異国には嫁に行きたくないので、空を渡ることにしました

七宮叶歌

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第11章 暴かれる

暴かれるⅠ

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 朝一番でデッキに出てみると、アルフレッドとゼインが談笑していた。結びきれなかった横髪を押さえながら彼らに近付き、挨拶を交わす。

「おはよう」

「おはようございます」

 アルフレッドはいつもと変わらない笑顔で接してくれた。しかし、ゼインの瞼は腫れていて、少し恥ずかしそうだ。身体の前で手を組んでいる。

「いやー、昨日、寝そびれちゃったんですよ。嬉しくて、つい」

 その声は掠れている。ベッドで崩れるゼインを想像するだけで、胸がぎゅっと押し潰されそうだ。

「そうだろうと思ってた」

 私が小さく笑ってみせると、ゼインは肩を竦めて頭を掻く。アルフレッドも口角を上げ、ゼインに向き直る。

「言っただろ? ティアもお前をからかわないって」

「はい。その通りです」

 ゼインは土下座でもしそうな勢いで頭を下げた。そんなことをしなくて良いのに、と慌ててゼインに向かって手を振る。

「レイン、頭を上げて」

 思わず叫ぶと、ゼインは素直に従ってくれた。アルフレッドは何かを思い出したように、腕を組んだ。

「そうだ。今まで、散々『伝手』だって言ってたのは誰なんだ?」

「ルーヴェン王国の伯爵家の友人です。手紙を送り合ってる仲なんですよ」

 なるほど、そういうことなのか。貴族なら偽名で国境の通行許可証も作れるし、国境付近の島の事情も把握出来るだろう。時間がなかったとはいえ、通行許可証くらいグライゼル侯爵が何とか出来なかったのかと考えてしまう。

「ルーヴェン王国では友人がいなかったのかと思ったが……安心した」

 アルフレッドがにこやかに微笑むと、ゼインも照れたように「えへへ」と笑った。

「これでも公爵家の血が混ざってますからね。親には蔑ろにされても、周りは蔑ろに出来ないでしょ」

「それはそうだ」

 貴族の世界には疎いので、私には良く分からない。もっと貴族とも交流を持っておいた方が良かっただろうか。そこまで考えて、貴族を王宮島まで呼ぶ手段が私にはなかったことに気付く。堪らずに口をへの字に曲げた。

「ティア、どうした?」

「ちょっと暗いですねぇ」

 二人でじっと私の顔を覗き込む。いつの間に、表情に出ていたのだろう。もっと早くアルフレッドと出会っておきたかったという思いは胸に閉じ込め、笑ってその場を取り繕った。

「もしかして、僕の心配でもしてくれました?」

「そうじゃないだろ」

 相変わらず、ゼインのボケとアルフレッドのツッコミは健在だ。それだけでどこか安心してしまう。小さく笑うと、二人の顔にも笑みが戻っていった。

「次はどんな島に降りられるかなぁ」

 どうせ降りるなら、楽しめる場所が良い。昨日までいた飲み屋街だって良いし、公園でも良い。欲張れば遊園地や動物園があれば最高だ。
 雲のかかる空を見上げながら胸をときめかせていると、ゼインは顎に手を当てた。

「次は、そうですね……。水族館がある島にしましょうか」

「水族館!?」

「はい。食べられる魚も、食べられない魚も泳いでますよ」

 やった、また楽しめる島だ。心の中でガッツポーズを決め、水族館に思いを馳せる。ロゼリアの話では、水族館はデートスポットだと聞いたことがある。

「デートスポット? ん……?」

 あらぬ方向に想像が及んでしまい、ぼっと頬が熱を持つ。アルフレッドだけではない。ゼインも一緒にいるのだから、告白だなんてそんなことは――。
 そもそも、アルフレッドも私のことを恋愛対象として好きでいてくれているのか、はっきりしない。私が勝手に好きになって、気持ちを閉じ込めているだけなのだから。それでも、どこかで期待してしまう。
 ゼインがアルフレッドのことを肘で小突いているようだけれど、それを気にしている余裕はない。

「どんな魚がいるか、楽しみだなぁ」

 咄嗟に震える声を出してしまったので、気付かれるかもしれないと冷や冷やしてしまう。アルフレッドの頬もどことなく赤く見えるのは気のせいだろうか。

「お二人とも若いですねぇ」

 ゼインがにやにやと言うので、手に汗まで掻いてしまった。これ以上冷やかさないで欲しいな、とゼインに口を尖らせる。アルフレッドは俯いたまま、なかなか目を合わせてくれなかった。
 いっそのこと、想いを態度に出してアルフレッドに告白されるのを待った方が良いのだろうか。そう考えたけれど、態度に出すやり方が分からない。もっと素直に生まれてくれてたら良かったのにな、と自分の性格に文句をつけてみるのだった。

 * * *

 待っていたようで待っていなかった水族館へ行く日は、ぼんやりと空を眺めているうちにやってきた。今日はあいにくの曇り空だ。建物に入ってしまえば天気なんて関係ないのだけれど、どうせなら晴れが良い。
 ラジオでは雨は降らないと言っていたから、まあ良しとしよう。

「セシル様、ティア様。お二人は新婚で、僕は付き人です。その設定を忘れないで、思いっきりデレデレしてくださいね」

 散々アルフレッドの手を握ってきたのに、恋を自覚するだけで、それさえも躊躇ってしまうなんて。自分が分からなくなる。
 隣にいるアルフレッドを見上げてみると、彼もまた揺れる瞳を私へと向けてくれた。その表情は硬い。

「今のお二人には簡単でしょう?」

 簡単なはずがないではないか。それなのに。

「ああ、やってやる」

 アルフレッドは決意に満ちた瞳をゼインに向ける。ゼインは硬直する私を気にも留めず、チケット売り場へと行ってしまった。
 私はどう振る舞えば良いのだろう。必死に回らない頭を働かせていると、アルフレッドがピタッとくっついてきたのだ。鼓動は最高潮に早くなっている。そのまま倒れるのではと思うほどだ。
 アルフレッドの手が私の手に触れ、指を絡めてくる。
 
「設定だ、設定」

「分かってるよぉ」

 これは世界を欺く作戦だ。アルフレッドもそれに乗っているだけで、深い意味はない。汗ばんだ手を握られたくなくて、離す言い訳を考えてしまう。
 思考に夢中になってもたもたしている間に、段々と雲が暗い色になってきた。嵐や雷雨なんて起きなければ良いな、と不安が募る。
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