異国には嫁に行きたくないので、空を渡ることにしました

七宮叶歌

文字の大きさ
18 / 50
第7章 揺れる

揺れるⅠ

しおりを挟む
 ゼインがぎっくり腰になってから、三日が経った。修理予定のプロペラは搭載される気配がない。まだ基礎部分だけが残されたままだ。
 朝のうちにアルフレッドがゼインに現状を報告する。ようやく起き上がれるようになったゼインはベッドに腰掛け、眉間にしわを寄せながらただただ唸り声を上げた。

「これが普通の修理速度なのか?」

「プロペラを一から作ってるなら頷ける速度ではありますけど。ちょっと遅いですねぇ」

 船大工ののんびりとした態度から言っても、ちょっとどころではないと思うのだ。

「絶対に急いでないよ、あの人たち」

「金だけはむしり取る気満々だしな」

 アルフレッドも腕を組み、大きく溜め息を吐く。

「こっちはお願いをしてる立場だし、無理強いは出来ないし……困ったな」

「少しだけ、弱みをちらつかせてみますか?」

 弱みとは何だろう。しかも、何故、ゼインはそれを知っているのだろう。首を傾げると、ゼインは口元を上げた。

「ちょっと伝手がありましてね。噂話なら僕の耳に入ってくるんです」

「また伝手?」

 ゼインは何者なのだろう。ただの執事、兼、航空士であるだけで、こんな伝手があるだろうか。気になりすぎる。
 じっとゼインを見詰めながら、ゆっくりと詰め寄った。しかし、身体がくっつく前にアルフレッドの手が私の肩を掴む。

「使えるものは使おう。便利だからな」

「ひょっとして、僕、道具扱いされてます!?」

 ショックを受けたように、ゼインは大袈裟に項垂れる。それを気に留める様子もなく、アルフレッドは私に微笑みかけた。

「これで少しは修理が進むと良いな」

「うん」

「……僕、ふてくされますよ?」

 アルフレッドと頷き合っていると、ゼインが頬を膨らませた。まるで少女がするような仕草だ。ちょっとだけ気持ち悪いと思ってしまった。
 アルフレッドは目を細める。

「レイン。止めなさい」

「はい」

 自分でも違和感があったのだろう。ゼインはすぐに口の中から空気を抜き、しゅんとしてしまった。

「よし、早速、船大工を脅しに行こう。レイン、あいつらの弱みを教えてくれ」

「それはですね――」

 『脅しに』なんて、私たちが悪者みたいだ。もう少し良い言い方がなかったのだろうか。ゼインの言葉をなんとなく聞きながら、少し呆れてしまった。

 * * *

 コンタクトレンズも入れ、変装はバッチリだ。黒髪のアルフレッドと一緒に、ホープ号の前に集まり始めた船大工たちの元へと向かう。
 棟梁は――いた。船大工たちの中心で大笑いをしている。

「ちょっと良いか?」

「ん? ああ、お前か」

 相変わらず、雇い主に随分な口の聞き方だな、とベージュの衣服に油の汚れがついている棟梁に目を細めた。
 アルフレッドは物怖じせず、真剣な顔で口を開く。

「もっと作業のスピードは上がらないか?」

「猛スピードでやってるだろう」

「話しながら、グダグダが猛スピードなのか?」

 アルフレッドの言葉に、棟梁は眉をひそめる。

「船を傷付けたのはお前だよな? 俺らにいちゃもんつけんのか?」

 その目力は後退りしてしまうほどの迫力だ。そこで、アルフレッドがあの言葉を持ち出す。

「……つい一ヶ月ほど前に、ここで事故があったんだってな」

「それがなんだ?」

 棟梁の表情にはまだ余裕がある。

「賠償金は払ってるのか?」

「払って――」

「払ってないよな?」

 アルフレッドは一歩前に出るけれど、棟梁も引かない。

「脅しか?」

「俺は報酬に見合った仕事をしてくれるなら、何も言わない。してくれないなら……分かってるよな?」

 アルフレッドの語気に、ついに棟梁が舌打ちをした。

「お前ら、急いで仕事するぞ!」

「えー!?」

「じゃねぇと、俺らの首が飛ぶ」

 棟梁はぎろりとアルフレッドと私を睨みつけると、金槌を手に取った。そのまま木材置き場へと向かう。

「これで良かったのかな? 私たち、恨みを買ったんじゃ……」

「素直に仕事をしてたら、こんな脅しなんかしなかった。仕事をしないあいつらが悪いって割り切るしかない」

「うーん」

 理不尽な世の中だ。それにしても、アルフレッドはよく立派に立ち回ってくれた。

「セシル」

「ん?」

 アルフレッドは若干、首を傾げる。

「私とレインは、セシルの味方だからね」

「……ああ」

 アルフレッドは微笑みながら、私の手を取った。温かい。自然とその温もりに縋っていた。

「じゃあ、毎朝恒例のラジオチェックでもするか。レインのところに戻るぞ」

「うん」

 昨日とは打って変わって、トンカチが釘を打つ音が響き始める。会話も少なくなっている。脅したかいがあったというものだ。とはいえ、あまり良い気持ちにはなれず、ゼインの部屋を目指した。
 タラップを上り、デッキを抜け、階段を降りる。ドアを開くと、一気に明るい部屋が広がった。

「船大工たち、ちゃんと仕事始めましたねぇ」

 この部屋の窓から見える分にも、明らかに船大工の仕事は見違えたのだろう。

「やりましたね、僕」

「交渉したのは俺だぞ?」

「情報提供したのは僕です」

 ゼインはドヤ顔をし、腰を反らそうとしてしまった。途中でゼインの悲鳴が上がる。

「レイン、そんなことしてたらまた悪化するぞ?」

「気を付けます……」

 ゼインの目には涙が浮かんでいる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ
恋愛
​漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。 死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。 しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。 向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。 一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

処理中です...