足枷《あしかせ》無しでも、Stay with me

ゆりえる

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再手術と……

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 林間学校の帰りのバスから、浜口にもたれかかるように降りた詩奈しいなは、中央市民病院に着くと、待合室で待つ事なく診察室に通された。

「これは、良くないな。牧田さん、昼食以降は食べてないね? ちょうど、オペ室も開くから、即、手術しよう」

 詩奈しいなの右足首を診るなり、執刀医と麻酔科医に内線で連絡を入れた医師。
 手術の人員が揃うまでの間、人っ気の無くなった待合室で1人残されている詩奈しいな

(手術って……また、入院生活に逆戻りなの……?)

 せっかくクラスの女子の半数も味方に付いてくれそうな雰囲気になり、凌空りくとの偽装交際も始まり、お祭りも控えている時期に、まさかまた右足首に支障を来すとは予想だにしなかった詩奈しいな

詩奈しいな、熱も出てんでいるって聞いたけど、大丈夫なの?」

 浜口から連絡を受けていた母が、待合室の詩奈しいなを見るなり慌てて駆け寄った。

「この後すぐ手術だって……私、また、入院生活になってしまう」

 ロフストランド杖から、まもなくT字杖、そして杖無し歩行へと順調に完治に向かって行くのを期待していた矢先に、大きく後退する衝撃は詩奈しいなには大き過ぎた。

「大丈夫よ、今までも乗り越えて来たじゃない! 今度だって……」

 そう言いながらも、それが最後になるか、また繰り返す事になるのか、母にも見当がつかなかった。

「こんな事ばかりで、私、杖無しで歩ける日が来るのかな……? なんか、普通に歩いていた日々が、夢だったみたいに感じられる」

 高熱のせいで、涙腺がいつもより緩くなり、涙が止めどなく頬を伝う。

「牧田さん、手術の準備に取りかかりますので、こちらへ来て下さい」

 担当の看護師に呼ばれ、看護師達の腕を借りながら、手術室へ向かった詩奈しいな。  
 心配そうな母が、手術室の前で、ロフストランド杖と共に取り残された。

 約2時間後、手術室から執刀医が出て来て、母の前に歩み寄った。
 
「娘さんの右足首の金属が原因で細菌感染し、骨髄炎になってました。骨折部分はほぼ癒合してたので、金属を取り出しました」

「また、このような症状を繰り返して手術になる事は有るのですか?」

 詩奈しいなと同様、母も、それが気がかりだった。

「いえ、娘さんの場合は、金属が原因で取り除きましたから、これで完治に向かうでしょう」

「良かった! ありがとうございます!」

 母が今一番聞きたかった言葉を耳に出来て、その瞬間、幾筋もの涙が流れた。
 全身麻酔していた詩奈しいなが目覚めたのは、術後1時間半で前回の手術よりかなり早かった。
 
「あら、早かったわね、詩奈しいな!」

 少しうたた寝状態だった母が、詩奈しいなの僅かな動きで目覚めた。

「お母さん……私、手術終わったの?」

「右足首に入っていた金属が原因だったから、もう大丈夫だって! 具合はどう?」

 もうこれ以上、手術の必要が無い事だけは分かったが、母のように手放しに喜べない詩奈しいな

「うん……寝不足なのか? 熱が有るせいなのか? 麻酔のせいなのか? 頭がまだポワンポワンしている感じ……酸素マスクのせいかも知れないけど、これはまだ取っちゃダメなんだよね……?」

「また前回みたいに、目覚めてから4時間しておかなければならないみたい。身体きつそうなら、横になっていて」

 上半身を起こしているのが、まだ辛そうな詩奈しいなを寝かせようとした母。

「こうなったの、林間学校のせいだなんて言わないで! お父さんにも、きちんと伝えてね。私、すごく楽しかった! ホントに行って良かったと思っているから!」

 それだけ言い切ると、安心したのか、すぐに酸素マスクの中で寝息を立て出した詩奈しいな
 
 母は、折り曲げる事の出来なくなっているロフストランド杖を見て、何が起こったのか憶測しながら、複雑な思いに駆られた。

 翌朝早く、母は、家に下着や教科書などを取りに行ったが、詩奈しいなが気がかりで行く前に、作業療法士の板見真香まどかに面会を依頼した。
 前回のカウンセリング時の詩奈しいなの笑顔を思い出しながら、真香まどかは予約の入ってない時間に、詩奈しいなの個室を訪れた。

詩奈しいなさん、林間学校どうでした? 楽しい思い出が沢山出来ましたか?」

 寝たり起きたりで、まどろんでいた状態の詩奈しいなは、明るい声で入って来た真香まどかに驚いた。

「最後にこんな事にならなかったら、もっと楽しい思い出のままだったかも知れないのに……林間学校自体は、すごく楽しかった!」

 再手術と壊された形跡の有るロフストランド杖から、詩奈しいなが落ち込んでいるかも知れないと母から聞かされいた真香まどかは、予想よりも明るい表情の詩奈しいなを見て安堵した。

「そうでしたか、参加して良かったですね! 意中の男子も一緒のグループで行動を楽しめたのですね、いいですね~!」

「元の友人に、また杖を壊されてしまって、でも、それでまたオンブしてもらえてシアワセだった。それなのに、私……」

 瑞輝みずきとの事を話しながら、凌空りくを思い出した。

「それなのに? 何か有りましたか?」

「グループのもう1人の男子から、告白されたんです。その男子は、私には好きな男子がいるのも分かっていて、それでも、グループでいつまでも一緒にいられるように、偽装交際で構わないからって……」

 詩奈しいな凌空りくとの会話を思い出そうとすると、言葉に詰まった。

「その申し出た男子の事を、詩奈しいなさんは、どう思っているんですか?」

「優しくてよく気が付いて、恋とかじゃないかも知れないけど大好きなんです。足の怪我が治っても、私は4人でずっといたいし、だから、ついその言葉に甘えてしまって……」

 凌空りくの想いを利用している事に、胸が苦しくなった詩奈しいな

「4人仲良しのままでいられるように、詩奈しいなさんは、そのまま、偽装交際を続けるつもりですか?」

 詩奈しいなとがめるように聞こえる真香まどかの口調。

「どうしていいのか分からないんです。偽装交際続けて、彼らと一緒に行動した方が、クラスメイトからの嫌がらせを退ける事が出来そうな気もするし……」

「偽装って事は、詩奈しいなさんの好きな男子や、その幼馴染みの女子も知っているの?」

「いいえ、知らせてないんです。何かの拍子にクラスメイトにバレる可能性も高くなるから。それに、怪我が治ったら離れてしまう事を心配している私を2人には知られたくない気持ちも有って……」

 2人に対する隠し事で、後ろめたい思いが募っていた。

「苦しいわね。クラスメイトの意地悪から遠退いても、詩奈しいなさんが別の気持ちで押し潰されそうな気がするわ。入院中に、また少しずつ気持ちの整理して行きましょう」

 寄り添って共に考えてくれている真香まどかの言葉で、少し救われた思いの詩奈しいな

 真香まどかが去ってしばらくすると、母が父と一緒に戻って来た。

詩奈しいな、足は痛くないか? 昨日、来たかったけど、急に転勤言い渡されたり、ちょっと一騒動有ってな……」

 父の方が詩奈しいなより滅入っている顔をしていた。

「転勤……って? どこに?」

「北海道に決まったんだ。詩奈しいなとお母さんは、ここに残っていて構わないよ。2~3年くらい単身赴任になるからな」

 突然、家族で引っ越すのかと焦ったが、父だけの単身赴任と知ってホッとした詩奈しいな

「お父さん、2~3年もいなくなってしまうの、いつから?」

 自分はここにいられて良かったものの、2~3年も母と2人というのが寂しく感じられる詩奈しいな

「あと2週間後だから、詩奈しいなが退院してすぐだな。お父さんの事より、詩奈しいな、足は痛くないか?」

「痛くないよ、全然。この前と同じように、痛み止めの点滴してもらっているから大丈夫!」

 父には努めて何でも無さそうに装った。

詩奈しいなばかり、こんな辛い思い繰り返して、あの男子は何やってるんだ!」

 再手術と言われた時から、瑞輝みずきに対する父の敵意がまた増幅するのを恐れていた詩奈しいな

「矢本君のせいじゃない! たまたま金具と私の身体の相性が合わなかっただけだから! それに、どっちみち、骨折は治ったようなものだし、金具は抜き取る予定だったから、それが少し早くなっただけなの!」

 瑞輝みずきを悪く言われたくない一心で反論した。

真香まどかさんとは、お話出来た、詩奈しいな?」

 詩奈しいなと父のムードを緩和させようとして、割り込むように母が尋ねた。

「うん、なんか話しやすいから、また、真香まどかさんに色々相談に乗ってもらおうと思って」

「良かったわね~! でも、真香まどかさんばかりじゃなく、私にも報告してね~」

 母が妬いているような口調で笑いながら言った。

「もちろん!」

 父は、モヤモヤ感が強く残ったが、母娘の笑っている姿を見て、気持ちを静めた。
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