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第8章

まだ終らない予感

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 こうして、一緒にランチしていると、初対面でも時恵さんの良い人ぶりは十分過ぎるくらい分かるし、こんなお姉さんがいるんだから、多分サンダーも優しい性格なんだよね。
 そうじゃなかったら、学校で一緒にメガネの破片なんて探してくれないし、今も、こんな時間過ごせていない。

「姉貴、松沢さんにそんな絡むなよ」

「いいじゃない、來志らいしが彼女連れて来るの久しぶりだから、つい興味湧くでしょ!」

 えっ、彼女......!

 私が、時恵さんにサンダーの彼女だと思われていたの?
 それで、時恵さんは、こんなに親切にしてくれていたの?

「彼女じゃないよ、松沢さんは!」

 サンダーに、思いっきり否定されてしまった!
 そんなことくらい......
 自分でもよく分かり切っているけど、改めて目の前でそう言われると、ショック大きい......

「な~んだ、來志らいしの彼女じゃないの?でも、來志らいしが女の子連れて来たのだって、久しぶりよね」

 さっきサンダーに言われたショックから脱しきれてはいないけど......
 時恵さんの言葉で、少し収まった。
 サンダー、いつも一軍女子達にあんなに囲まれているのに、他の女子達を時恵さんに会わせた事は無かったんだ......

 例え、こんなハプニングが有ったからとはいえ、サンダーのお姉さんと御対面出来たなんて、私、我ながらスゴイ事だと思う!
 壊れたメガネの件が無かったら、私には、こんな機会なんて、まず無かったんだから!

 空きっ腹状態のまま待たされる時間はすごく長く感じられたけど、やっと料理が運ばれて来た!
 サンダーは、あんな事を言いつつも、お姉さんの事を信頼しているみたい。
 ちゃんと同じビーフストロガノフを注文していて、ウェートレス2人によって、3人分のランチセットがテーブルに並べられた。
 
「すごく美味しい~!感動するくらい!」

「でしょう?私、色んなお店で食べて、舌が肥えているのよね~!來志らいしも、これで、私が食通って認めてくれる?」

 強制的に認めさせようと、肘でサンダーを突き、同意を求めた時恵さん。

「実際、旨かったし、しゃーないから認めるか」

「よろしい!今度また、美味しいとこ案内するね!」

 サンダー、時恵さんには頭が上がらない感じ。
 こんなサンダーのプライベートが覗けて、姉弟の微笑ましいやりとりが見られるなんて、本当に、今日の私は幸せ過ぎる!

「松沢さんの親御さん、お仕事は何しているの?」

 親の職業を言うと、お医者さん一家のサンダーとはつり合わないって言われそうかな?
 何を私ったら気にしているんだろう?
 元々、サンダーとは、つり合うも何も......
 さっきだって、あんな風にサンダーに彼女じゃないって、思いっきり否定されたばかりなんだから、別に正直に、親の職業くらい言っても何も変わらないはず。

「祖父母の世代から、自然栽培の野菜農家なんです。スーパーで売っているのと違って、不格好な野菜が多いんですけど、無農薬で安心、安全で、素材の味が強いんですよ」

 ついペラペラと話してしまうと、サンダーが笑い出した。

「どうしたの、來志らいし、急に笑い出して?」

「ゴメン、クラスの女子達が、松沢さんをハクサイ呼びしていたのを思い出して......」

 サンダーに、そんな事を思い出し笑いされるなんて思わなかった!
 ホントにサンダーって、笑い上戸なんだ......

「ハクサイって何?」

「あっ、私の名前、日菜にちなで、お日様に野菜の菜って書くんです。それが「白菜」に見間違えられる事が多くて、一部の女子達は私の事をそう呼んでいるんです」

 私が説明すると、まだ笑っているサンダーの腕を肘で突いた時恵さん。

來志らいし、そんな事を思い出し笑いするのは失礼よ!」

「大丈夫です、私、そういうの慣れっこなので」

 時恵さんが庇ってくれるのは有り難いけど、サンダーの笑い顔を見られる嬉しさの方が勝っているような気がしてしまうなんて、私、ヘンかな?

「そんな事で慣れてしまうって、切ない。ねぇ、來志らいしは日菜ちゃんと同じクラスでしょ、日菜ちゃんを守ってあげて!」

 時恵さんが、日菜ちゃんって、呼んでくれた。
 そう呼ばれるのって、久しぶりな気がする。
 なんか嬉しい!
 時恵さんに呼ばれただけでも、こんなに嬉しいんだから、もしもサンダーから呼ばれたら、舞い上がりそう!

「女子って、こえーし、下手に俺が庇うと、その矛先が余計に強く松沢さんに向かいそうだから」

 サンダーの言う事、分かる。
 教室で、サンダーが私なんか庇ったりしたら、一軍女子達がどんな行動に出る事か、何となく想像が付く。
 
「逃げ腰だね、來志らいし。まあ、無理も無いかもね.......」

 えっ、過去に問題が有った......?
 何か重いものを含んでいる感じの言い方なんだけど、思いの外、アッサリと前言を撤回した時恵さん。
 
 話も滞ったところで、お腹空いていたから勢いよく食べ切って、気付くと、サンダーとお姉さんの視線を受けていた。

「あっ、もしかして、私、1番先に食べ終わったんですね?お腹空いていたし、美味しくてつい......」

  恥ずかしくて言い訳すると、この姉弟は、ツボが同じみたいで、また揃って笑い出した。

「日菜ちゃんの食べっぷり、健康的で気に入ったわ~!うん、是非、また一緒に食事行きましょう!」

「はいっ、喜んで!」

 時恵さんにまた誘って貰えたのが嬉し過ぎて、つい大きな声で快諾すると、また2人に爆笑された。

來志らいし~、私、日菜ちゃん気に入ったから、來志らいしの彼女にして、私もちょくちょく会えるようにして~!」

 えっ、時恵さん、本気で言ってるの?
 本気なら、この上も無く幸せなんだけど......
 サンダーの彼女になんて!
 ただ、時恵さんがそう望んでくれても、肝心のサンダーが私には無関心だから......

「そんな事、簡単に言うなよ!松沢さんの気持ちだって大事だし」

 私の気持ちというより、サンダーの方だもん.....
 でも、せっかく時恵さんが、こんな風に誘ってくれているのだから、こんなチャンス逃したくない!

「私は......サ、岩神君の彼女じゃなくても、時恵さんとご一緒します」
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