燃えよ、想いを乗せ

ゆりえる

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2.

出来の良過ぎるルームメイト

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 颯天はやては、高等部に進学し、強制的に寮生活になって以来、親族を含めた外部との接触は一切断たれていた。
 今はsup遺伝子所持者達に囲まれて暮らしている颯天は、sup遺伝子を持たない幼馴染み達が受けている高校とは、全く別のカリキュラムを受講させられていた。
 自分達以外の学生の教育状況や生活様式を知り得ない環境に置かれたまま、与えられた学習ノルマを必死にこなそうとしていた颯天。

 学習内容は、将来的に海外でも活躍する可能性が有る為、言語学が多くを占めていた。
 日本語、英語、フランス語までは必須教科で、他に、ドイツ語、スペイン語、中国語は選択制で、その中から希望する1、2言語を選ぶ事が出来た。
 颯天は、必須教科だけでもお手上げだったが、仕方無しに、公用語とされている国々の多いスペイン語を選択した。

 数学、理科、社会、技術家庭科、美術、音楽は副教科のような扱いとなり、最低限必要な内容だけに抑えられれ、その分の多くの時間が体育の授業に充てられた。
 その副教科の時間が短いせいか、颯天は、むしろ、副教科の方が楽しく学ぶ事が出来ていたが、それらに長じていたところで、彼らにとって有利な状態にはならず、総合的には低評価のままだった。
 
 sup遺伝子を持っているからといって、全員が運動能力に特化されているというわけではなく、彼らの中には当然、体育が不得手な学生達も少なからずいた。

 sup遺伝子が覚醒するタイミングがある年齢を境に同時というわけではなく、晩成型のsup遺伝子所持者も多い為、教師達はその時点では、生徒達に優劣を付けず気長に接していた。
 彼ら学生達には大学卒業までsup遺伝子の覚醒を待つ選択肢も有ったが、ほとんどの場合は、高校卒業時の検査で、ごく僅かの超sup遺伝子所持者と判明し、その時点での地球防衛隊訓練生へ加入していた。

 颯天は、sup遺伝子が覚醒しているような徴候は今のところ皆無であり、最重要教科とされる体育でも、運動能力は常に人並以下だった為、いつも運動場で居残りをし、1人で長時間トレーニングに励んでいた。

 同室の雅人は、高等部に上がる直前から、早くもsup遺伝子が開花し、学年でもトップレベルの運動能力で、教師達からは既に一目置かれるようになっていた。
 颯天と比べ、全く努力している様子も見受けられない雅人は、天性の遺伝子ゆえのものだと、周囲の学生達からは羨望の眼差しを向けられていた。
 雅人はまた、彼らの一部からは、超sup遺伝子を所持している可能性を囁かれていた。

「颯天、トレーニングお疲れ様!」

 トレーニングから戻ると、部屋のベッドに横たわり音楽を聴いていた雅人が、ヘッドホンを頭から外し、颯天に声をかけた。

「ただいま~、疲れた~!」

 靴を履いたまま、取り敢えずベッドに横たわった颯天。

「毎日、一人でよくそんなに頑張るな~、颯天」

「そりゃあね、僕のこの運動神経だったら、落第しそうだから。雅人、お前はいいよな~! 何でも楽勝で、進級の心配なんてした事ないだろう?」

 初めてやる競技でも、雅人はいつでも、そつなくこなしていた。
 そんな雅人の能力を羨ましく思い、これ以上、落ちこぼれないよう必死に毎日トレーニングを続けていた颯天。

「颯天も落第なんて事は有り得ないだろ? 俺らは、大事な超sup候補生なんだから」

「超supなんて、雅人はともかく、僕は無理だって!」

「いやいや、まだ高卒時の検査まで2年以上有る。俺なんか、土壇場で、皆に振るい落とされる可能性だって無きにしもあらずさ!」

 そう言いながらも、雅人からは、そんな心配など微塵もしていないような気配しか感じられない颯天。

「僕の前でそんな風に言ったところで、謙遜を通り越して、ただの嫌味にしか聞こえないけどな~!」

「そうか? まあ、そう聞こえたなら、それでいいさ。颯天は、取り敢えず頑張れよ」

 そう言って、またベッドに寝転がり音楽を聴き出した雅人。

 颯天は、タオルと着替えを専用のバッグに入れて、大浴場へ行った。
 シャワーだけで済ませる生徒達も多かったが、トレーニング後で全身が疲れた後の颯天にとって、手足を伸ばして入れる広い湯船は極楽だった。

 大浴場を使用するする何人もの生徒が入れ替わるほど、湯船に長くつかっていた颯天。
 運動神経にコンプレックスが有るせいか、運動神経の良い学生達の身体つきに、つい目が奪われてしまう事がよくある。
 そのせいか、颯天の視線を感じた生徒達は、ギョッとした目付きで警戒の表情を浮かべる。
 彼らに、自分が男色の傾向が有ると勘違いされては大変と思い、颯天は慌てて視線を逸らす事も多かった。

 運動神経の良い男子学生達の身体は、手足の筋肉の付き方が自分とは違い、がっしりと密度が高そうに見え、毎回、自分ももっと鍛え続けなくてはと湯船の中で言い聞かせていた。

 のぼせそうになる直前に湯船から出て、着替えて部屋に戻ると、雅人は相変わらず、ヘッドホンをして音楽を聴いていた。
 颯天は、スポーツドリンクで水分補給をしながら、フランス語の教材を出して、アクビが混じる中、宿題に取り掛かり、発声練習をした。
 かなり大き目の声で発声していたが、ヘッドホンをしている雅人の邪魔にはなっていないはずだった。
 途中、何度か雅人の方を見ても、さっきから同じ様子でゴロゴロしながら、歌を聴き自分でも口ずさんでいた。

 雅人は、運動神経のみならず、学業でも、学年トップという優秀な成績を収めている。
 海外生活経験など無いはずだが、雅人は、外国語も母国語のように容易く操る。
 宿題なども要領良く、授業中にさっさと終えてしまうから、寮に戻ってから机に向かう姿など見た事が無かった。

 超sup遺伝子所持者と噂されている雅人と、多分、所持していないはずの自分の差が、高1の時点で、ここまで開くとは、思ってもいなかった颯天。

 努力を絶え間なくし続ける事で、雅人にいつか追い付けるかも知れないなどと考える事しか出来ない自分が、哀れに思える事も1度や2度では無かった。
 せめて、もっと自分に近いレベルのルームメイトだったなら、こんなに惨めな気持ちにならなかったと思い、ルームメイトを変更を申し出る事が可能なのか、調べた事も有った。
 寮の部屋が変更可能な事を知った颯天だが、実行する事は、雅人に対し無礼に感じられた。
 何より、自分が雅人に敵わない事を認め、雅人から逃げているように周囲から思われるのは悔しく、それは最後の限界の時点まで取っておく事にしていた。

 雅人自身はマイペースで、あまり他人の事を気にしない性格のせいか、自分のせいで颯天が、それほどまでに劣等感に苛まされているとは、気付く由も無かった。
 颯天とは、高校1年生の4月にルームメイトとして住み始めた時からずっと、ルームメイトとしてや学友として、良き友好関係が保たれていると思い込んでいた。
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