君がこの手に堕ちるまで。

蒼乃 奏

文字の大きさ
24 / 32
君がこの手に堕ちるまで。

訪問者と煙草と珈琲と。3日目、昼から夜。②颯太side

しおりを挟む

「遼ちゃん、仕事行ったの?月曜日って休みなのにいつも仕事してるような気がするなー」

彼女は鷹宮晶たかみやあきらさんといって、遼介さんの妹さんらしい。

すらっとしてて長身で細身で遼介さんと血が繋がってる感じがすごくしたし、何気ない仕草が似てた。

でも遼介さんの家で本人不在なのに、初対面の人とお茶してる俺ってなんなんだろう。

「うわ、君が淹れたコーヒー、めっちゃ美味しいんだけど!なんで?」

遼介さんのちょっと口が悪い所をソフトにしたような感じで、美人さんなのによく笑うとっても可愛い人だった。

「遼介さん、もうすぐ帰って来ると思うんで、もう少し待ってみませんか?3時には帰るって言ってたんですよ、過ぎちゃってるけど…」

「ううん、遼ちゃんめっちゃ嫌がるから帰るわ。それにあたしこれから用事あるんだよね。あ、遠慮してるんじゃないよ、本当だよ!?」

すごく話しやすくて好感が持てるのは、きっと俺が好きな遼介さんの家族だからなんだとわかってるんだけど、この人が彼女じゃなくて良かったって心から思った。

「男の子なのに料理出来るんだねぇ。若そうだけどいくつ?」

「…………二十歳です……」

「おっと、嘘つくの下手過ぎだね。それにあたしとタメって事はないでしょ。干支とか言える?」

「えーーーっと……」

「ごめんごめん。うーんでも、遼ちゃんと付き合ったらもしかして犯罪になる可能性がある年齢なら、黙っててもらった方がいいな。知らなかったって言えるから!」

なんて縁起でもない事を涼しい顔でさらっと言うんだろう、この人は。

「だ、だから俺、遼介さんとはそういう関係じゃないんですって」

「え、そうなの?んー、でも遼ちゃんこの部屋に滅多に人なんか入れないよ?今はなくても、未来はわからないし」

「でも、だって俺、……男ですよ?」

俺は遼介さんを好きだけど、遼介さんはちゃんと彼女がいるんだからって思うだけで胸がチクチクした。

「……そこも話してないのかよ、クソ兄貴。まぁ、バレんのも時間の問題だと思うから心配しなくていいって」

「え?……どういう事ですか?」

「ううん。こっちの話。そろそろ帰るから、ほんとあたしが来た事、遼ちゃんに黙っててね!あとさ、余計な事かも知れないけど、ハンバーグ作る気でしょ?」

「え?あ、はい。もしかして遼介さん、嫌いとかですか?別のがいいかな…」

「遼ちゃんハンバーグ好きだよ。ただ、煮込みハンバーグの方がもっと好きなんだよね」

ニコニコしながら教えてくれる優しい晶さんに、もう2度と会えないかも知れないけど友達になりたかったなって思った。

「………作った事ないけど、ググります…」

「おー、やる気あるね!可愛過ぎてテンション上がるわぁ。ね、遼ちゃん堕としたら絶対連絡頂戴ね」

そう言って有無を言わさず連絡先の交換をさせられた。

「堕としたらって…俺、そんな気ないです。彼女いるのに…」

「……ん?誰に彼女がいるって?」

「え?遼介さんに」

「だ、誰がそんな事言った?」

「本人です。遼介さんが言ってました。違うんですか?」

「いや、えっと待って。おにい、今度会ったらフルボッコ案件だわ。なんか無性に腹立ってくんなー。あー、煙草吸いたい」

晶さんは鞄から煙草を取り出して咥えて、そそくさとベランダに出て行く。

「晶さん、煙草吸うんですか?」

「いや、イライラするとついね。でももう辞めるんだ。徐々に減らすの」

遼介さんと同じように人前では吸わない晶さんは、ベランダに出て遼介さんとそっくりな仕草で煙草に火をつけた。

こんな風に俺は煙草を吸ってる遼介さんを見つめる時間も好きで、遼介さんにそっくりな後ろ姿をただ見つめた。
 
煙草を消した後、やっぱりすぐに帰ると言い張る晶さんを玄関先で見送る。

「颯太くんさぁ、遼ちゃん結構嘘つきだよ?いい事教えてあげるね」

靴を履いて立ち上がった晶さんは、スカートを翻して俺の耳元に顔をよせて遼介さんに似た良い声で囁いた。

「昔から遼ちゃんは嘘付く時はその人を騙したいんじゃなくて守りたいんだよ。あたしだけ気づいてる、遼ちゃんの癖」

流石に俺も、濁されても期待してしまう。

遼介さんに彼女がいるっていう事自体がもしかして嘘なんじゃないのか?って。

だってこの部屋は彼女がいるような人の部屋じゃないし、遼介さんの匂いしかしない。

もし彼女がいるって遼介さんが俺に嘘をついているとしたら、そんな嘘をついてまで俺と距離を取った理由がわからなくて悲しかった。

晶さんが帰った後、俺はほんの少しの期待から遼介さんの仕事用の机の引き出しを開けてみる。

彼女がいる事を晶さんが知らないのはただ遼介さんが故意に黙っているからだけなのかも知れない。

だから彼女がいないっていう確定的な証拠が欲しかったのに、俺は大事にしまいこまれた小さな四角い箱を見つけてしまう。

「なんだ…やっぱ、いるんだ。彼女」

ペアリングの片方だけが収まった箱を持ったままポツリと呟いた俺は、泣かないように耐えるのが難しかった。

少し傷がついた指輪はきっと遼介さんがよくはめているからで、俺はそこに入ってないもうひとつの指輪を持っているだろう『彼女』が羨ましいと思った。

でも最後に今日食後の珈琲を、遼介さんの為に心を込めて淹れてあげようと決めた。

それを美味しいって言って飲んでくれる笑顔は本来俺に向けられるものじゃないから、もうここを明日にでも出て行くべきだと強く思った。































なんだか颯太くん拗らせて可哀想になってきたので、次回少し甘くします。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

処理中です...