することにしたのです。
そんなことを続けていると、弟が山から離れた場所に洞窟を見つけたのです。その洞窟は神殿とされる山からは離れていましたので、私は神殿にはたどり着けないのではないかと弟を止めたのですが、弟は強い口調で「必ず神殿に繋がっている」と言って聞かなかったのです。
今にして思えば、その時すでに弟は神殿の邪神に魅入られていたのでしょう。
その洞窟は弟が言う通り、神殿へと通じていました。神殿奥の間にたどり着いた私たちは、そこですでに虫の息となっているマンティコアを見つけたのです。」
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