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第一章 夢
第一章 夢(出会い)
しおりを挟む生暖かい風に、重たい瞼を開けた。
ぼやけた視界のすぐ目の前に何かがいる
……いや、あると言った方が正しいのか?
何度か瞬きをして、ようやくその正体がわかった
どうやら大きな口らしい、上下にギザギザの立派な歯が規則正しく並んでいる
………………口?歯?
「なっ……!!」
なんだこれは!!!??
そう、口に出す間もなく目の前にいたソレは後ろから飛んできた短剣によってゴロリと転がって自分から遠ざかる。
「何やってんだよ、夢姫」
すぐ後ろから声がして、振り返ると
紫の瞳 明るめの茶色い髪を左側で三つ編みにした人が立っていた。
見た目は女性にも、男性…青年にも見える。
「だ、……誰ですか」
「……は?誰って、ユメアだけど。夢姫寝ぼけてんの?」
「ユメアさん、えっと……」
ここはどこでしょうか、
そう聞く前にユメアと名乗った人物は夢姫の前にしゃがみこんでまじまじと顔を見つめてきた。
顎に手を置いて、「んんん?」と首をかしげるユメアの後ろから新たな人影が3つ。……いや、4つ。
「夢喰い倒した?」
そう言ってきたピンクのワンピースに身を包んだ女の子は先ほど転がった怪物の元へ小走りに近寄った。
そんな彼女の後ろについて水色の髪の人が一緒に見に行く。
「夢姫大丈夫?」
はっとして振り返ると妖精……小さな小さな女の子が夢姫の肩に座っていた。
「なぁライカ、夢姫変なんだけど」
「変?」
ライカ、と呼ばれた男性。
金髪で右目に包帯を巻いている。
ユメアと同じように夢姫の目の前にしゃがみこんで彼女の顔を見た。
「……あ、あの。ここ、どこですか?」
「……そうだね、夢の世界とでも言うのかな」
一瞬見開いてふっと目を伏せライカは言う。
「……『ゆめ』を喰われたのかもしれない」
彼のその一言にユメアははぁ?!と声を上げる。
「ユメア、お前がここに来た時夢姫の状態は?」
「それは……」
「あ、あの私、目が覚めたら あの変な怪物の大きな口が目の前にあって、」
簡単に説明をするとライカは「ああ」と小さく何度も頷いた。
「やっぱり喰われたのか……。えーと、夢姫さん、順を追って説明するからとりあえず……」
そこまで言いかけると、後ろの方からズズンと重たく大きな音が聞こえた。
振り返ると、さっき倒れた怪物……夢喰いが起き上がってその大きな口をまた開いていた。
「あの子を封印しようか、ユメア」
「ういーっす」
夢姫を夢喰いから隠すように、ユメアとライカは彼女の前に立つ。
肩に乗っていた少女には「危ないからもう少し下がろう」と促された。
「あ、私はキーリだよ。」
「キーリ、さん?」
キーリでいいよ!と夢姫の肩から飛び立って、こっちだよと誘導してくれる。
近くにあった岩陰に身を潜め、顔だけを出して彼らの様子をキーリと見た。
夢喰いの目の前にユメアが短剣を構え、その横には水色の髪の子
少し後ろにライカとワンピースの女の子がいた。
ユメアの合図で前者2人は夢喰いに攻撃をする。
切り裂いてもその身は瞬く間に修復されているのを見た。あれでは急所を仕留めないと倒せなさそう……。
「……見えた、額だよ」
「アリス、頼む!」
ライカが夢喰いの、人間で言うおでこになる場所に指を指し
ユメアはライカの隣にいた女の子…アリスに合図を出す。
「…………~~♪」
心が落ち着くような静かな歌声。
アリスが歌を歌い始めたのだ。
すると夢喰いはそれまで暴れていたのにその動きを止めてうんともすんとも言わなくなった。
ギョロギョロと大きな目玉だけが忙しなく動いている。
「ドール頼んだ」
ユメアの隣にいた水色の髪、ドールと呼ばれた子は
地を蹴って高くジャンプをすると
夢喰いの頭に乗り、羽織っているマントで隠れていて見えなかったが腰後ろあたりに隠してあった短剣をライカが指示した場所に突き立てる。
途端、耳を塞ぎたくなるような奇声が辺りを包み込む。
夢姫は我慢出来ずに耳を塞いだが、ほかの皆は平然としていた
時々キーリが「大丈夫?」と心配して聞いてくる。
「倒したの……?」
「ううん、まだだよ」
見て、とキーリが言う。
ユメアが、懐から細長い紙切れを取り出して何か喋っている。
あれは……一般的に言うお札かなにかだろうか。
となると、喋っているのは呪文……?
ユメアは それ を言い終わると、夢喰いめがけて札を飛ばす。
黒い霧に包まれた夢喰いは、その霧が晴れると跡形もなくなっており、
かわりに夢喰いが居た場所には
小さなマスコットサイズの
気持ち悪い夢喰い……の、石?が転がっていた。
「封印完了ー」
その石を拾い上げてユメアは夢姫の方を振り返る。
「もう出てきていいぜ」
「さてと、じゃあ説明しようか」
まずは簡単な自己紹介でもしようか?とライカがにこにこしている。
「仲間に改めて自己紹介とかなんか変なの」
「仲間……?」
忘れかけていたけれども、ここは夢の世界(らしい)
それで、この人たちは私のことを知っている。
何もかも知らない……覚えていないのは私の方だ。
「俺はライカ。見ての通り目が不自由でね
右目は見えないし、左目もあまり見えてない」
「ユメアだ」
…………
「……それだけかよ」
「あ?」
もう一言なにかあるだろ、とちょっとした口論になるライカとユメア。
夢姫は「あのっ大丈夫です、大丈夫です」と和解に入った。
「私はキーリだよ、この世界では珍しい……のかはわからないけどちょっと特殊な種族なんだ。だからこんな姿だけど、皆とあんまり歳は変わらないよ」
「アリスだよ!あのね、アリス歌が好きなの!」
えへへと笑いながら夢姫の右腕をぎゅっと掴むアリス
なんとなく泣きそうな顔をしてるのはきっと、私がこの人たちのことを忘れてしまっているから。
水色の髪の……ドールさん、だっけ
この人なんてマフラーで口元隠れているし、全然喋ってくれない。
「……あ、この子はドール。訳あって喋れないけれども、テレパシーが使えるから」
じっとドールのことを見つめていた夢姫に気がついたのか、ライカが教えてくれた。
喋ってくれないんじゃなくて、喋れないんだ。
「他にも色々話したいところだけど、そろそろ起きる時間だね」
「起きる、時間?」
「最初にも少し話したけどここは夢の世界。活動時間は限られてるんだ……まあ、続きは起きたらにしよう」
途端ぐらりと視界が歪んで瞼が重くなった。
突然の睡魔……。
夢の世界だと言っているのに眠くなるなんて変な感じだ。
「おやすみ夢姫」
瞼を閉じて、力が抜けてふらついた夢姫を抱きとめた誰かがそう言った。
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