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スピード退職
しおりを挟む「う~ん……」
ちょっとやり過ぎたかもしれない。
いやしかし、襲いかかってきたのはあっちなのだから私は悪くない。驚くほど悪くない。むしろ被害者なのだから誰か慰めて欲しいところだ。欲を言えばミーシャとか、フェイス君とか。ああいう美少女や美少年に。
いや実年齢が私より高い可能性があるミーシャは『美少女』じゃなくて『美女』なのかしら……? でも見た目は少女で、けれど中身は大人の女性で……?
美女か美少女か。世界の法則を揺るがしかねない命題に挑んでいると、お腹が空いてきた。なんやかんやでアレになってしまったけど、一応この騎士団の所属なのだから食堂も使えるでしょう。
ということで食堂へ。道案内はなかったけどニオイを辿れば場所くらいは分かる。この私が肉の焼ける香りを間違えるはずがない! ちょっと焦げ臭いけど! それでも肉だ! 私は無事食堂にたどり着き! 料理長っぽい男性の前に立った!
「――肉!」
「に、にく……?」
「おっと失礼。本日着任したセナリアス騎士爵です。騎士爵なので偉いです。お肉ください」
「あ、あぁ、はいよ」
お昼時だったおかげか準備はしてあったらしく、すぐにトレーが渡された。メインは薄めのステーキ。あとは黒パンと屑野菜のスープってところか。
最も重要なお肉は……焦げていた。焦げ焦げだった。無事な部分よりお焦げの方が多かった。火加減を間違えたか、数をこなさなきゃいけないから手抜きをしたのか……。
いやしかし、見た目はアレでも奇跡的に美味しい可能性はある。ゴブリンのお肉のように。あぁでもゴブ肉は見た目からして美味しそうだったなぁ。
左手に持ったフォークで肉(とても固い)を突き刺して、右手のナイフで切――れない。なんだこれ、かったい。火が通りすぎなのか、あるいは安い肉を使っているのか。……たぶん両方ね。
嫌な予感をびんびんに感じながら、気合いと根性で肉を切り、不退転の覚悟で口に放り込む。
ぐちゃ、ぐちゃ、ねちゃ。
もう固すぎて前歯じゃかみ切れないし、奥歯が痛くなってきたし、なんだか酸っぱい気もしてきた。当然のように筋も切ってないし。――マズい。もはや肉と認めたくないほど、マズい。
もしや、この騎士団で働くなら、毎日こんなお肉を食べなきゃいけないとか……?
…………。
「――わたし、騎士辞める!」
もう退職金とかいいや! こんな肉は二度と食べたくない! 今すぐ辞表を叩きつけましょう! 決心した私は(それでも意地で完食して)料理長から事務局の場所を聞き出し、駆けだしたのだった。
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