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BELIEVE-得能翔吾の章-
Chapter 1:突きつけられた現実
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「自分は物語の中心だと、ずっと思ってた」
彼の名は、得能翔吾-とくのうしょうご-。
思春期と呼ばれるその頃から、クラスでも、どこでも気が付けば彼は"真ん中"にいて、その周りを幾つかの惑星や衛星が一定の距離を保つようにくるくると回っている。
得能翔吾は、自分が求める訳でもなく、これまでそういう人生を送って来た1人である。
____________________
遠くでセミの声が聞こえる。
東京神宮前に白く聳え立つビルの7階、その会議室のオーディオスピーカーからは平均年齢21歳のアマチュアロックバンド「Signs of Brilliance-サインズ・オブ・ブリリアンス-」のデモ音源が小さく流れていた。
「僕の思う通りにさせてくれるなら君達を売ってあげるよ」
男は、飲み終えたアイスコーヒーの氷をストローで回しながら2人の顔も見ずに言った。
大手レコードメーカー"ユニオン"のプロデューサーである。
「それは、今の僕らでは駄目って事ですか?」
柊木誠は、恐る恐る男に問いかける。
不服と捉えた事を感じとった様子で、男は壁に掛けられたゴールドディスクの額に目をやって少し溜息をついた。
そして、今度は得能の目をしっかりと見据えて言った。
「君達の音楽には、残念ながらオリジナリティを感じない、このままでは到底無理だ。ただ・・・得能くんだったかな?僕は、君に売れる歌を歌わせる事が出来る。」
隣に座る柊木は、腕を膝に立てたままで、アイスコーヒーのグラスを伝う水滴をじっと見つめていた。
まだストローの封さえ切っていない。
さっきまで流れていたサイブリ(Signs of Brilliance)の音楽は既に止まっている。
沈黙の中、音楽プロデューサーらしきその男が机を人差し指で叩き一定のリズムを刻んでいる。
柊木は、この状況を残りの2人のメンバーにどう伝えるかを当惑し、得能は複雑な心境のままその男を見つめていた。
男と出会ったのは、先週の土曜の夜。
ライブを終えた得能や柊木達の前に現れた男から貰った名刺には、有名レコード会社の名前と専務取締役という肩書が記されていた。
ライブハウスから駅へ向かう商店街のアーケードの中、鼻息を荒くして子供のように飛び跳ねながらギターの小幡宏光は言った。
「いよいよやな!!」
大阪から上京して4年になるのに、まったく関西弁が抜けていない。
このバンドのリーダーでドラムの遠山静流も柊木も得能も奇声に近い歓喜を上げてはしゃぎ回り、その声はアーケードに響きわたっていた。
そんな中、ふと冷静を取り戻し静流が言う。
「でもさ、まだ契約が決まった訳じゃないから、、、名刺貰っただけだしなぁ」
「シズルー!水挿すような事言うなや!あのプロデューサーさん、俺らと契約に付いて話をしたいって言うてはるんやで、はい!それについてどう思う??」
小幡は既に飲み干したビールの空き缶を、まるでマイクのように静流に向けながら詰め寄った。
「いや、まぁ、あんまり浮かれすぎてガッカリするのもさぁ・・・俺たち、まだそんなに人気がある訳でもないし」
「まぁな!そりゃファンいうたら、今のところは得能の一人勝ちで、取り巻きはそこくらいやけど・・・」
それを見て、得能が慌てて言う。
「でも、柊木の書く曲や俺たちのバンドサウンドは、サイブリの売りだと俺は思うよ」
「そやで!メジャーデビューしたらさぁ、今みたい20人そこらのお客さん相手やなくて、俺らにもキャーキャーいう声援が回ってくるねんて!」
そんな小幡に柊木が笑いながら言った。
「いや、別にキャーキャー言われたいからってバンドやってねぇし」
「えっ?そうなん??」
無視して柊木は続ける
「ハッシーさんのバンドがメジャーデビュー決まったじゃん、その時も最初にブライトレコードから契約の話が来て、そこから何社もオファーが来て、結果大手のビルドジャパンと契約になったから、俺らもあんまり焦らずいて、色々なレーベルを見極める事になるかもだし」
柊木は、あの日の自分の発言を心で恥じていた。
また男が口を開く。
「まぁ、考えてみてよ。無理なら無理で、ウチは全然構わないから。」
柊木は我に帰り
「はい・・・あの、他のメンバーにも話し合って、また近日お話しに伺います」
「あぁ、良い良い。メールなり電話なり取り敢えず気持ちだけ教えてくれたら」
分厚いスケジュール帳を叩き、男は立ち上がった。
「はい、またすぐに連絡します!」
アイスコーヒーに手を付けずじまいで、柊木も慌てて席を立つ。
じゃあ、と男は背を向けオフィスに戻って行った。
あの男のやりたいように・・・
得能も柊木もその言葉を心の中で繰り返す。
蝉の声が2人の背中に覆い被さる中、無言のまま2人は駅へと向かった。
駅での別れ際、柊木が口を開く
「あのオッさんが欲しいのはきっとバンドじゃなくて、お前1人なんだよな・・・」
「いや、まぁそうと決まった訳じゃ」
「無理しなくて良いんだぞ」
「いや、俺はお前らとやりたいんだ」
そう得能が口にした瞬間、柊木の顔が少し明るくなった。
「それじゃ、また明日スタジオで」
「あぁ」
そう言って2人はそれぞれのホームへと進んだ。
蝉の鳴き声は変わらず鳴り響いていた。
彼の名は、得能翔吾-とくのうしょうご-。
思春期と呼ばれるその頃から、クラスでも、どこでも気が付けば彼は"真ん中"にいて、その周りを幾つかの惑星や衛星が一定の距離を保つようにくるくると回っている。
得能翔吾は、自分が求める訳でもなく、これまでそういう人生を送って来た1人である。
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遠くでセミの声が聞こえる。
東京神宮前に白く聳え立つビルの7階、その会議室のオーディオスピーカーからは平均年齢21歳のアマチュアロックバンド「Signs of Brilliance-サインズ・オブ・ブリリアンス-」のデモ音源が小さく流れていた。
「僕の思う通りにさせてくれるなら君達を売ってあげるよ」
男は、飲み終えたアイスコーヒーの氷をストローで回しながら2人の顔も見ずに言った。
大手レコードメーカー"ユニオン"のプロデューサーである。
「それは、今の僕らでは駄目って事ですか?」
柊木誠は、恐る恐る男に問いかける。
不服と捉えた事を感じとった様子で、男は壁に掛けられたゴールドディスクの額に目をやって少し溜息をついた。
そして、今度は得能の目をしっかりと見据えて言った。
「君達の音楽には、残念ながらオリジナリティを感じない、このままでは到底無理だ。ただ・・・得能くんだったかな?僕は、君に売れる歌を歌わせる事が出来る。」
隣に座る柊木は、腕を膝に立てたままで、アイスコーヒーのグラスを伝う水滴をじっと見つめていた。
まだストローの封さえ切っていない。
さっきまで流れていたサイブリ(Signs of Brilliance)の音楽は既に止まっている。
沈黙の中、音楽プロデューサーらしきその男が机を人差し指で叩き一定のリズムを刻んでいる。
柊木は、この状況を残りの2人のメンバーにどう伝えるかを当惑し、得能は複雑な心境のままその男を見つめていた。
男と出会ったのは、先週の土曜の夜。
ライブを終えた得能や柊木達の前に現れた男から貰った名刺には、有名レコード会社の名前と専務取締役という肩書が記されていた。
ライブハウスから駅へ向かう商店街のアーケードの中、鼻息を荒くして子供のように飛び跳ねながらギターの小幡宏光は言った。
「いよいよやな!!」
大阪から上京して4年になるのに、まったく関西弁が抜けていない。
このバンドのリーダーでドラムの遠山静流も柊木も得能も奇声に近い歓喜を上げてはしゃぎ回り、その声はアーケードに響きわたっていた。
そんな中、ふと冷静を取り戻し静流が言う。
「でもさ、まだ契約が決まった訳じゃないから、、、名刺貰っただけだしなぁ」
「シズルー!水挿すような事言うなや!あのプロデューサーさん、俺らと契約に付いて話をしたいって言うてはるんやで、はい!それについてどう思う??」
小幡は既に飲み干したビールの空き缶を、まるでマイクのように静流に向けながら詰め寄った。
「いや、まぁ、あんまり浮かれすぎてガッカリするのもさぁ・・・俺たち、まだそんなに人気がある訳でもないし」
「まぁな!そりゃファンいうたら、今のところは得能の一人勝ちで、取り巻きはそこくらいやけど・・・」
それを見て、得能が慌てて言う。
「でも、柊木の書く曲や俺たちのバンドサウンドは、サイブリの売りだと俺は思うよ」
「そやで!メジャーデビューしたらさぁ、今みたい20人そこらのお客さん相手やなくて、俺らにもキャーキャーいう声援が回ってくるねんて!」
そんな小幡に柊木が笑いながら言った。
「いや、別にキャーキャー言われたいからってバンドやってねぇし」
「えっ?そうなん??」
無視して柊木は続ける
「ハッシーさんのバンドがメジャーデビュー決まったじゃん、その時も最初にブライトレコードから契約の話が来て、そこから何社もオファーが来て、結果大手のビルドジャパンと契約になったから、俺らもあんまり焦らずいて、色々なレーベルを見極める事になるかもだし」
柊木は、あの日の自分の発言を心で恥じていた。
また男が口を開く。
「まぁ、考えてみてよ。無理なら無理で、ウチは全然構わないから。」
柊木は我に帰り
「はい・・・あの、他のメンバーにも話し合って、また近日お話しに伺います」
「あぁ、良い良い。メールなり電話なり取り敢えず気持ちだけ教えてくれたら」
分厚いスケジュール帳を叩き、男は立ち上がった。
「はい、またすぐに連絡します!」
アイスコーヒーに手を付けずじまいで、柊木も慌てて席を立つ。
じゃあ、と男は背を向けオフィスに戻って行った。
あの男のやりたいように・・・
得能も柊木もその言葉を心の中で繰り返す。
蝉の声が2人の背中に覆い被さる中、無言のまま2人は駅へと向かった。
駅での別れ際、柊木が口を開く
「あのオッさんが欲しいのはきっとバンドじゃなくて、お前1人なんだよな・・・」
「いや、まぁそうと決まった訳じゃ」
「無理しなくて良いんだぞ」
「いや、俺はお前らとやりたいんだ」
そう得能が口にした瞬間、柊木の顔が少し明るくなった。
「それじゃ、また明日スタジオで」
「あぁ」
そう言って2人はそれぞれのホームへと進んだ。
蝉の鳴き声は変わらず鳴り響いていた。
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