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魔王の譚

もどかしい男

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 俺が悩んでいる横で、カールは頓狂な声を上げている。

 やたらと大きな身振り手振りで、サトシという非常に礼儀正しく将来有望な少年がこのあたりに居たはずだ……と、

 おそらく本人と思われる青年に力説している。


 あ~。俺悩んでんのに……

 何でこいつこんなに緊張感無いのかな。


 そのサトシと思しき青年は、カールに褒めちぎられて耳を真っ赤にしながら困り果てている。

 そりゃそうだろう。目の前で自分の事を褒めちぎってるんだから。どうしたもんかと思うよな。普通は。

 で、それを苦々しい顔で見ているエリザだ。

 またこいつもややこしいな。

 なんだよ。カールがサトシを褒めるたびに奥歯をかみ砕かんばかりの嫉妬心を滾らせる。

 もう。やだ。こいつら。

 なんで緊張感無いのさ。今結構緊迫してると思うよ。

 状況として。


 実際、俺の目の前に居る魔導士風の男は今までの経験から判断すると「魂無し」だ。

 が、挙動は明らかに「魂持ち」と言える。この違和感。今まで感じたことがない。かなり不味い状況を覚悟しないといけないんじゃ……


 …

「いや、この辺に居たんだって。な?知らないか?」

 ……

「なあ!?何とか行ってくれよ。このあたりに住んでるのか?あんたは」

 ………

「ちょっと!?聞いてる?耳赤いけど体調悪い?熱あんのか?」


「喧しいわ!!!!!!」

「うわぁ!!びっくりした。なんだよ。急に大声出すなよ!」
「お前らちょっとは緊張感もてよ!」
「お前「ら」って、私たちもですか?」
「お前もだよ。さっきからサトシって名前が出るたびにジェラシー前面に押し出しやがって!見てるこっちがもどかしいわ!」
「な!」
 エリザは驚きやら羞恥やらで固まってしまった。
 
「緊張感って……、いや。今サトシを探して……」
「わかんねぇ奴だな!そいつがサトシだよ!」
 
 あ!
 
 勢い余って言っちまった。
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