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第14章 囁く
囁くⅢ
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「アルフレッド……!」
もはや叫び声に近い。それでもアルフレッドは返事をしてくれない。
怖くなってしまい、弾かれるように倉庫を出ていた。向かうは操縦席だ。
「ゼイン! 助けて……!」
声の限り、必死に叫ぶ。
ゼインは何かを察したように、緊迫した表情で振り返った。無言のまま立ち上がり、倉庫へと走る。
「セシル様、どうしました!?」
ドアを開け放った瞬間に、ゼインが叫ぶ。しかし、やはり反応はない。
「まずいですね。出血が……」
ゼインはそれ以上は言わず、肩のタオルを締め直す。ガーゼと包帯も交換していく。アルフレッドは悲鳴も上げてくれない。
「どうしよう……! このままじゃ死んじゃう……!」
「大丈夫ですから。落ち着いてください」
こんなに大量の血を見て、落ち着けるはずもない。アルフレッドにしがみつき、わあわあと声を上げる。
「ティア様、深呼吸しましょう。吸って……吐いて……」
ゼインの言葉に合わせて、呼吸を整えていく。心が落ち着きはしないけれど、過呼吸気味だった呼吸はだいぶ楽になった。
「セシル様を寝かせてあげましょうね」
「……うん」
ゼインはアルフレッドを彼の部屋に運び、そっと寝かせた。小さな呼吸音と肩の上下が、まだアルフレッドがここに留まっていてくれていることを示している。
「アルフレッド、起きて。ちゃんと仲直りして、笑いたかっただけなのに……」
何故、こんなことになってしまったのだろう。
「ずっと側にいてよぉ……」
両目からは涙が溢れる。
いたたまれなくなったのか、居心地が悪くなったのか、ゼインの気配は消えていた。
アルフレッドの手を取り、そっと包み込む。無言の時間がどれだけ続いただろう。泣き疲れてきた頃、アルフレッドの重い瞼が徐々に開いたのだ。
「アルフレッド?」
声を掛けると、空色の瞳はこちらを向いた。
「メヌエッタ……。俺は……」
「何も考えなくていいから。今は、それで良いから」
亡命のことも、私たちが喧嘩中だったことも忘れて、しっかりと休んで欲しい。
「やっぱり痛い、な……」
アルフレッドは顔を歪めて肩に目を向ける。
「すぐ治るよ」
「そんな簡単に言うな」
「きっと何とかなる。何とかならなかったことなんてないでしょ?」
「それもそうだな」
アルフレッドは酷く安心したように、深く息を吐き出した。自分は大怪我をしておいて、私の心配をするなんて。
もう我慢出来ない。涙を流しながら、口角を上げる。直後に身を乗り出し、アルフレッドの唇に自身の唇を落とす。そのままアルフレッドの身体に抱き着いた。
「メヌエッタ……?」
「最悪の仲直りだよ……」
失わなくて良かった。この温もりが消えてしまわなくて良かった。ずっとこの時間が続けば良いのに。少しだけ血の匂いが漂う部屋で、アルフレッドの生還を一人噛み締めるのだった。
* * *
「ホープ号も全速力で飛行していますが、騎士たちの船も負けずに後を追ってきています」
銃撃事件から二日が経っても、騎士たちを追い払えずにいた。空という場所は自由だけれど、身を隠せる場所がないのだ。あいにくの晴天続きで、雲の中にすら隠れられない。
「最新鋭のホープ号でさえ追ってくるなんて、ハルネイオ国王直属の飛空船はどれだけ速いんだって話ですよ」
操縦席でキャノピーからの景色を見ながら、ゼインは愚痴を溢す。
「あと、どれだけこの船は飛べる?」
「二時間が限界ってところですね。燃料が切れます」
あと二時間――立ち寄れる島がなければ、海に真っ逆さまという訳だ。
「どこかに着陸は出来る?」
「出来ますけど、着陸したら捕まりますよ。一大観光地ですから、逃げ場なんてありませんし」
人目が多く、逃げられない。それなら銃は使えない、ということではないだろうか。命は助かる。――その場では。
「なんとか石炭だけを積める方法はないか?」
「空の上でなんて無理ですよ。大体、誰が運んできてくれるんですか」
「父上、とか」
「グライゼル侯爵だって、そこまで出来ませんて」
アルフレッドとゼインは話が詰まってしまったようだ。私が閃いた案は、一か八かの大勝負だ。二人が納得してくれるとは思えない。伝えずに、強行突破しても良いだろうか。
「うーん……」
無意識のうちに唸り声が漏れていた。
「メヌエッタは何か良い案が浮かんだか?」
「良い案かは分かんないけど……」
「どんなことだ?」
アルフレッドは微笑みながら、話の先を促す。
仕方がないので、私が立てた作戦を小声でボソボソと話してみる。アルフレッドは納得のいかない表情に変わり、ゼインは目を見張った。
「上手く行けば……」
ゼインは言葉を飲み込み、小さく頷く。
「でもな、危険すぎはしないか? 成り行きをメヌエッタだけに任せるのも、俺としては……」
アルフレッドは軽く首を振り、頭を抱える。
「でも、これは私だからこそ出来る作戦なの。アルフレッドが同じことをしたら、殺されて終わりなんだから」
「それはそうなんだけどな」
アルフレッドはゼインと顔を見合わせ、小さく息を吐いた。
「怖いけどね。三人とも殺されて終わりなんて、私は絶対に嫌」
きっと、この作戦なら全員生き延びられる。拳を握り締め、来たる島へと思いを滾らせた。
もはや叫び声に近い。それでもアルフレッドは返事をしてくれない。
怖くなってしまい、弾かれるように倉庫を出ていた。向かうは操縦席だ。
「ゼイン! 助けて……!」
声の限り、必死に叫ぶ。
ゼインは何かを察したように、緊迫した表情で振り返った。無言のまま立ち上がり、倉庫へと走る。
「セシル様、どうしました!?」
ドアを開け放った瞬間に、ゼインが叫ぶ。しかし、やはり反応はない。
「まずいですね。出血が……」
ゼインはそれ以上は言わず、肩のタオルを締め直す。ガーゼと包帯も交換していく。アルフレッドは悲鳴も上げてくれない。
「どうしよう……! このままじゃ死んじゃう……!」
「大丈夫ですから。落ち着いてください」
こんなに大量の血を見て、落ち着けるはずもない。アルフレッドにしがみつき、わあわあと声を上げる。
「ティア様、深呼吸しましょう。吸って……吐いて……」
ゼインの言葉に合わせて、呼吸を整えていく。心が落ち着きはしないけれど、過呼吸気味だった呼吸はだいぶ楽になった。
「セシル様を寝かせてあげましょうね」
「……うん」
ゼインはアルフレッドを彼の部屋に運び、そっと寝かせた。小さな呼吸音と肩の上下が、まだアルフレッドがここに留まっていてくれていることを示している。
「アルフレッド、起きて。ちゃんと仲直りして、笑いたかっただけなのに……」
何故、こんなことになってしまったのだろう。
「ずっと側にいてよぉ……」
両目からは涙が溢れる。
いたたまれなくなったのか、居心地が悪くなったのか、ゼインの気配は消えていた。
アルフレッドの手を取り、そっと包み込む。無言の時間がどれだけ続いただろう。泣き疲れてきた頃、アルフレッドの重い瞼が徐々に開いたのだ。
「アルフレッド?」
声を掛けると、空色の瞳はこちらを向いた。
「メヌエッタ……。俺は……」
「何も考えなくていいから。今は、それで良いから」
亡命のことも、私たちが喧嘩中だったことも忘れて、しっかりと休んで欲しい。
「やっぱり痛い、な……」
アルフレッドは顔を歪めて肩に目を向ける。
「すぐ治るよ」
「そんな簡単に言うな」
「きっと何とかなる。何とかならなかったことなんてないでしょ?」
「それもそうだな」
アルフレッドは酷く安心したように、深く息を吐き出した。自分は大怪我をしておいて、私の心配をするなんて。
もう我慢出来ない。涙を流しながら、口角を上げる。直後に身を乗り出し、アルフレッドの唇に自身の唇を落とす。そのままアルフレッドの身体に抱き着いた。
「メヌエッタ……?」
「最悪の仲直りだよ……」
失わなくて良かった。この温もりが消えてしまわなくて良かった。ずっとこの時間が続けば良いのに。少しだけ血の匂いが漂う部屋で、アルフレッドの生還を一人噛み締めるのだった。
* * *
「ホープ号も全速力で飛行していますが、騎士たちの船も負けずに後を追ってきています」
銃撃事件から二日が経っても、騎士たちを追い払えずにいた。空という場所は自由だけれど、身を隠せる場所がないのだ。あいにくの晴天続きで、雲の中にすら隠れられない。
「最新鋭のホープ号でさえ追ってくるなんて、ハルネイオ国王直属の飛空船はどれだけ速いんだって話ですよ」
操縦席でキャノピーからの景色を見ながら、ゼインは愚痴を溢す。
「あと、どれだけこの船は飛べる?」
「二時間が限界ってところですね。燃料が切れます」
あと二時間――立ち寄れる島がなければ、海に真っ逆さまという訳だ。
「どこかに着陸は出来る?」
「出来ますけど、着陸したら捕まりますよ。一大観光地ですから、逃げ場なんてありませんし」
人目が多く、逃げられない。それなら銃は使えない、ということではないだろうか。命は助かる。――その場では。
「なんとか石炭だけを積める方法はないか?」
「空の上でなんて無理ですよ。大体、誰が運んできてくれるんですか」
「父上、とか」
「グライゼル侯爵だって、そこまで出来ませんて」
アルフレッドとゼインは話が詰まってしまったようだ。私が閃いた案は、一か八かの大勝負だ。二人が納得してくれるとは思えない。伝えずに、強行突破しても良いだろうか。
「うーん……」
無意識のうちに唸り声が漏れていた。
「メヌエッタは何か良い案が浮かんだか?」
「良い案かは分かんないけど……」
「どんなことだ?」
アルフレッドは微笑みながら、話の先を促す。
仕方がないので、私が立てた作戦を小声でボソボソと話してみる。アルフレッドは納得のいかない表情に変わり、ゼインは目を見張った。
「上手く行けば……」
ゼインは言葉を飲み込み、小さく頷く。
「でもな、危険すぎはしないか? 成り行きをメヌエッタだけに任せるのも、俺としては……」
アルフレッドは軽く首を振り、頭を抱える。
「でも、これは私だからこそ出来る作戦なの。アルフレッドが同じことをしたら、殺されて終わりなんだから」
「それはそうなんだけどな」
アルフレッドはゼインと顔を見合わせ、小さく息を吐いた。
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