【R18】ギャルは聖女で世界を救う! -王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!-

沖果南

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1章 謎の聖女は最強です!

伯爵、煩う!

「――ハクシュン!」

 本を読んでいたディルが突然特大のくしゃみをしたため、セバスチャンは肩を震わして驚いた顔をした。

「風邪ですか、主様! ブランケットをお持ちしましょうか? それともブランデー入りの紅茶などは……」
「くしゃみ一つで過剰に反応するな。おおかた、誰かが噂をしたんだろう」
「そ、そうですか。失礼いたしました」
「それより、聖女はまだなのか? 遅すぎる。どこかで倒れているのではないだろうな?」
「メアリーに伝言を頼んだのはつい先ほどでございますよ」

 セバスチャンは呆れた顔をする。ディルは落ち着かない様子で人差し指で机をトントンと叩いた。

「しかし、万が一ということもあるだろう。やはり、こちらから出向くべきだったか?」
「ディル様、落ち着かない気持ちはお察ししますが、とりあえず落ち着いてください。処理すべき案件は山ほどありますゆえ、そちらでも眺めて……」

 ススス、とセバスチャンはさりげなく結婚式関係の書類をディルの机の真ん中にスライドさせた。あえて見ないふりをしていた書類の山を前に、ディルは低く唸る。

「……結婚式とは、やることが多いものなのだな」
「結婚式のことに関しては、エミ様とよくお話し合いをされるべきかと。まあ、プロポーズが先ですがね!」
「……それくらい、分かっている。しかし、なんだかあの女を前にすると、こう、心臓がふわふわするのだ」
「ふわふわ、ですか」

 大の男が口にするにはいささか可愛らしすぎる言葉を、セバスチャンは反芻する。ディルは苦々しい顔で頷いた。

 頭で分かっては、いるのだ。

 聖女エミとの結婚式を急ぐといったのは、他でもないディル自身である。そのため、なるだけ早く結婚式のための準備を着手すべきなのだ。やることは山ほどある。

 しかし、1週間前に一緒に夜を過ごしてから、ディルは自分の心臓がまるで自分のものでないような感覚に陥っている。エミを目の前にするとドギマギして、全く話せなくなってしまうのだ。眼など合わせようものなら、さらに呼吸まで荒くなってしまう。

(聖女と一緒にいると、どうしてもあの夜のことを思いだしてしまう……。あわよくば、あの細い腰を抱きたいなどという不埒な思いを抱いて――……)

 頭の中が一瞬にしてピンク色になりかけたディルは、パアンと自分の頬を叩いた。ディルの突然の奇行に、セバスチャンが目を見開く。

「……あ、主様、大丈夫ですか?」
「単に邪念を吹き飛ばそうとしただけだ。気にするな」
「し、しかし、けっこう派手な音がしましたよ……?」
「これくらい、なんともない」

 むしろ、こうでもしないと延々とあの夜のことを考えてしまうからたちが悪い。

 そんなこんなでディルはエミと同じ部屋にいるとどうにも落ち着かない気分になるため、適当な理由をつけて話を早く切り上げてしまう。そうなると必然的に一緒にお茶を飲みながら雑談する貴重な時間が減るのだが、もちろん話し足りないので「もっと話しておけば」と後悔する。
 こうなると四六時中エミのことが頭から離れない。しかし、会ってしまえば頭が混乱してうまく話せなくなってしまう。完全に悪循環だ。

 ディルは典型的な恋煩いを発症していた。

 そして、恋煩いのため、エミと上手く話せなくなってしまったことで、ディルはイライラしていた。
 心の中ではエミと話す時間を心待ちにしているのに、いざ話そうとするとまるで言葉が出てこない。ディルのフラストレーションは溜まる一方だ。
 その上、「聖女エミとの婚儀を近々執り行う」とだけ手紙を国王に出せば、「本当にあの聖女と結婚するのか」「気が狂ったか」「魅了の魔法にかけられているのではないか」と矢継ぎ早に王宮から手紙がくるのでたまったものではない。その上、タイミングが悪いことに国境近くの森でなにやら不審なものが目撃された報告も受けている。

 こうしてディルの雑務は増大し、自分で早めに婚儀を行うと言っておきながら、結婚式の用意は遅々として進んでいない。

「クッ、これも全て聖女のせいだ」

 ディルは頭を抱えながらため息をついたものの、セバスチャンは不思議そうに首を傾げる。

「ディル様、聖女エミ様はなにも悪くないと思いますよ。あの方は本当によくやっていらっしゃいます。そうやって、人のせいにするのはどうかと思いますが……」
「お前、やたらと聖女の肩を持つじゃないか」
「ヒェッ、出過ぎたことを申しました。し、しかしですなあ、なにかお困りごとがあれば、素直にエミ様にご相談なさればよいのでは……」
「できるならやっている!」

 ガン、と拳で机をたたくディルに、セバスチャンは震え上がる。最近主人が情緒不安定過ぎて怖い。

 セバスチャンは最近のディルの不機嫌の理由が恋煩いだと全く気付いていなかった。それどころか、ディルが恋煩いを発症しているとはこの屋敷の誰も気づいていない。まあ本人すら、気付いているか怪しい。 

 当の本人は、セバスチャンに向かってやにわに胸を張ってみせた。

「まあ、こんな状況に甘んじる私ではない。今日は秘策を用意している」
「さっ、左様ですか……」

 セバスチャンはとりあえず頷いたものの、(秘策とは、大丈夫なタイプの策なんだろうか)と内心ヒヤヒヤしている。しかし、これ以上ディルに怒られたくないセバスチャンは、迂闊なことは言うまいと必死で口を閉ざした。
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