行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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妥協案


 困り果てた様子の維さんに、一歩たりとも引きそうにない琳玲さん。

 ちなみにここにいるもう一人・孫武さんは面白そうな顔で腕を組んでいるので仲介するつもりはなさそう。おのれぇい……。

 孫武さんにはデコピンかアイアンクローをしてやりたいけど、ふつーに返り討ちになりそう……。とにかく、孫武さんは動きそうにないので私が止めないとか。

 でもなぁ。どうしたものかなぁ。

 実害が出ている本は処分しなきゃいけないけど、それをすると貴族の蔡家を敵に回すし、梓宸が焚書をしたという悪名も広がりそう。正直、どっちの言い分も理解できるのよねぇ。

 神仙術士としては危険な本は処分するべきかもしれない。でも、燃やしてしまうと維さんに迷惑が掛かるからなぁ。梓宸はどうでもいいけど、維さんに迷惑を掛けるのは可哀想だ。梓宸はどうでもいいけれど。

 ここはもうこの部屋を完全封鎖することで妥協するべきでは? と、私が提案しようとすると、

「――お待ちくだされ!」

 大声を発したのは先ほどまでヒ素中毒で苦しんでいた患者さん。あの呪いの本を写本していたんだっけ?

「あら、患者さん。体調はどうですか?」

「これは凜風殿。この度は儂の体調回復のために尽力してくだされたようで……。実を言いますと謝意を伝えるためにここまでやって来たのですが、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

「え? あ、はい? どうぞご自由に?」

 まだ体調も回復していないだろうに真面目だなーっと感心していると、患者さんは維さんに向けて深々と頭を下げた。

「張相公宰相。その本を処分するのはお待ちくだされ」

「む? いや、しかしだな……」

 中毒で苦しんだはずの本人からの意外な願い。維さんも困り顔だ。
 ちなみに患者さんの方が明らかに年上だけど、地位の差があるため維さんが敬語を使うことはない。

「どうか、ご再考を。あの本は光帝こうてい陛下の時代について記された書籍なのです」

 光帝というと、最初の皇帝とされる人物か。なんでも世界最初の光の中から生まれたのだとか。

 ちなみに歴史上はじめて大陸を統一したのは始皇帝なのだけど、伝説・神話ではじめて大陸統一を果たしたのは光帝だとされている。

 光帝が実在したかとか、本当に大陸統一を果たしたかどうかはともかく……数千年前について書かれた書物であればとんでもなく貴重ね。というか私も興味あるわ。今では失われてしまった術とか絶滅してしまった神獣・霊獣も記されているかもしれないし。

「――なるほど、よく分かりました」

 ぱんぱん、と手を叩く私。

「維さんは危険な本を処分したい。琳玲さんは本の処分を許せない。そして患者さんは書物の研究をしたい、といったところでしょうか?」

 それぞれに頷く三人。この状況の解決策は一つである。

「では、私が写本しましょう」

「え? しかし凜風様……」

「私であればヒ素に触れても平気ですし。患者さんが写本を続けるより安全でしょう。写本が終わりましたら新しく木箱でも用意して、本を厳重保管。そうすれば本の内容は写本で確認できますし、本自体も保存できますし、これ以上の被害拡大はされません。いかがでしょうか?」

 ついでに言えば私も写本をしながら内容を確認できると。ふふふ……光帝時代の本……絶対面白い……私なら一回読めば全部覚えられるしね……。

「ま、まぁ」

「そういうことでしたら、こちらは異存ありません」

「……儂が写本するより、神仙術士である凜風殿に任せた方がいいですか」

 納得したように頷く維さん、琳玲さん、患者さんだった。あれ患者さんって私が神仙術士だと知っているんだ? やだー私ってば有名人ー。


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