上 下
20 / 39
20.

審査

しおりを挟む
 あれだけ果てしなく長く思えていた居住区までの道程さえも、能力に目覚めた後の私達には、不思議なくらいに呆気無く思えるようになった。

「どうなるかは審査次第だが、お前達とは、この後も度々、顔を合わす事になるかも知れないな」

 まるで、隊長の中では私達が3人とも戦闘隊に入れられる事が確定しているかのように言っていた。

 隊長やアーロンと顔を合わすと、あの最初の頃の心細かったり不安だった時間を思い出しそうで、あまり私としては好ましくないけど、配属先が一緒なら、どこかで会う事が有っても仕方ないのかな。

 ウェイドやリゼットは、同期とはいえ、戦闘隊の中でも、小分けされている班が有るから、そうそう会えなくなるのかも知れない。
 慣れてしまった今では、このメンバーのまま、戦闘隊で行動してもいいくらいに思っているは、私だけではないと思うけど......
 
 両サイドにごっつい城壁が続く大きな門が見えて来た。
 門番達が、隊長を見るなり深々と敬礼して来た。
 やっぱり、戦闘隊がカーストのトップというのは、ホントだったんだ......

 居住区に入る時点で、まず、入植者の私達は、身体を入念にチェックされた。
 いよいよ、あちらの世界の門を私達は潜る事になった!
 ここに猶予期間のみ留まるのか、死ぬまで居続けるのか分からない。
 願わくば、5年という気持ちは、今でも変わらない。

 透けそうでギリギリ透けない薄い生地の服に着替えさせられ、入植時の身長や体重など測定された。

 その後は、再び迷彩服に着替えてから、審査会場に移動した。
 5名の審査官達を前にして、基礎能力チェックだった。

 ウェイドは、その瞬発力を評価され、リゼットは、治癒力を評価された。
 彼らは、隊長の予想通り、スムーズに戦闘隊へ。

 そして、私の番。

 隊長やアーロンの前でより、ずっと緊張する!

 でも、大丈夫!
 きっと、またあの私には見合わないくらいの射撃の腕前で、審査員達も圧倒させられるのだから!

 そんな風に意気込んで臨んだけど......
 あの時は百発百中の勢いで、ターゲットに命中して窮地を脱したというのに、何故か、審査員達のいる前では、それを全く発揮できなかった!
 見事なくらいに、ことごとく的から外れまくっていた!
 
 やっぱり、あの時のあの能力は、危機にさらされた時のみ発動される火事場の馬鹿力みたいなものだったの?
 こんな緊張感有る状況下では、何の役にも立たないどころか、全く自分の力量を示せないものだったの?
 
 ウェイドもリゼットは、どこでも、難無くその能力を自在に操れるというのに、私の能力はというと、何だかただの詭弁のようで、今やそれを証明する手段が何も見つからない!

 でも、考えてみれば、これで良かったのかも!

 だって、私、元々、戦闘隊になんか配属される事を望んでない!
 銃を使えないなら、私は、晴れて生産隊に配属されるかも知れない!

 その事に気付く前までは、焦って、どうして、銃が下手くそになったのか、動揺しまくっていたけど......
 そもそも、これで良かったと気付いてからは、おバカに見えそうなくらい、嬉しくて顔が緩み出した。

「№32541は、どうやら、これといって特技が何も無さそうですね。外見上、ハーレムという感じでも無いですし」

 あっ、そのナンバー呼び、久しぶりに聴いた。
 やっぱり、ここでもまだナンバー呼びなんだ......

「生産隊が妥当でしょうかね?」

 やった~!
  願ったり叶ったり!

「いや、生産隊は足りているから、清掃隊ですね」

 え~っ、そんな~!

 生産隊ではなくて、清掃隊って、なんなのよ~!
 私だから、キレイ好きじゃないし、片付け下手だし......
 清掃員として一生終えるつもり無いって!

「あの~、私、生産隊が希望......」

「№32541、配属先は適性を見た上で、各配属先の人数調整も兼ねて、私達が決定します。個人の希望は受け付けておりません!」

 ピシャリと冷たくあしらわれた。
 そういう事とは、隊長やアーロンから聞いていたけど、本当に、全くこっちの言葉には耳を貸さない事務的な審査員達だった。
 
 まあ、世の中そうそう上手く行く事なんて無いよね~。
 
 ウェイドとリゼットは、迷彩服のまま戦闘隊の本拠地にジープで移動させられていたのに、私は、グレーの繋ぎ服2着分が手渡され、簡易的なカートに乗せられ、清掃隊の事務所に案内された。

 この清掃隊の事務所、誰もいないんだけど。
 こんな所に1人残されても......

 私、本当に、これから一生、清掃作業に明け暮れる事になるんだ。
 とほほ......という感じ。
 配属先の中で、一番、格好悪いユニフォームのような気がするんだけど、気のせい?
 
 誰もいないから、今のうちに、この制服に着替えないと。
 そのうち、誰か偉そうな人が来て、

「まだ着替えてないのか!」

 なんて怒鳴られたら、最初っから、ダメージ強過ぎるもんね。
 ただでさえ、やりたくない清掃作業、もっと嫌になる!

 この制服に着替えて分かった事といえば......
 私、やっぱり迷彩服の方が似合っていたって事!

 これ、私みたいな若い子が着るようなデザインじゃないよ!
 なんか、とてつもなくダサ過ぎてイヤだ!!
しおりを挟む

処理中です...