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君がこの手に堕ちるまで。
訪問者と煙草と珈琲と。3日目、昼から夜。②颯太side
しおりを挟む「遼ちゃん、仕事行ったの?月曜日って休みなのにいつも仕事してるような気がするなー」
彼女は鷹宮晶さんといって、遼介さんの妹さんらしい。
すらっとしてて長身で細身で遼介さんと血が繋がってる感じがすごくしたし、何気ない仕草が似てた。
でも遼介さんの家で本人不在なのに、初対面の人とお茶してる俺ってなんなんだろう。
「うわ、君が淹れたコーヒー、めっちゃ美味しいんだけど!なんで?」
遼介さんのちょっと口が悪い所をソフトにしたような感じで、美人さんなのによく笑うとっても可愛い人だった。
「遼介さん、もうすぐ帰って来ると思うんで、もう少し待ってみませんか?3時には帰るって言ってたんですよ、過ぎちゃってるけど…」
「ううん、遼ちゃんめっちゃ嫌がるから帰るわ。それにあたしこれから用事あるんだよね。あ、遠慮してるんじゃないよ、本当だよ!?」
すごく話しやすくて好感が持てるのは、きっと俺が好きな遼介さんの家族だからなんだとわかってるんだけど、この人が彼女じゃなくて良かったって心から思った。
「男の子なのに料理出来るんだねぇ。若そうだけどいくつ?」
「…………二十歳です……」
「おっと、嘘つくの下手過ぎだね。それにあたしとタメって事はないでしょ。干支とか言える?」
「えーーーっと……」
「ごめんごめん。うーんでも、遼ちゃんと付き合ったらもしかして犯罪になる可能性がある年齢なら、黙っててもらった方がいいな。知らなかったって言えるから!」
なんて縁起でもない事を涼しい顔でさらっと言うんだろう、この人は。
「だ、だから俺、遼介さんとはそういう関係じゃないんですって」
「え、そうなの?んー、でも遼ちゃんこの部屋に滅多に人なんか入れないよ?今はなくても、未来はわからないし」
「でも、だって俺、……男ですよ?」
俺は遼介さんを好きだけど、遼介さんはちゃんと彼女がいるんだからって思うだけで胸がチクチクした。
「……そこも話してないのかよ、クソ兄貴。まぁ、バレんのも時間の問題だと思うから心配しなくていいって」
「え?……どういう事ですか?」
「ううん。こっちの話。そろそろ帰るから、ほんとあたしが来た事、遼ちゃんに黙っててね!あとさ、余計な事かも知れないけど、ハンバーグ作る気でしょ?」
「え?あ、はい。もしかして遼介さん、嫌いとかですか?別のがいいかな…」
「遼ちゃんハンバーグ好きだよ。ただ、煮込みハンバーグの方がもっと好きなんだよね」
ニコニコしながら教えてくれる優しい晶さんに、もう2度と会えないかも知れないけど友達になりたかったなって思った。
「………作った事ないけど、ググります…」
「おー、やる気あるね!可愛過ぎてテンション上がるわぁ。ね、遼ちゃん堕としたら絶対連絡頂戴ね」
そう言って有無を言わさず連絡先の交換をさせられた。
「堕としたらって…俺、そんな気ないです。彼女いるのに…」
「……ん?誰に彼女がいるって?」
「え?遼介さんに」
「だ、誰がそんな事言った?」
「本人です。遼介さんが言ってました。違うんですか?」
「いや、えっと待って。おにい、今度会ったらフルボッコ案件だわ。なんか無性に腹立ってくんなー。あー、煙草吸いたい」
晶さんは鞄から煙草を取り出して咥えて、そそくさとベランダに出て行く。
「晶さん、煙草吸うんですか?」
「いや、イライラするとついね。でももう辞めるんだ。徐々に減らすの」
遼介さんと同じように人前では吸わない晶さんは、ベランダに出て遼介さんとそっくりな仕草で煙草に火をつけた。
こんな風に俺は煙草を吸ってる遼介さんを見つめる時間も好きで、遼介さんにそっくりな後ろ姿をただ見つめた。
煙草を消した後、やっぱりすぐに帰ると言い張る晶さんを玄関先で見送る。
「颯太くんさぁ、遼ちゃん結構嘘つきだよ?いい事教えてあげるね」
靴を履いて立ち上がった晶さんは、スカートを翻して俺の耳元に顔をよせて遼介さんに似た良い声で囁いた。
「昔から遼ちゃんは嘘付く時はその人を騙したいんじゃなくて守りたいんだよ。あたしだけ気づいてる、遼ちゃんの癖」
流石に俺も、濁されても期待してしまう。
遼介さんに彼女がいるっていう事自体がもしかして嘘なんじゃないのか?って。
だってこの部屋は彼女がいるような人の部屋じゃないし、遼介さんの匂いしかしない。
もし彼女がいるって遼介さんが俺に嘘をついているとしたら、そんな嘘をついてまで俺と距離を取った理由がわからなくて悲しかった。
晶さんが帰った後、俺はほんの少しの期待から遼介さんの仕事用の机の引き出しを開けてみる。
彼女がいる事を晶さんが知らないのはただ遼介さんが故意に黙っているからだけなのかも知れない。
だから彼女がいないっていう確定的な証拠が欲しかったのに、俺は大事にしまいこまれた小さな四角い箱を見つけてしまう。
「なんだ…やっぱ、いるんだ。彼女」
ペアリングの片方だけが収まった箱を持ったままポツリと呟いた俺は、泣かないように耐えるのが難しかった。
少し傷がついた指輪はきっと遼介さんがよくはめているからで、俺はそこに入ってないもうひとつの指輪を持っているだろう『彼女』が羨ましいと思った。
でも最後に今日食後の珈琲を、遼介さんの為に心を込めて淹れてあげようと決めた。
それを美味しいって言って飲んでくれる笑顔は本来俺に向けられるものじゃないから、もうここを明日にでも出て行くべきだと強く思った。
なんだか颯太くん拗らせて可哀想になってきたので、次回少し甘くします。
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