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魔法使いと2人の少女
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「やっ、青葉ちゃん。よく来たね」
「お邪魔します。沙羅ちゃん顔色いいね。今日は何する?」
「昨日ママがDVD借りてきてくれたんだ。コメディ映画観て腹筋作ろう」
学校に行かない間、時間の許す限り沙羅さんへ会いに行った。今度は人生を譲ってもらうからじゃなくて、友達として。
彼女の体調と家族の時間を考慮し、数十分ささやかな楽しみを共有した。調子が良い時は日向ぼっこをしたし、調子が悪い時は静かに傍にいて彼女が眠るのを見守った。
日に日に会話の数は減っていたし、起きている時間も短くなっていく。目に見えて、衰弱していった。
明日が来ないでほしいと願うのはこれで二度目。朝が来る度、彼女との距離が遠くなっていく。
食事がとれなくなりそろそろ入院する話が出たが、彼女の希望で最期まで家で過ごすことになった。時々看護師さんが来るし、いつも近くには両親がいられるからその方がずっといい。
1ヶ月程経ってから、眠ってばかりで反応してくれなくなる。沙羅さんママが言うには、苦痛を感じないための薬を使っているとどうしても眠くなってしまうらしい。確かに起きている時より安らいだ顔をしていた。
会いに行く度眠りっぱなしの沙羅さんを見ていると、何だかもうここには居なくて、体を離れてどこかに行ってしまったような気がした。
お母さんの時は本当にあっという間で何の準備もできなかった。少しずつ心の穴を広げていくんじゃなくて、いきなりごっそりと抉られて空洞ができてしまったから絶望も深かった。
死んだことが未だに信じられないでいる。お父さんは、お母さんにできなかった分その友達の助けになれるよう頑張りなさいと言ってくれた。
だから、こんなにじっくりと時間をかけて別れの準備ができるっていうのは、奇跡に近いものなのかもしれない。少しずつ少しずつ悲しみと寂しさが蓄積されていく。沙羅さんがこれから旅立つことを徐々に受け入れている。
冬が始まる頃、眠りから覚めることのなかった彼女は、13年で人生の幕を閉じた。
訃報の連絡を沙羅さんママから受けた日は、沙羅さんの肌の色とそっくりな真っ白い初雪が降っていた。
彼女はどこに行ってしまったんだろう。
もしも、このしんしんと降る雪片のどれかに彼女の魂が入り込んでいて、私の手のひらで溶かし染み込ませれば、彼女は私と一心同体になるんだろうか。
通話を切った後、灰色の冬空を見上げてそんなことを思った。そう、馬鹿げた妄想をして誤魔化さなければ溢れ出す涙をせき止めることができない。
出会ってからたった2ヶ月。それなのに、何十年も前から私達は友達でいる感じがした。私にとってそれだけこの短い日々が濃厚だった。
私は沙羅さんにならなかった。でも、青葉のまま人生が変わった。死んでしまった彼女の人生を引き継がず、彼女が生きていた事実と一緒に過ごした時間をこれからもずっと覚えていることを選択した。
「お邪魔します。沙羅ちゃん顔色いいね。今日は何する?」
「昨日ママがDVD借りてきてくれたんだ。コメディ映画観て腹筋作ろう」
学校に行かない間、時間の許す限り沙羅さんへ会いに行った。今度は人生を譲ってもらうからじゃなくて、友達として。
彼女の体調と家族の時間を考慮し、数十分ささやかな楽しみを共有した。調子が良い時は日向ぼっこをしたし、調子が悪い時は静かに傍にいて彼女が眠るのを見守った。
日に日に会話の数は減っていたし、起きている時間も短くなっていく。目に見えて、衰弱していった。
明日が来ないでほしいと願うのはこれで二度目。朝が来る度、彼女との距離が遠くなっていく。
食事がとれなくなりそろそろ入院する話が出たが、彼女の希望で最期まで家で過ごすことになった。時々看護師さんが来るし、いつも近くには両親がいられるからその方がずっといい。
1ヶ月程経ってから、眠ってばかりで反応してくれなくなる。沙羅さんママが言うには、苦痛を感じないための薬を使っているとどうしても眠くなってしまうらしい。確かに起きている時より安らいだ顔をしていた。
会いに行く度眠りっぱなしの沙羅さんを見ていると、何だかもうここには居なくて、体を離れてどこかに行ってしまったような気がした。
お母さんの時は本当にあっという間で何の準備もできなかった。少しずつ心の穴を広げていくんじゃなくて、いきなりごっそりと抉られて空洞ができてしまったから絶望も深かった。
死んだことが未だに信じられないでいる。お父さんは、お母さんにできなかった分その友達の助けになれるよう頑張りなさいと言ってくれた。
だから、こんなにじっくりと時間をかけて別れの準備ができるっていうのは、奇跡に近いものなのかもしれない。少しずつ少しずつ悲しみと寂しさが蓄積されていく。沙羅さんがこれから旅立つことを徐々に受け入れている。
冬が始まる頃、眠りから覚めることのなかった彼女は、13年で人生の幕を閉じた。
訃報の連絡を沙羅さんママから受けた日は、沙羅さんの肌の色とそっくりな真っ白い初雪が降っていた。
彼女はどこに行ってしまったんだろう。
もしも、このしんしんと降る雪片のどれかに彼女の魂が入り込んでいて、私の手のひらで溶かし染み込ませれば、彼女は私と一心同体になるんだろうか。
通話を切った後、灰色の冬空を見上げてそんなことを思った。そう、馬鹿げた妄想をして誤魔化さなければ溢れ出す涙をせき止めることができない。
出会ってからたった2ヶ月。それなのに、何十年も前から私達は友達でいる感じがした。私にとってそれだけこの短い日々が濃厚だった。
私は沙羅さんにならなかった。でも、青葉のまま人生が変わった。死んでしまった彼女の人生を引き継がず、彼女が生きていた事実と一緒に過ごした時間をこれからもずっと覚えていることを選択した。
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