宇宙航空戦艦サーシャ

みこと

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第5話

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 火星、木星間アステロイドベルト(小惑星帯)宙域

 ───ガベイロス級宇宙戦艦ゴルバトフ───

「ロックオンされています!エネルギー確認!撃ってきますっ!」
「緊急回避っ!急げぇぇぇっ!!」

 味方であるはずの戦闘艦から強力なビームが発射された。
 ゴルバトフは姿勢制御用ブースターをフルパワーで作動させ、艦をきしませながら回避を試みた。
 宇宙航空戦艦CB-03の放ったビーム兵器はゴルバトフをギリギリ外れ、事無きを得た。
 その時、ゴルバトフが元々居た場所に突如、何かが現れた。

「なんだ、あいつらは敵に寝返ったのか?」
「いいえ艦長、違うと思います」
「何故そう思う」
「これを見てください、突然現れたものがあります」

 突然現れるものなど決まっている。

「艦長!」
「今度はなんだ!」
「やつ...CB-03から入電です。オープン回線です」
「繋げ」
【くおらぁぁぁ!!てめーら死にたいのか!空間探知くらいちゃんとしろ!!】

 いきなり女性の罵声がゴルバトフのブリッジに響き渡たった。

「グッ。なんだ!いきなり撃ってくるヤツがいるかぁっ!」
【へぇ、貴様のふねはよほど優秀なようだ】

 もちろん嫌味である。艦の操艦は言うほど早く出来るものではない。大型艦ならなおさらだ。
 警告してからでは間に合わない。悠長にお喋りをしている時間が無かったのだ。

「どういう意味だ!」
【あれ?何が起きたのか分からないのか...スマン、優秀じゃなくてバカだったようだ】
「話に割り込んで申し訳ありません、私のミスです」
【君は?】
「レーダー、索敵担当のランセル・クリーク中尉であります」
【それで?】
「空間魚雷ですよね、回避しなければやられてました」
【空間探知はしてたのか?】
「あ、いえ、その...ノイズが酷くて感度を下げておりました」

 空間探知は、探知可能な艦は多いが、作戦宙域に於いては、情報の混乱を防ぐため旗艦などの代表艦が行う。

【それでは切っているのと同じだ、どうやら敵さんの方が上手うわてのようだ】
「も、申し訳ありません」
「話は分かったが、君も名乗ったらどうだ」
【ああ、これは失礼した。私は第137任務部隊、ご覧の通り宇宙航空戦艦CB-03艦長、サーシャ・ペトリャコーフ大佐だ】

 ゴルバトフのブリッジクルーに動揺が走った。
 宇宙航空戦艦が現れた時点で予想はしていたが、サーシャ・ペトリャコーフ大佐はで有名人だからだ。

「私は火星軍主力艦隊司令官兼艦長のガルン・ロゴスキー中将だ。此度の助力、感謝する」
【あら、司令官閣下直々のご出陣とは...しかし、手酷くやらているようですな。おおよその事は想像出来るが、状況を教えて頂きたい】
「分かった」

 火星軍はある日、策敵部隊から敵の大艦隊がアステロイドベルト宙域に集結しているのを発見したとの連絡を受けた。その数約2000隻。
 通常は10隻程度で、他の惑星軍も同様だった。

 かつてない敵大艦隊に対抗すべく、火星軍の総戦力約8000隻の半分、約4000隻という大艦隊で敵殲滅に向けて出撃した。旗艦ゴルバトフには火星軍司令官、ガルン・ロゴスキー中将が搭乗、全軍の指揮及び艦長の任に就いた。

 約4000隻の火星軍主力艦隊は、約2000隻の敵反乱軍を発見。一気に包囲殲滅を試みた。兵力差は2倍。
 勝利は確実と思われたが、敵は有効射程距離ギリギリの距離を保ちながら後退、火星軍主力艦隊も追撃した。
 暫くすると、突如アステロイドベルトの岩塊に隠れた敵が現れ、逆に包囲された。
 隠れていた敵の総数は約3000隻。合わせて約5000隻。
 数刻で位置的にも数に於いても火星軍主力艦隊は劣勢に追い込まれた。

 それからは一方的であった。
 それに、もうあの木星の公転軌道上での決戦のような稚拙な戦いではなく、敵は見事な艦隊機動によって火星軍主力艦隊は為す術もなく数を減らしていった。
 火星軍主力艦隊は全速で後退、現宙域で再集結した。残存艦艇は約2000隻。半分となっていた。
 ということだった。

【なるほど。ノコノコと罠にハマッたわけだ】
「面目ない」

 ロゴスキー中将は、一瞬で約2000隻(火星軍の4分の1)を失ったことに責任を感じているのであろう。

【いや、約2000の大艦隊にまさかそれ以上の伏兵がいるとは普通は思わない、むしろ半分も残った、と言うべきだろう】
「そう言ってくれると助かる」

 いわゆる「釣り野伏せ」という戦法である。
 全軍を三隊に分け、そのうち二隊をあらかじめ左右に伏せさせておき、中央の部隊のみが敵に正面から接敵し、偽装退却、つまり敗走を装いながら後退し、所定の位置まで誘引し、そこで、二隊が現れ敵を三方から囲み包囲殲滅する戦法である。

【それに、そんな大艦隊をそのように機動させるのは、簡単じゃない、敵はかなり強い】
「私が言うのも何だが、見事だった」
【それで、何かお考えでも?】
「正直八方塞がりだ」
【恐らく敵の狙いは火星だろう】
「そうだろうな」

 火星は前述の通り、太陽系最大の工業国家だ。
 そこを占領され、約50億人の民間人を人質にされたら手も足も出なくなる。
 火星国の火星軍は、あと約4000隻残っているが、現在は各部隊がそれぞれの任務で分散している。おそらく、迎撃には間に合わないだろう。
 司令本部を占拠されれば軍は組織的行動は出来なくなる。
 場合によっては、政府の要所も占拠されるかもしれない。
 火星国に反乱軍の勢力がどれくらいの人数が、また、軍や政治、経済の要職など、何処にどれだけ潜んでいるか分からないのである。

 地球軍なども迎撃や支援には時間がかかり、反乱軍がどう動くか分からないので、動きようがない。
 火星国に残っている火星軍や警察、警備隊などがどれだけ抵抗するか分からないが、恐らく民間人を人質にされたら逆らえないだろう。
 このような事をするやからだ。女子供でも容赦しないだろう。

 そして地球へ侵攻する。という事も視野に入ってくる。
 軍だけではなく、経済的にも大打撃を与えることができる。太陽系全惑星国に対しても。
 更に戦闘艦も生産する事が出来る。時間さえあればいくらでも。
 つまり、反乱軍は木星の公転軌道上の決戦で約10万隻で出来なかった事を約5000隻でやろうとしているのだ。

【私に艦隊の指揮権を一時的に任せてもらうことは可能か?】
「貴様!調子に…」
「構わん副長…それで何か策があるのか?」
【無ければこんなことは言わん】
「ほう、聞こう」
【これから作戦の圧縮データを送信する。確認したら味方全艦に転送。不明点があれば聞いてくれ】
「分かった。送ってくれ」
「ペトリャコーフ大佐殿、クリーク中尉です。お聞きしたいことがあります」
【サーシャでいい。戦闘中に長い呼称は不要だ。ちょっと待て───時間は?『大丈夫です』───ああいいぞ、なんだ?】
「ではサーシャ大佐殿、どうして空間魚雷が分かったのですか?」
【戦闘宙域に来たならまず状況確認するのは当たり前だろう。空間探知なぞ基礎中の基礎だ。士官学校でサボっていたのか?貴様は】
「申し訳ありません、聞き方が悪かったです。ここの亜空間はノイズが酷くて、広範囲での空間探知では感度が落ちて空間魚雷を見つけることは難しいです。なので不思議に思いました」
【なるほど。では、通常空間、つまりノイズの少ない場所では空間魚雷を見つけて回避する事など児戯に等しい。それにやられるのはよほど間抜けだ。貴様のふねはそんなことも出来ないのか?】
「とんでもありません!言い訳ですが、この様なノイズが酷い場所で、さらに敵は圧倒的有利。この状況でまさか空間魚雷を撃ってくるとは思いませんでした。申し訳ございません。通常空間なら見逃すはずはありません」
【今、敵さんは再集結中で約5000もの艦隊では時間がかかる。足の遅いのも連れているからな。私が敵なら、この時間がもったいないから何かしら嫌がらせでもするぞ。敵もやったように空間魚雷で敵旗艦を狙撃する、とかな】

 空間魚雷は開発当時に於いては脅威的な兵器であったが、現在では様々な防御システムが構築され、事前に探知する事が出来れば回避することは容易である。また、空間魚雷そのものを破壊することも可能である。
 今回は、CB-03の砲撃によって、宇宙戦艦ゴルバトフは緊急回避を実行した、いや、されられたと言うべきか。それにより、結果的ではあるが、空間魚雷からも回避する事が出来た、ということである。

 反乱軍は、補給基地などがこの宙域には無いため、補給艦や工作艦などを随伴している。そういった艦は高速航行するようには造られていない。(ササクラーエンジンはパワーはあるが、それ以外のシステムが適応していない)
 別行動すれば格好の標的(艦載機による攻撃など)となるため艦隊後方に随伴している。

「それで、このふねに近づくものがないか探知したわけですね」
【そういう事だ。この空間のノイズでも範囲を絞れば、空間魚雷程度見つけるのは容易いからな】
「なるほどです」
ふねの各レーダーは目や耳だ。航行するにせよ戦闘するにせよ目や耳がちゃんと機能していなければ何もできん。貴様の役割は重要だぞ】
「分かりました。ありがとうございました!」
【うむ。それでは司令官閣下。作戦の圧縮データを送信する】

 しばらくして、CB-03より作戦データが送られてきた。
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