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第2章
第30話 団らんの食卓にて
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「しかしレン、あなたは女の子になっても変わらないわよね。それについて悩んだりしてないって言ってたし」
「そう……かな。確かにこうなったからといって、別に不満に思ったりしたことはないかな。もうこんなに経ってたら、そんなこともあんまり気にしなくなったし」
夕食会も時がすぎ、僕も含め皆、酔いが少し回ってきた。向こうがどんな世界なのかを話したり、七年間の世の中の動きを聞いたり、そんな感じで話に花が咲いてきた中、母さんがそんなことを言い出した。
「そうだなぁ。やっぱり最初は面食らったけど、こうしてしゃべってると全然変わらないな。でも少し大人びた感じになったか……」
「確かに落ち着いたって雰囲気よね。お行儀も何か良くなった……あ、別に昔のあなたが悪かったわけじゃなくて」
「そりゃ向こうで色々経験したし。セシルさんのおかげもあるけど」
「やっぱり、セシルさんには感謝をしてもしきれないわね。とにかくこうしてあなたが成長して、今の境遇に満足してるなら母親としては言うことはないから」
こんな話をしていると、一人っ子ということもあり、昔は少し過保護気味な両親だったことを思い出す。大きくなるにつれ、少しずつ自立を促すことを言ってきたが、やはり甘いところもあり、ちょっとうざったく感じたこともあった。
そして今日、こうして精神的な成長を認められたっていうのは少し恥ずかしくも、嬉しいものがある。
まるで……一人前だと認めてくれたみたいで。
「私よりも本人の頑張りですよ。レンちゃん、何か他にも簡単な魔術を披露してみたら? 普段からちゃんとやってるのを教えてあげなよ」
「あっ、見せてくれる!」
「ん~そうだね、何がいいかな……」
セシルさんにそう促され、飲みかけのワインのグラスをおいて何を見せるべきか考える。既に幻術や精神操作はやってみせたからなあ。
そういうのじゃなくてもっと見た目で分かりやすい感じのを……
「よし、これなら……」
ふと目についた半分ほど入ったワインのボトルを右手にとる。そして僕は少しずつボトルを左の手のひらに向けてゆっくり傾けていった。
「あっ、こぼれるぞ!」
「いいから見ててって、父さん」
注がれていくワインは下から支える魔力によって、手のひらからわずかに浮いた位置でとどまり、シャボン玉を思わせる球状に形作っていく。そして、丁度グラス一杯分の量になったところでボトルを戻し、テーブルへとおいた。
「おお……」
「ふふっ」
ワインは立てた人差し指の上で照明に照らされながら浮かび、紅く美しい輝きを放っている。液体が形を持つという、非現実的な光景に見とれる母さんと父さんに向けて、僕は少し得意気に微笑んだ。
「はいっ、父さん」
「おっ!? おっとっと……」
「それっと……」
「うわっ!」
指を振るい、空になっている父さんのグラスへと球状のワインを飛ばした。
それに興味を示し、ぎこちなく受け取った父さんをちょっと面白いと感じた後、ワインを元の液体へと戻した。
「どうだった?」
「いや……凄いな! 流石は魔法使い!」
お酒が入っていることもあり、子供のようにはしゃぐ父さん。僕にとっては大したことではないが、こちらの世界の人には新鮮に映るのも当然だろう。
きっと逆の立場だったら、僕も同じリアクションをしていたに違いない。
「母さん、どう? 凄かったでしょ?」
「ええ……ホント凄いと思うわ」
僕自身もお酒のせいか、ちょっと調子に乗っているのを感じる。
それもあってか、続けて同じことをやろうとしたが……
「でも……なんか私が思っていたのと違かったわね……他にない?」
「ええっ……でもこれ凄い高等テクニックなんだよ。なんの補助もなしに綺麗に丸くするのとか……」
「そ、そうなの……ごめんね、別に悪く言ったつもりはないから。でも、少しイメージと違くて……」
「むむ……そうか」
ん~冷静になったら自分でもあんまりよくなかったと思えてきたぞ。
父さんは喜んでくれたみたいだが、あれじゃやっていること自体は普通の手品ショーとそう変わりがない。
もちろん僕は手品師ではないし、これはタネのある手品ではなく、正真正銘本物の魔術だ。
でもきっと母さんが考えている魔術は映画や小説などで見るような動物に変身したり、空を飛んだりそういうものに違いない。
だけどな……使い魔に意識を移したりするのはともかく、自身が別の動物になるなんてのはまた別の話だし、空を飛ぶというのも僕たちといえどそういう道具がないと厳しい。
それにやっぱり見てもらうだけじゃなくて、一緒に体験してもらうのが一番わかりやすいだろう。
そんなそれらしい魔術の中で今すぐにできそうなのあったかな? 何より母さんを巻き込んでも大丈夫そうなのとなると……ん? あっ、じゃあ……
「よし……母さん、一回外に出て。すぐに済むから」
「えっ? 外にってどういうこと?」
「いいからいいから。せっかくだから父さんも来て」
「なんだなんだ、また何かやってくれるのか?」
「そう……かな。確かにこうなったからといって、別に不満に思ったりしたことはないかな。もうこんなに経ってたら、そんなこともあんまり気にしなくなったし」
夕食会も時がすぎ、僕も含め皆、酔いが少し回ってきた。向こうがどんな世界なのかを話したり、七年間の世の中の動きを聞いたり、そんな感じで話に花が咲いてきた中、母さんがそんなことを言い出した。
「そうだなぁ。やっぱり最初は面食らったけど、こうしてしゃべってると全然変わらないな。でも少し大人びた感じになったか……」
「確かに落ち着いたって雰囲気よね。お行儀も何か良くなった……あ、別に昔のあなたが悪かったわけじゃなくて」
「そりゃ向こうで色々経験したし。セシルさんのおかげもあるけど」
「やっぱり、セシルさんには感謝をしてもしきれないわね。とにかくこうしてあなたが成長して、今の境遇に満足してるなら母親としては言うことはないから」
こんな話をしていると、一人っ子ということもあり、昔は少し過保護気味な両親だったことを思い出す。大きくなるにつれ、少しずつ自立を促すことを言ってきたが、やはり甘いところもあり、ちょっとうざったく感じたこともあった。
そして今日、こうして精神的な成長を認められたっていうのは少し恥ずかしくも、嬉しいものがある。
まるで……一人前だと認めてくれたみたいで。
「私よりも本人の頑張りですよ。レンちゃん、何か他にも簡単な魔術を披露してみたら? 普段からちゃんとやってるのを教えてあげなよ」
「あっ、見せてくれる!」
「ん~そうだね、何がいいかな……」
セシルさんにそう促され、飲みかけのワインのグラスをおいて何を見せるべきか考える。既に幻術や精神操作はやってみせたからなあ。
そういうのじゃなくてもっと見た目で分かりやすい感じのを……
「よし、これなら……」
ふと目についた半分ほど入ったワインのボトルを右手にとる。そして僕は少しずつボトルを左の手のひらに向けてゆっくり傾けていった。
「あっ、こぼれるぞ!」
「いいから見ててって、父さん」
注がれていくワインは下から支える魔力によって、手のひらからわずかに浮いた位置でとどまり、シャボン玉を思わせる球状に形作っていく。そして、丁度グラス一杯分の量になったところでボトルを戻し、テーブルへとおいた。
「おお……」
「ふふっ」
ワインは立てた人差し指の上で照明に照らされながら浮かび、紅く美しい輝きを放っている。液体が形を持つという、非現実的な光景に見とれる母さんと父さんに向けて、僕は少し得意気に微笑んだ。
「はいっ、父さん」
「おっ!? おっとっと……」
「それっと……」
「うわっ!」
指を振るい、空になっている父さんのグラスへと球状のワインを飛ばした。
それに興味を示し、ぎこちなく受け取った父さんをちょっと面白いと感じた後、ワインを元の液体へと戻した。
「どうだった?」
「いや……凄いな! 流石は魔法使い!」
お酒が入っていることもあり、子供のようにはしゃぐ父さん。僕にとっては大したことではないが、こちらの世界の人には新鮮に映るのも当然だろう。
きっと逆の立場だったら、僕も同じリアクションをしていたに違いない。
「母さん、どう? 凄かったでしょ?」
「ええ……ホント凄いと思うわ」
僕自身もお酒のせいか、ちょっと調子に乗っているのを感じる。
それもあってか、続けて同じことをやろうとしたが……
「でも……なんか私が思っていたのと違かったわね……他にない?」
「ええっ……でもこれ凄い高等テクニックなんだよ。なんの補助もなしに綺麗に丸くするのとか……」
「そ、そうなの……ごめんね、別に悪く言ったつもりはないから。でも、少しイメージと違くて……」
「むむ……そうか」
ん~冷静になったら自分でもあんまりよくなかったと思えてきたぞ。
父さんは喜んでくれたみたいだが、あれじゃやっていること自体は普通の手品ショーとそう変わりがない。
もちろん僕は手品師ではないし、これはタネのある手品ではなく、正真正銘本物の魔術だ。
でもきっと母さんが考えている魔術は映画や小説などで見るような動物に変身したり、空を飛んだりそういうものに違いない。
だけどな……使い魔に意識を移したりするのはともかく、自身が別の動物になるなんてのはまた別の話だし、空を飛ぶというのも僕たちといえどそういう道具がないと厳しい。
それにやっぱり見てもらうだけじゃなくて、一緒に体験してもらうのが一番わかりやすいだろう。
そんなそれらしい魔術の中で今すぐにできそうなのあったかな? 何より母さんを巻き込んでも大丈夫そうなのとなると……ん? あっ、じゃあ……
「よし……母さん、一回外に出て。すぐに済むから」
「えっ? 外にってどういうこと?」
「いいからいいから。せっかくだから父さんも来て」
「なんだなんだ、また何かやってくれるのか?」
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