魔術と異能が交差するこの世界で

ヌン

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第2章 芸術家の街と獣の少年

第2章 第5話

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 そんなこんなでなんとか研修を終えたオレに言い渡されたのが、この芸術家の街で殺人鬼を捜索するという依頼だった。
 断ることなどできるはずもなく、言われるがままに船へ乗って島を出て、港に着くとタクシーに乗り換えてやってきた芸術家の街エメラダはなんというか、混沌としていた。
 外から見たときはおかしな建物ばかりだと思ったが、住んでいる人もおかしな人ばかりみたいだ。自分の中で芸術家にはベレー帽とキャンバスというイメージだったが、そんな古典的な芸術家などはおらず、頭から足の先までピンクの人や裸の上に黒いテープのようなものを撒いて局部を隠している人やら、ほかの街では確実に不審者として扱われるような人ばかりだ。目に入るものすべてが理解を超えていて、別世界に来たような感覚がする。なんだか頭が痛くなってきた。

 街に来てまずやらないといけないことは、現地にいる調査員との合流だ。島の調査員は世界中にいるらしく、イレギュラーハンターの依頼の半分くらいは調査員からのものらしい。ちなみに残りは出資者からの依頼などが該当するとアルから聞いた。
 調査員からもたらされた依頼は、基本的に現地にいる調査員が拠点などを準備して受け入れをしてくれる。そのタイミングで情報共有もおこなえるので、一番最初に調査員と合流するのが鉄則らしい。

 待ち合わせの場所は、街の中央にある喫茶店だった。地図はもらっているのでそれを見ながら歩を進めるだけなのだが、もらった地図がなんとも街の地図らしくない。
 なぜこの街の地図はこんなにも行き止まりが多いんだろう?大通りから道を一本間違えるだけで蛇のように曲がりくねった道に入り、気が付けば行き止まりなんて道がパッと見ただけで数本もあった。しかもこれが街全体の地図ではなく、喫茶店までの地図だっていうのが恐ろしい。この街、一種のダンジョンかなにかなんじゃないだろうか。

 というわけで、無事道に迷いました。
 こんな地図じゃ、始めて来た街、しかもこんなダンジョンもどきの街じゃ役に立たない。けっしてオレが方向音痴なわけじゃない。絶対違う。
 それにしてもどうしようか。
 道を聞こうにも、まともそうな人が周りに見当たらない。そもそもこの街にまともな人がいるのだろうか。
 さっきから視界の端にちらちらと普通の街なら公然わいせつで捕まりそうな格好の人が見えていて考えはまとまらないし、もう最悪だ。————まともな人はいないのかこの街は!
 おもわず叫びだしそうな衝動をどうにか抑えこみながら歩いてしまったせいで、さらに道に迷ってしまった。

 大通りからもずれてしまったのか、周囲の人の数がさきほどよりもまばらになっている。戻ろうにも来た道すらもうわからないので戻りようもない。ほんと、ここどこぉ?
 どうにか入口にでも戻れればもう一度この地図を見ながらでたどり着けると思うのだが……。
「そうか、入口を見つけられればいいのか————」
 ピキーンとひらめいた。入口に戻れればいいのだから、高い建物にでも上って、上から探せばいいじゃないか。それならなんとかなる。
 ちょうどいいことに目の前に背の高い建物もある。入口は見当たらないが、横に細い道があるので、たぶんそちらに扉があるのだろう。
 殺人鬼が出るといっていたのはこういう道の奥だと記憶しているが、今は真昼間だ。殺人鬼がこんな日の高いうちに出るはずもないので問題ないだろう。
 そう自分に言い聞かせても、一抹の不安が残るので路地裏をのぞいてみる。人の気配はなく、危険そうな様子もない。大丈夫だな。

「————そちらは危ないですよ」

 背後から急に声が聞こえた。瞬間、考えるよりも速く体が動いた。反射的に体を反転しながら背後に飛び退いていた。
 警戒して振り向いた先に立っていたのは、きれいな女だった。
 年齢はオレよりも少し上くらいだろうか。白いワンピース姿に肩まででそろえたきれいな黒髪。中性的な顔立ちで、男性から見れば女性、女性から見れば男性にも見えるだろう。だが、立ち姿は柔らかく、纏っている衣服からも女性なのは明らかだ。
 さきほどまで気配も音も、匂いすら感じさせなかった女性に一瞬だけ警戒をしたが、姿を見てすぐに張り詰めた警戒心はほどけてしまった。なぜなら————すごく美人だったから。
 語彙力のないオレでは彼女の美しさを表現できないのが残念だが、オレの出会った女性の中でも一、二を争うくらいの美人。それこそ、まるで絵の中から出てきたようなという言葉が似合いずぎるくらいのとびっきりの美人。そのうえ服装も普通となれば、この街で見た中では疑いようもなく、一番信用できる相手だ。これで詐欺師かなにかだったら、この街に信用できる人はきっといない。
 彼女はオレがいきなり飛び退いたためか、ひどく驚いた表情をしていた。それでもオレと目が合ったのに気が付くと、申し訳なさそうに、
「すみません、驚かせてしまいましたよね。……その先の道は壁がもろくなっていて崩れやすいので、怪我をさせてはいけないと思って思わず声をかけてしまいました」
 その言葉にオレはひどく感動を覚えた。やっぱり恰好がまともな人は言うこともまともだ。この人なら信用ができる。
「こちらこそすみません。初めてこの街に来たんですが、待ち合わせの場所に向かおうとしていたら、道に迷ってしまって……」
 できるだけにこやかに、相手に不快感を抱かせないように答えた。さすがに建物に入ろうとしたなんてことは言えないので、そこは隠したが嘘はついていない。
「まあ!旅行者さんでしたか、どおりで。私でよければ待ち合わせ場所まで案内しましょうか?」
「ほんとうですか!?ぜひお願いします!一人じゃ、たどり着けそうになかったので……」
 こちらとしてはあまりにもありがたい申し出だった。このまま普通に歩いていたら、いつまでたっても待ち合わせ場所である喫茶店にはたどり着けないし、そもそも大通りに戻ることすら怪しかった。返事が即だったのは、相手が美人だったからではない。やましい気持ちなんてかけらほどもないんだ。
「この喫茶店に向かってたんですけど……」
 手に持っていた地図を女性に見せるために何気なしに一歩近づいた。それにつられた彼女もこちらに一歩近づいて地図をずいっと覗き込んだ。
 うおっ、なんだろう。この人、めっちゃいいにおいがする。香水か何かかな?鼻には自信があるが、嗅いだことないくらいすんごいいいにおいがする。美人でいいにおいがするのはちょっとズルいと思います。心臓のドキドキが止まらないです、はい。
「ああ、ここなら二本向こうの通りですね。行きましょうか」
 ドキドキするオレをよそに地図を確認した彼女は、喫茶店へオレを案内するために先を歩き出した。
 まだまだ心臓の鼓動はおさまらないが、一人になるとまた道に迷ってしまうので、彼女の一歩後ろをついていく。前を歩く彼女の後姿は凛としていて、とてもきれいだった。
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