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百合子先生を守りたい

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「女子の指導は、キミの責任だ!
だから、いいか。必ず あいつらに、指定体操服で授業を受けるよう、キミが指導するんだ!」

うわあ。ヤバいわこれ。
私たち、見てしまった。
体育の授業が終わり、教室へ向かう途中のこと。
百合子ゆりこ先生が、脳筋のうきんに 捕まって、ひどく責められていた。
大人も いじめを やるんだね……。

だけど、脳筋は学年主任。百合子先生の立場は弱い。
どうしよう。私たちの せいだ。私たちの せいだ。
私たちの……。

でも 百合子先生は、まっすぐに脳筋を見つめて
「私は確かに経験が浅く、指導力不足です。幾重いくえにも お詫び申し上げます。
ですが、子どもたちは間違っていません。
体操服は、国の決まりでは ありません!
文部省に問い合わせてみてください!」
言い返した。
驚いたわ。

百合子先生が おっしゃる通りなら、私たちにブルマーを強制したのは、いったい、どこの誰なのさ?

先生方は、私たちに気づかないほど熱くなっていたのか、言い合いは続いた。
大噴火の脳筋と、冷静な百合子先生の対決よ!

……。

そしたら とうとう脳筋は
「あのなあ。キミは教師の仕事を無くしても いいのか?
あいつらだって、高校へ行きたがっている。それを、体操服の決まりくらいで、あきらめさせても いいのか?」

うわあ。ますますヤバいよ。
脳筋てヤツは、こんなに卑怯でチンケなヤツだったのね。
でもさあ。脳筋には、大地主の有力者(Aスケの親)が味方に付いていたんだっけ。忘れてたわ。

百合子先生、もういいですよう。私たちが 折れれば すむことですから……。

すると 百合子先生は、ため息まじりに
「わかりました。私の処分は、どうぞ、ご存分に なさってください。
でも、子どもたちの進路を絶たれることだけは、困ります!
ですから体操服の件は、私が きちんといたします」

「ふん。はじめから素直に従えばよかったんだ!」
大噴火の脳筋は、私たちに気づいた様子もなく、大いばりで立ち去った。
私たちも、そおっと、そおっと、しのび足。
遠回りして、教室へ戻ったわ……。

・・・

ちっとも味を感じない給食を食べて、その後の昼休み。
男子は外へ遊びに出ていて、教室には女子しかいない。
私たちは佐保里のもとへ集まっていた。

「みんな ごめんね。そして、今日はアタシに付き合ってくれて、ありがとう」
佐保里が みんなに 謝った。

でも みんなは
「そんなふうに謝らないで。佐保里は悪くない」
「そうだよ。佐保里は、うちらの ホントの気持ちを言ってくれたんだもの」

「でも、百合子先生が……」
「うん。百合子先生は、私たちを守ってくださった」
「あたし、百合子先生のこと、助けたい」
「うん。百合子先生には、ずっと先生をしてほしい」
「アタシも。そんで将来は、アタシの子どもの先生にも なってほしい」

私たちの高校進学よりも、百合子先生を助けたいってことを、みんなが思っていた。

そしたら、佐保里は
「そうだね。百合子先生には、アタシが代表で謝りに行く。
しょうがないから、ブルマーは、はこう。
そして、みんな、勉強しよう。がんばって、テストの成績を上げよう。
50位内に入れば、名前が掲示されるんだ」

すると みんなが 次々に応えて
「だね。
あたし、勉強できないけど、がんばる。やってみるよ」
「うちも がんばる。そんで、いい女になって、いい相手を選んで、いい お母さんになる。
いい世の中をつくる子どもを、育てるよ」
「そうだね。アタシは女子高をやめて、K高に希望を変えるわ。ホントは、大学へ行きたかったんだ。
そして 百合子先生みたいな大人になりたい」

そして その日の放課後。
「じゃ、行ってくる。みんなの話も、百合子先生に伝えるよ。
きっと、百合子先生を お助けできるはず」
佐保里はピースサインをして、教室を出て行ったわ。

百合子先生を守らなきゃ。
私たちや、未来の子どもたちのために。
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