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滲む窓
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雨の降る休みの日、俺はバスに乗って、イヤホンで音楽を聴きながら、雨粒が当たって滲む、窓の景色を見ていた。
貴女に逢いたい。
そう切なく想った。
花に例えるなら、青い紫陽花。一目惚れだった。
俺の仕事場に、お客としてやって来た君は、サラサラの黒髪のボブヘアで、淡い青紫色のレースのワンピースに、黒いヒールサンダルを履いていた。
内心ドキドキしていた俺は、いつの間にか、その人を目で追っていた。
その人の歩く後ろ姿を目で追って、見えなくなると、耐えられない喪失感に支配された。
また来てほしい。そう思った。
俺は相変わらず、仕事をこなして、アパートに帰る、の繰り返しだった。
ただ、あの人を忘れることは出来なかった。
ある雨の降る日、なんとなくあの人に会えるかな、と思って、俺は、傘を持って、用もなく出かけた。
交差点で、赤信号で立ち止まると、向かいに、その人はいた。
青い傘をさして、佇んでいた。
俺はただ、見とれていた。
信号が青に変わって、歩きだした。
同じ道をすれ違えるだけで、幸せな気持ちになれた。
その人は、俺に気づいていなかったが、俺は雨に感謝した。
貴女を見れたから。
あの場所に行こう、と、俺はある場所に向かった。
歩いて15分程にある、公園。
梅雨時期は、この場所が、青い紫陽花で一杯になる。
俺はただぼんやりと、イヤホンで音楽を聴きながら、露を浴びる紫陽花を見ていた。
雨はしとしとと、降っていた。
あの人と手を繋げたら、どんなにいいだろう。あの人の声は、どんなだろう。
涙が一粒、頬をつたった。
俺は、手で払って、また帰った。
何もない毎日。貴女はその中の青い光。
俺の唯一の希望の光。
帰り道、雨はやんでいた。傘をとじると、遠くの空に、虹がかかっていた。
貴女は、あの虹を見ていますか?
心の中で、呟いた。
明日、仕事場に、もしあの人が来てくれたら、もし何か買い物をしたら、その時は、店の割引券を手渡そう、と思った。
少し、嬉しい気持ちになったから、帰り道がつまらなくなかった。
朝になり、職場へ向かった。
少し、いつもと違う気持ちで仕事をこなした。
ただ、あの人が来てくれることを祈り続けた。
しかし、その人はこず、俺はまた、少し暗い気持ちになっていった。
店が閉まる数時間前、今日はもう来ないな、と思っていたら、その人は現れた。
俺は、ポケットの中に入れていた、割引券を意識し始めた。
ただ、ただ、声を聞きたかった。
今日は、仕事帰りらしく、すっきりとした服装だった。
その人が手に取ったのは、青いグラスだった。
それを持って、俺のいる、レジに近づいてきた。
初めて見るその人の瞳は、透き通った美しい瞳だった。
「お願いします。」
と言ったその人の声は、近くなのに、遠くで、優しく響いた。
俺は、会計を済ますと、グラスが割れないよう、紙で包んで袋に入れ、ポケットに入れていた割引券を出し、
「これ、良かったら使って下さい。」
と言って、その人に、グラスの入った袋と一緒に割引券を差し出した。
その人は、少し戸惑って、受け取るのを少し躊躇っていた。
俺は、なるべく明るく、
「今、キャンペーンで配っているんですよ。良かったら、使って下さい。」
と言って、再度、差し出した。
その人は、やっと安心して、
「ありがとうございます。」
と言って、グラスと割引券を受け取ると、初めて、俺の目を見た。
目が合った時、俺は完全に恋に落ちていた。
その人は、会釈して、帰って行った。
俺はまだ、その人の瞳が忘れられず、心が熱くなった。
仕事が終わり、帰り道、キレイな瞳だったなぁ。
と、何度もあの人を想った。
割引券は、また来てほしい、という俺のずるい願いからだった。
暫く店にあの人は現れなかった。
予想はしていたから、喪失感はなかった。
また来てくれる、と、信じられたから。
俺はいつまでも待っている。あの人がまた、現れるのを。
部屋から朝日を見ては、あの人も見ているだろうか。と思ったり、雨が降れば、あの人は、青い傘をさして歩いているだろうか。と、思った。
もうずっと、店に貴女は現れなくなった。
また、俺は、気持ちが暗くなっていった。
夏がきて、秋がきて、冬がきた。
俺は、コートを羽織り、仕事に出かけた。
店の中は、クリスマスの商品が多くなった。
子連れのお客が多くなった。
クリスマスイブの日、仕事をしていたら、その人は、現れた。
カツカツと、ブーツを鳴らしながら、店の中を歩いて回っていた。
俺はびっくりして、緊張してしまった。
その人は、レジにやってきて、
「お願いします」
と、シルバーのピアスをカウンターに置いた。
メンズのものだから、きっと彼氏にプレゼントするのだろう。と思い、辛かった。
「ありがとうございます。」
と言って、会計をしようとすると、以前渡した割引券をその人は、差し出した。
ちゃんと使ってくれたのが、嬉しかった。
ピアスを袋に入れようとしたら、その人は、
「ラッピングをお願いします。」
と言った。
俺は、
「わかりました。」
と言い、心が傷だらけになりながら、ラッピングしてから、その人に手渡した。
すると、その人は、驚いたことに、
「これ、良かったらもらって下さい。」
と、俺に差し出した。
俺は何が起きたのか頭が追い付かなかった。
ただ、物凄く嬉しかった。
「ありがとうございます。でも、何故俺ですか?」
と言うので精一杯だった。
その人は、
「貴方が好きだから。」
と、雨で濡れた紫陽花のような瞳で、透き通るように言った。
ピアスを受け取ると、俺は決心して、
「もし良かったら、俺と付き合ってくれませんか。」
と、心に溜め込んでいた想いを、やっと伝えた。
その人は、
「はい。」
と、笑顔で、初めて見る笑顔で、応えてくれた。
お互いの連絡先を教えあって、その人は、
「今日は、いつまでですか?」
と聞いた。
俺は、
「もうすぐ閉めます。」
と答えた。
「じゃあ、一緒に夕食を食べに行きませんか?」
と言った。
俺は、
「いいですね。行きましょう。」
と、言うと、嬉しくて、仕方なかった。
店を閉めて、二人で、夜遅くまでやっている、レストランに入った。
料理を食べながら、
「俺、実は、貴女に初めて会った時から、一目惚れだったんですよ。」
と、告白した。
その人は、
「私は、いつの間にか、貴方が心の中にいました。」
と、言った。
窓から見えるイルミネーションがキレイで、二人でお酒を頼んだ。
その人はカクテルを、俺はワインを、それぞれ頼んだ。
その夜の帰り道、その人を自宅まで送った。
わりと、俺の部屋と近かった。
「じゃあ、また。」
と言って、別れた。
帰り道、嬉しくて、少し触れる肩、髪の香り、その人の全てが俺を夢の中に連れていった。
アパートに着いて、連絡先に、
「今度の休みに、貴女の部屋に遊びに行ってもいいかな。」
と、聞いてみた。
「いいですよ。」
と、返事がすぐ来た。
次の休みに俺は、もらったピアスをつけて、近所で美味しいと有名な、スイーツを二つ買って、あの人のアパートへ、向かった。
イヤホンで、明るい音楽を聴きながら、歩いた。
その人のアパートに着き、インターホンを押した。
「はい。」
と、その人は、ドアを開けて、
「どうぞ。」
と、俺を向かい入れてくれた。
その人の部屋は、白い壁に青いカーテンが印象的だった。
「青、好きなの?」
と聞くと、
「うん。」
と、いった。
スイーツを渡すと、
「ありがとう。」
と言って、二人で、小さな丸テーブルで、食べた。
「ピアス、似合ってる。」
「ありがとう。気に入ってるよ。」
「これ、美味しいね。」
「これは、近所の人気の店の。」
「今度、教えて。」
「コーヒーでいい?」
「うん。」
好きな人と一緒だと、何でも嬉しい、と感じた。
「普段何の仕事してるの?」
「花屋」
「じゃあ、花には詳しいんだね。」
「一応。」
控えめに、その人は言った。
「俺、君を初めて見た時、青い紫陽花みたいだな、って思ったよ。」
「そう。」
その人は、少し遠い目をした。
それが、俺は不思議だった。
「今度は私が貴方の部屋に行ってもいいかな。」
「もちろん。」
笑顔で答えた。
「花屋はどの辺?」
「ここから歩いて20分くらいのパン屋の隣。」
「ああ、あそこのパン美味しいよね。」
「うん。いつも、お昼は、そこのパン。」
俺はこの人に何が出来るだろう。
たぶん、青い紫陽花には、何かトラウマがある。まだ、知らないことがたくさんある。
ただ、俺は、この人を護りたい。一緒にいたい。失いたくない。
「ねえ、手を繋ごう。」
俺は貴方が好きだと伝えたい。そう思ったら、口をついて言葉がでていた。
「うん。」
その人は、俺の横に座って、手を差し出した。
俺は、ギュッと強くその人の手を握った。
「何かあったの?」
「貴女を失うのが怖くて。」
その人は、少し笑って、
「私は何処へも行かないよ。」
「散歩行こうか。」
俺は、突然思いついて言った。
「いいよ。」
二人で手を繋いで、ゆっくり歩いた。
この時間、川が夕日に照らされ、綺麗に光るのを見れる橋がある。5分程歩くと、案の定、夕日は川を照らし、輝いていた。
「綺麗だね。」
二人で光る川を見ていた。
「今日は、ありがとう。」
その人は、風に髪をなびかせながら、
「私も楽しかった。ありがとう。」
と、笑顔で言った。
俺は、帰って、ピアスを外し、何かお返しを、と思い、休みの日にデパートに行った。
これしかない、と思ったものに出会えた。
青い一粒石のネックレス。
あの人にぴったりだと思った。
ラッピングしてもらった。
その夜、その人に連絡して、いつ頃来れそうか聞いてみた。
今週末に来れそう、と返事が来た。
俺には、癒えない闇が。君には、癒えない過去が。互いにある。
でも、二人なら、互いの溶けない氷が、暖かい陽射しで、溶けるように楽になる。
そう思う。
仕事をしていたら、その人がやってきた。
「仕事は?」
と聞くと、
「早く貴方に逢いたくなって。」
と言って、少し抜けさせてもらったらしい。
「もうすぐ春だね。桜が咲いたら、写真を撮りに行こうか。」
「うん。」
貴女は笑顔になって、
「じゃあ、そろそろ行くね。」
「うん。今週末、楽しみにしてるね。」
「私も。」
その人がいなくなると、寂しさが俺の心を支配した。
週末、イヤホンで、音楽を聴きながら、あの人のアパートに向かった。
インターホンを押すと、笑顔で、
「待ってたよ。」
と言った。
「準備できた?」
「うん。」
「じゃあ、行こうか。」
俺は、手を差し出した。
その人は、手を繋いでくれた。
二人、並んで歩いた。
キラキラ光る川の橋を渡り、少し歩いて、俺のアパートに着いた。
途中、この間のスイーツの店の場所を教えたら、
「食べたくなったら買いに行く。」
と、嬉しそうに言った。
俺は、君の笑顔が嬉しいよ。と、言いたかった。
君は、遠慮しながら、不思議そうに、部屋に入った。
「貴方の部屋、海の中みたい。静かだね。」
「気に入ってるんだ。ありがとう。」
「コーヒーでいい?」
君は、
「これ、二人で食べたくて。」
と、あのパン屋の人気のパンを何種類か、袋から出した。
俺は、
「ありがとう。最近食べてなかったから、嬉しいよ。」
と、言った。
二人でパンとコーヒーを食べながら、お互いの日々を話した。
俺は、
「少し待ってて。」
と言って、あのネックレスをとりに行った。
持ってくると、スッとその人の前に差し出した。
「ピアスのお礼と、俺の気持ち。」
その人は、びっくりして、
「ありがとう。」
と、嬉しそうに、受け取ってくれた。
箱を開けて、
「キレイ。」
と、ネックレスを見つめた。
「君に似合うと思って。」
「青、大好きなんだ。ありがとう。」
お互い、笑顔になって、
「着けてみていいかな。」
「どうぞ。」
と、言った。
ネックレスを着けた君は、美しかった。
上手く言えなくて、ただ、見とれていた。
君は、俺を見て、ニコッと笑顔になった。
「実はね、だいふ前から、考えてたんだけど、俺達、一緒に暮らさない?俺は君が好きだよ。君の側にいたい。」
「私も貴方と暮らしたい。貴方の側にいたい。」
俺は、そっと、その人の頬に手を添えて、初めてキスをした。
「私に幸せを与えてくれてありがとう。」
「貴女は俺の、闇を照らす、希望の光だよ。」
俺は、君を抱きしめた。
「今度、不動産に行こう。」
休みの日に、二人で暮らす部屋を、探しに行った。
空が広く見える部屋が、お互い気に入って、そこに決めた。
お互いの仕事場に歩いて行ける範囲なのも良かった。お互いの両親に挨拶もした。
新しい部屋で、二人の生活が始まった。
カーテンは、青にした。
貴女は、花を活けてくれた。
スイーツを買いに行き、二人で食べた。
「結婚しよう。二人なら、幸せになれる。俺には、君が必要だよ。」
「私も貴方しかいない。これから、よろしくお願いします。」
指輪は、青い石のついたシンプルなリングにした。
窓からは、いつも、明るい光が差して、毎日にはいつも、君がいて、もう、ほかに何もいらなかった。
この幸せな日々に、感謝しながら、君の幸せそうな寝顔を見つめて、俺は、闇が無くなっていく気がした。
ありがとう。明日、伝えるよ。
貴女に逢いたい。
そう切なく想った。
花に例えるなら、青い紫陽花。一目惚れだった。
俺の仕事場に、お客としてやって来た君は、サラサラの黒髪のボブヘアで、淡い青紫色のレースのワンピースに、黒いヒールサンダルを履いていた。
内心ドキドキしていた俺は、いつの間にか、その人を目で追っていた。
その人の歩く後ろ姿を目で追って、見えなくなると、耐えられない喪失感に支配された。
また来てほしい。そう思った。
俺は相変わらず、仕事をこなして、アパートに帰る、の繰り返しだった。
ただ、あの人を忘れることは出来なかった。
ある雨の降る日、なんとなくあの人に会えるかな、と思って、俺は、傘を持って、用もなく出かけた。
交差点で、赤信号で立ち止まると、向かいに、その人はいた。
青い傘をさして、佇んでいた。
俺はただ、見とれていた。
信号が青に変わって、歩きだした。
同じ道をすれ違えるだけで、幸せな気持ちになれた。
その人は、俺に気づいていなかったが、俺は雨に感謝した。
貴女を見れたから。
あの場所に行こう、と、俺はある場所に向かった。
歩いて15分程にある、公園。
梅雨時期は、この場所が、青い紫陽花で一杯になる。
俺はただぼんやりと、イヤホンで音楽を聴きながら、露を浴びる紫陽花を見ていた。
雨はしとしとと、降っていた。
あの人と手を繋げたら、どんなにいいだろう。あの人の声は、どんなだろう。
涙が一粒、頬をつたった。
俺は、手で払って、また帰った。
何もない毎日。貴女はその中の青い光。
俺の唯一の希望の光。
帰り道、雨はやんでいた。傘をとじると、遠くの空に、虹がかかっていた。
貴女は、あの虹を見ていますか?
心の中で、呟いた。
明日、仕事場に、もしあの人が来てくれたら、もし何か買い物をしたら、その時は、店の割引券を手渡そう、と思った。
少し、嬉しい気持ちになったから、帰り道がつまらなくなかった。
朝になり、職場へ向かった。
少し、いつもと違う気持ちで仕事をこなした。
ただ、あの人が来てくれることを祈り続けた。
しかし、その人はこず、俺はまた、少し暗い気持ちになっていった。
店が閉まる数時間前、今日はもう来ないな、と思っていたら、その人は現れた。
俺は、ポケットの中に入れていた、割引券を意識し始めた。
ただ、ただ、声を聞きたかった。
今日は、仕事帰りらしく、すっきりとした服装だった。
その人が手に取ったのは、青いグラスだった。
それを持って、俺のいる、レジに近づいてきた。
初めて見るその人の瞳は、透き通った美しい瞳だった。
「お願いします。」
と言ったその人の声は、近くなのに、遠くで、優しく響いた。
俺は、会計を済ますと、グラスが割れないよう、紙で包んで袋に入れ、ポケットに入れていた割引券を出し、
「これ、良かったら使って下さい。」
と言って、その人に、グラスの入った袋と一緒に割引券を差し出した。
その人は、少し戸惑って、受け取るのを少し躊躇っていた。
俺は、なるべく明るく、
「今、キャンペーンで配っているんですよ。良かったら、使って下さい。」
と言って、再度、差し出した。
その人は、やっと安心して、
「ありがとうございます。」
と言って、グラスと割引券を受け取ると、初めて、俺の目を見た。
目が合った時、俺は完全に恋に落ちていた。
その人は、会釈して、帰って行った。
俺はまだ、その人の瞳が忘れられず、心が熱くなった。
仕事が終わり、帰り道、キレイな瞳だったなぁ。
と、何度もあの人を想った。
割引券は、また来てほしい、という俺のずるい願いからだった。
暫く店にあの人は現れなかった。
予想はしていたから、喪失感はなかった。
また来てくれる、と、信じられたから。
俺はいつまでも待っている。あの人がまた、現れるのを。
部屋から朝日を見ては、あの人も見ているだろうか。と思ったり、雨が降れば、あの人は、青い傘をさして歩いているだろうか。と、思った。
もうずっと、店に貴女は現れなくなった。
また、俺は、気持ちが暗くなっていった。
夏がきて、秋がきて、冬がきた。
俺は、コートを羽織り、仕事に出かけた。
店の中は、クリスマスの商品が多くなった。
子連れのお客が多くなった。
クリスマスイブの日、仕事をしていたら、その人は、現れた。
カツカツと、ブーツを鳴らしながら、店の中を歩いて回っていた。
俺はびっくりして、緊張してしまった。
その人は、レジにやってきて、
「お願いします」
と、シルバーのピアスをカウンターに置いた。
メンズのものだから、きっと彼氏にプレゼントするのだろう。と思い、辛かった。
「ありがとうございます。」
と言って、会計をしようとすると、以前渡した割引券をその人は、差し出した。
ちゃんと使ってくれたのが、嬉しかった。
ピアスを袋に入れようとしたら、その人は、
「ラッピングをお願いします。」
と言った。
俺は、
「わかりました。」
と言い、心が傷だらけになりながら、ラッピングしてから、その人に手渡した。
すると、その人は、驚いたことに、
「これ、良かったらもらって下さい。」
と、俺に差し出した。
俺は何が起きたのか頭が追い付かなかった。
ただ、物凄く嬉しかった。
「ありがとうございます。でも、何故俺ですか?」
と言うので精一杯だった。
その人は、
「貴方が好きだから。」
と、雨で濡れた紫陽花のような瞳で、透き通るように言った。
ピアスを受け取ると、俺は決心して、
「もし良かったら、俺と付き合ってくれませんか。」
と、心に溜め込んでいた想いを、やっと伝えた。
その人は、
「はい。」
と、笑顔で、初めて見る笑顔で、応えてくれた。
お互いの連絡先を教えあって、その人は、
「今日は、いつまでですか?」
と聞いた。
俺は、
「もうすぐ閉めます。」
と答えた。
「じゃあ、一緒に夕食を食べに行きませんか?」
と言った。
俺は、
「いいですね。行きましょう。」
と、言うと、嬉しくて、仕方なかった。
店を閉めて、二人で、夜遅くまでやっている、レストランに入った。
料理を食べながら、
「俺、実は、貴女に初めて会った時から、一目惚れだったんですよ。」
と、告白した。
その人は、
「私は、いつの間にか、貴方が心の中にいました。」
と、言った。
窓から見えるイルミネーションがキレイで、二人でお酒を頼んだ。
その人はカクテルを、俺はワインを、それぞれ頼んだ。
その夜の帰り道、その人を自宅まで送った。
わりと、俺の部屋と近かった。
「じゃあ、また。」
と言って、別れた。
帰り道、嬉しくて、少し触れる肩、髪の香り、その人の全てが俺を夢の中に連れていった。
アパートに着いて、連絡先に、
「今度の休みに、貴女の部屋に遊びに行ってもいいかな。」
と、聞いてみた。
「いいですよ。」
と、返事がすぐ来た。
次の休みに俺は、もらったピアスをつけて、近所で美味しいと有名な、スイーツを二つ買って、あの人のアパートへ、向かった。
イヤホンで、明るい音楽を聴きながら、歩いた。
その人のアパートに着き、インターホンを押した。
「はい。」
と、その人は、ドアを開けて、
「どうぞ。」
と、俺を向かい入れてくれた。
その人の部屋は、白い壁に青いカーテンが印象的だった。
「青、好きなの?」
と聞くと、
「うん。」
と、いった。
スイーツを渡すと、
「ありがとう。」
と言って、二人で、小さな丸テーブルで、食べた。
「ピアス、似合ってる。」
「ありがとう。気に入ってるよ。」
「これ、美味しいね。」
「これは、近所の人気の店の。」
「今度、教えて。」
「コーヒーでいい?」
「うん。」
好きな人と一緒だと、何でも嬉しい、と感じた。
「普段何の仕事してるの?」
「花屋」
「じゃあ、花には詳しいんだね。」
「一応。」
控えめに、その人は言った。
「俺、君を初めて見た時、青い紫陽花みたいだな、って思ったよ。」
「そう。」
その人は、少し遠い目をした。
それが、俺は不思議だった。
「今度は私が貴方の部屋に行ってもいいかな。」
「もちろん。」
笑顔で答えた。
「花屋はどの辺?」
「ここから歩いて20分くらいのパン屋の隣。」
「ああ、あそこのパン美味しいよね。」
「うん。いつも、お昼は、そこのパン。」
俺はこの人に何が出来るだろう。
たぶん、青い紫陽花には、何かトラウマがある。まだ、知らないことがたくさんある。
ただ、俺は、この人を護りたい。一緒にいたい。失いたくない。
「ねえ、手を繋ごう。」
俺は貴方が好きだと伝えたい。そう思ったら、口をついて言葉がでていた。
「うん。」
その人は、俺の横に座って、手を差し出した。
俺は、ギュッと強くその人の手を握った。
「何かあったの?」
「貴女を失うのが怖くて。」
その人は、少し笑って、
「私は何処へも行かないよ。」
「散歩行こうか。」
俺は、突然思いついて言った。
「いいよ。」
二人で手を繋いで、ゆっくり歩いた。
この時間、川が夕日に照らされ、綺麗に光るのを見れる橋がある。5分程歩くと、案の定、夕日は川を照らし、輝いていた。
「綺麗だね。」
二人で光る川を見ていた。
「今日は、ありがとう。」
その人は、風に髪をなびかせながら、
「私も楽しかった。ありがとう。」
と、笑顔で言った。
俺は、帰って、ピアスを外し、何かお返しを、と思い、休みの日にデパートに行った。
これしかない、と思ったものに出会えた。
青い一粒石のネックレス。
あの人にぴったりだと思った。
ラッピングしてもらった。
その夜、その人に連絡して、いつ頃来れそうか聞いてみた。
今週末に来れそう、と返事が来た。
俺には、癒えない闇が。君には、癒えない過去が。互いにある。
でも、二人なら、互いの溶けない氷が、暖かい陽射しで、溶けるように楽になる。
そう思う。
仕事をしていたら、その人がやってきた。
「仕事は?」
と聞くと、
「早く貴方に逢いたくなって。」
と言って、少し抜けさせてもらったらしい。
「もうすぐ春だね。桜が咲いたら、写真を撮りに行こうか。」
「うん。」
貴女は笑顔になって、
「じゃあ、そろそろ行くね。」
「うん。今週末、楽しみにしてるね。」
「私も。」
その人がいなくなると、寂しさが俺の心を支配した。
週末、イヤホンで、音楽を聴きながら、あの人のアパートに向かった。
インターホンを押すと、笑顔で、
「待ってたよ。」
と言った。
「準備できた?」
「うん。」
「じゃあ、行こうか。」
俺は、手を差し出した。
その人は、手を繋いでくれた。
二人、並んで歩いた。
キラキラ光る川の橋を渡り、少し歩いて、俺のアパートに着いた。
途中、この間のスイーツの店の場所を教えたら、
「食べたくなったら買いに行く。」
と、嬉しそうに言った。
俺は、君の笑顔が嬉しいよ。と、言いたかった。
君は、遠慮しながら、不思議そうに、部屋に入った。
「貴方の部屋、海の中みたい。静かだね。」
「気に入ってるんだ。ありがとう。」
「コーヒーでいい?」
君は、
「これ、二人で食べたくて。」
と、あのパン屋の人気のパンを何種類か、袋から出した。
俺は、
「ありがとう。最近食べてなかったから、嬉しいよ。」
と、言った。
二人でパンとコーヒーを食べながら、お互いの日々を話した。
俺は、
「少し待ってて。」
と言って、あのネックレスをとりに行った。
持ってくると、スッとその人の前に差し出した。
「ピアスのお礼と、俺の気持ち。」
その人は、びっくりして、
「ありがとう。」
と、嬉しそうに、受け取ってくれた。
箱を開けて、
「キレイ。」
と、ネックレスを見つめた。
「君に似合うと思って。」
「青、大好きなんだ。ありがとう。」
お互い、笑顔になって、
「着けてみていいかな。」
「どうぞ。」
と、言った。
ネックレスを着けた君は、美しかった。
上手く言えなくて、ただ、見とれていた。
君は、俺を見て、ニコッと笑顔になった。
「実はね、だいふ前から、考えてたんだけど、俺達、一緒に暮らさない?俺は君が好きだよ。君の側にいたい。」
「私も貴方と暮らしたい。貴方の側にいたい。」
俺は、そっと、その人の頬に手を添えて、初めてキスをした。
「私に幸せを与えてくれてありがとう。」
「貴女は俺の、闇を照らす、希望の光だよ。」
俺は、君を抱きしめた。
「今度、不動産に行こう。」
休みの日に、二人で暮らす部屋を、探しに行った。
空が広く見える部屋が、お互い気に入って、そこに決めた。
お互いの仕事場に歩いて行ける範囲なのも良かった。お互いの両親に挨拶もした。
新しい部屋で、二人の生活が始まった。
カーテンは、青にした。
貴女は、花を活けてくれた。
スイーツを買いに行き、二人で食べた。
「結婚しよう。二人なら、幸せになれる。俺には、君が必要だよ。」
「私も貴方しかいない。これから、よろしくお願いします。」
指輪は、青い石のついたシンプルなリングにした。
窓からは、いつも、明るい光が差して、毎日にはいつも、君がいて、もう、ほかに何もいらなかった。
この幸せな日々に、感謝しながら、君の幸せそうな寝顔を見つめて、俺は、闇が無くなっていく気がした。
ありがとう。明日、伝えるよ。
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先が気になったのでお気に入り登録させてもらいました(^^)
私の力不足で、ご期待に添えず、すみませんでした🙇
感想、とても嬉しかったです。
ありがとうございました🍀