13 / 45
冒険者ギルドにて
事務局での退職手続きは思ったよりスムーズに終わった。どうやらここには各地から左遷された騎士が集まってきて、そのせいか離職率も高く、事務局も手慣れていたらしい。
……いや、退職理由が『マズい肉』というのはさすがに初めてだったらしく、目を丸くしていたけどね。
事務局から王都まで手紙を出せるというので、とりあえず王都にいる親友たちと異母弟に退職のご連絡。お肉がマズすぎたので辞めましたーっと。こう書くことによって予定な心配をさせない、高度な情報戦なのである。
これでもう心配事はなし。退職金もちゃんと出るみたいなので、後ろ髪引かれることもなく私は冒険者ギルドを目指した。
冒険者というのは未開の地を探索するのが本来の意味だと思う。でも、この世界での主な仕事は魔物討伐となる。騎士団が他国との戦争ばかり想定していて、魔物の相手をしないからね。暇なときは魔物討伐してくれればいいのに。
今の王太子殿下が王様になれば少しくらい現状も変わるだろうけど……ま、今の私にはもう関係のないお話だ。
町の人に道を尋ねながら、冒険者ギルドへ。
冒険者ギルドの建物は石造りの建物だった。三階建てというのも珍しいけれど、何より目を引くのはその大きさだ。騎士団の宿舎かってくらい大きい。
ギルドの入り口に宿泊料金が書いてあったので、もしかしたら宿屋もやっているのかもね。
え~っと、たしか冒険者ギルドの受付に行けば、冒険者登録ができるはず。
知識はあるけど実体験は初めてとなる私は少し緊張しながらギルドの扉を開け――
――肉!
室内を満たすのは雑多なニオイ! お酒に、揚げ物に、お肉! ははーん、受付の隣に食堂が併設されているのね!
「……おいおい、なんか『肉!』って顔をしているぜ?」
「あぁ、『肉!』って顔だな……」
「セナさんって分かり易いですね……」
「あれが肉欲……」
入り口近くのテーブルにいたニッツ、ガイル、ミーシャ、フェイス君が呆れた様子でこちらを見ていた。
「あら久しぶり。ってほどじゃないけど、久しぶりね」
「なんかテキトーな挨拶だなぁおい」
「ふふん、それだけ心許しているってことよ」
実際、あの騎士団長や騎士連中に比べればビックリするほど良い人たちだしね。
「へいへい。で? ここに来たってことは騎士団を辞めてきたのか?」
「そうそう。なんか思ったより腐っていたし、お肉もたぶん腐っていたし」
「お前の判断基準って肉しかないのか?」
「失礼ね。生物として当然の行動よ。人間食べなきゃ死んじゃうのよ?」
「へいへい」
なんかニッツからの扱いが雑な気がする。こんな美少女を前にして。
ま、いいや。冒険者登録をするため、ニッツたちに教えられた通りに受付へ。ちなみにニッツたちも一緒に来てくれると言ってくれたけど、丁重にお断りした。子供じゃあるまいし。
受付は四つあったけど、一番優しそうなお姉さんのところへ。
「すみませーん。冒険者になりたいんですけどー」
私がそう申請すると、お姉さんはいかにも優しそうな笑顔を浮かべた。
「はい。冒険者ギルドへようこそ。まずは冒険者制度について説明させていただきますね。――傷病、および死亡は自己責任ですのでご承知おきください」
わぁ、優しい顔していきなりぶっ込んできたわね。まぁこの程度でビビっているようじゃ冒険者なんてできないってことか。そう考えるとこの警告もある種の優しさであると。
その後も(詳しくは冊子を読むようにと前置きされた上で)簡単に冒険者制度について説明してくれる。いつどんな依頼を受けるかは自由。提示版に張られた依頼から好きなものを取って受付をすると。
冒険者ランクはFから始まってE・D・C・B・A・S。ただしSランクへの昇級は国家の承認が必要と。
迷宮(ダンジョン)に入れるのはEランクになってから。
ランクによって受けられる依頼も変わってくるけれど、所属するパーティ人員の平均ランクが達していれば受けられるらしい。――ただし、迷宮に入れるのはEランクからというのは変わらないと。
冒険者証を持っていれば比較的自由に他国まで行けるけど、扱いは流民と一緒なので国家からの庇護は期待するな。らしい。
「では登録を進めさせていただきます。職業――いえ、武器は何でしょう?」
「剣で」
「では前衛職で。……未経験でしたら教官からの講義も受けられますよ? もちろん有料となりますが」
「あはは、私が未経験に見えますか?」
「…………」
その細腕で剣を振るの? と、顔に書いてある受付嬢さんだった。これでも近衛騎士をボコれるくらいの実力はあるんですけどねー。さっきだってここの騎士団をボコってきたしー。
「――ははは、ライラさん。こう見えて、こいつの腕は確かだぜ?」
と、ニッツが後ろから肩を組んできた。相も変わらず肉欲(本来の意味)がない人だ。
「あぁ。見た目は華奢だが、中身はとんでもないからな」
ガイル、それは剣の腕のことを言っているのよね? 性格がとんでもないってことじゃないわよね?
「せっかくですから魔法の適性検査と魔力量測定もどうですか?」
と、ミーシャ。私のためというよりは自分の知的興味(私の魔法適性と魔力量)が勝っていそうね。
「……セナもFランクからなの?」
と、フェイス君。口数は少ないけどこれは「セナの実力はもっと凄いのに!」と抗議してくれているに違いない。……「コイツがFランクとかただの詐欺だろ」って意味じゃないわよね?
急に現れた『暁の雷光』に、ライラさんと呼ばれた受付嬢が面食らっている。
「え、え~っと、もしかして、皆さんのお知り合いですか?」
「おぅ、冒険者になったらすぐに勧誘するからよろしくな」
「……皆さんが責任を持って育成すると?」
「まさか。即戦力としてさ」
「即戦力? その、前職で素晴らしい実績を残した、とかですか?」
「……残しているんだろ?」
確信を込めた目でこっちを見るニッツ。実戦での動きを見れば活躍していないわけがない、ってところかしら?
「そうね。最年少で騎士爵になったことが実績と言えば実績かしら?」
騎士爵とは一応貴族なのだけど、一代限りの爵位なので他の貴族からはそれほど重視されることはない。ただ、逆に言えば自分の力で勝ち取った爵位なので、その意味では実力を測るのに最適な指針だと思う。
だというのに、
「――はん、騎士崩れが冒険者をやれるかよ」
あなたにおすすめの小説
子ドラゴンとゆく、異世界スキル獲得記! ~転生幼女、最強スキルでバッドエンドを破壊する~
九條葉月
ファンタジー
第6回HJ小説大賞におきまして、こちらの作品が受賞・書籍化決定しました! ありがとうございます!
七歳の少女リーナは突如として前世の記憶を思い出した。
しかし、戸惑う暇もなく『銀髪が不気味』という理由で別邸に軟禁されてしまう。
食事の量も減らされたリーナは生き延びるために別邸を探索し――地下室で、ドラゴンの卵を発見したのだった。
孵化したドラゴンと共に地下ダンジョンに潜るリーナ。すべては、軟禁下でも生き延びるために……。
これは、前を向き続けた少女が聖女となり、邪竜を倒し、いずれは魔王となって平和に暮らす物語……。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが
夏見ナイ
ファンタジー
過労死した俺が転生したのは、大好きな乙女ゲームの悪役貴族アレン。待つのはヒロインたちからの断罪と処刑エンド!?冗談じゃない!
絶対に生き延びて平穏な老後を送るため、俺はゲーム知識を総動員して破滅フラグ回避に奔走する。領地を改革し、民を救い、来るべき災厄に備えて血の滲むような努力を重ねた。
ただ死にたくない一心だったのに、その行動はなぜか周囲に「深謀遠慮の聖人」と勘違いされ、評価はうなぎ登り。
おまけに、俺を断罪するはずの聖女や王女、天才魔導師といったヒロインたちが「運命の人だわ!」「結婚してください!」と次々に迫ってきて……!?
これは、破滅を回避したいだけの悪役貴族が、いつの間にか国を救う英雄に祭り上げられ、ヒロインたちに溺愛される勘違い救国ファンタジー!