金木犀が三度咲きする頃に

ゆりえる

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芳香が漂う小枝

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 家に着くなり、イネは、大き目の口のガラス瓶を用意し、たっぷり水を張って金木犀の枝を入れた。
 日当たりの良いテーブルの上に置かれた金木犀は、心なしか、元気を取り戻したかのように見え、先刻の樹木の金木犀の蕾ほどではないが、微かに甘い香りを漂わせてきた。

「どうか、あの可愛いお花を咲かせておくれ」

 イネは、それ以来、毎日お水を取り替えては祈り、毎日歩いて、あの金木犀の木の蕾の具合と見比べては、早く追い付けるように祈った。
 そのうち、金木犀の木の蕾と見劣りしないくらいまで、テーブルの金木犀の蕾も膨らみ黄檗色《きはだいろ》に色付いた。

「蕾の大きさと、少し開きかけた感じが、同じくらいまで追い付けたね。良かった、良かった」

 そして数日後、部屋中が甘い香りで充満し出し、開花を今かと待ち侘びながら、いつものルートで買い物に出かけたイネは、見事に三度咲きを果たした金木犀の樹木に出逢った。

「ああ、この香り、橙色の可愛らしい花。素晴らしい事だね!滅多に無い三度咲きだよ!今年の秋は、三度もこの大好きな花に出逢わせてくれるとはね!季節外れの桜もあちこち咲いているし、何かの前触れなのだろうか?それとも、老い先短い私の為に、植物達が狂い咲きして見せてくれてるのかね?」

 買い物に行く気力を金木犀の花の癒しから充電してもらったイネは、心なしか軽快に歩けている気がした。

「金木犀の花のおかげだね。足が軽いよ」

 いつもの折り畳みバッグに入れた買い物もいつもより、重さを感じられず、肩や腕の負担にはならずに済んだ。

「金木犀に出逢えた嬉しさで、私の感覚がおかしくなったのだろうかね」
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