女騎士さん、冒険者になる。~今日も魔物の肉が美味い~

九條葉月

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冒険者ギルドにて



 事務局での退職手続きは思ったよりスムーズに終わった。どうやらここには各地から左遷された騎士が集まってきて、そのせいか離職率も高く、事務局も手慣れていたらしい。

 ……いや、退職理由が『マズい肉』というのはさすがに初めてだったらしく、目を丸くしていたけどね。

 事務局から王都まで手紙を出せるというので、とりあえず王都にいる親友たちと異母弟おとうとに退職のご連絡。お肉がマズすぎたので辞めましたーっと。こう書くことによって予定な心配をさせない、高度な情報戦なのである。

 これでもう心配事はなし。退職金もちゃんと出るみたいなので、後ろ髪引かれることもなく私は冒険者ギルドを目指した。

 冒険者というのは未開の地を探索するのが本来の意味だと思う。でも、この世界での主な仕事は魔物討伐となる。騎士団が他国との戦争ばかり想定していて、魔物の相手をしないからね。暇なときは魔物討伐してくれればいいのに。

 今の王太子殿下が王様になれば少しくらい現状も変わるだろうけど……ま、今の私にはもう関係のないお話だ。

 町の人に道を尋ねながら、冒険者ギルドへ。
 冒険者ギルドの建物は石造りの建物だった。三階建てというのも珍しいけれど、何より目を引くのはその大きさだ。騎士団の宿舎かってくらい大きい。

 ギルドの入り口に宿泊料金が書いてあったので、もしかしたら宿屋もやっているのかもね。

 え~っと、たしか冒険者ギルドの受付に行けば、冒険者登録ができるはず。
 知識はあるけど実体験は初めてとなる私は少し緊張しながらギルドの扉を開け――

 ――肉!

 室内を満たすのは雑多なニオイ! お酒に、揚げ物に、お肉! ははーん、受付の隣に食堂が併設されているのね!

「……おいおい、なんか『肉!』って顔をしているぜ?」

「あぁ、『肉!』って顔だな……」

「セナさんって分かり易いですね……」

「あれが肉欲……」

 入り口近くのテーブルにいたニッツ、ガイル、ミーシャ、フェイス君が呆れた様子でこちらを見ていた。

「あら久しぶり。ってほどじゃないけど、久しぶりね」

「なんかテキトーな挨拶だなぁおい」

「ふふん、それだけ心許しているってことよ」

 実際、あの騎士団長や騎士連中に比べればビックリするほど良い人たちだしね。

「へいへい。で? ここに来たってことは騎士団を辞めてきたのか?」

「そうそう。なんか思ったより腐っていたし、お肉もたぶん腐っていたし」

「お前の判断基準って肉しかないのか?」

「失礼ね。生物として当然の行動よ。人間食べなきゃ死んじゃうのよ?」

「へいへい」

 なんかニッツからの扱いが雑な気がする。こんな美少女を前にして。

 ま、いいや。冒険者登録をするため、ニッツたちに教えられた通りに受付へ。ちなみにニッツたちも一緒に来てくれると言ってくれたけど、丁重にお断りした。子供じゃあるまいし。

 受付は四つあったけど、一番優しそうなお姉さんのところへ。

「すみませーん。冒険者になりたいんですけどー」

 私がそう申請すると、お姉さんはいかにも優しそうな笑顔を浮かべた。

「はい。冒険者ギルドへようこそ。まずは冒険者制度について説明させていただきますね。――傷病、および死亡は自己責任ですのでご承知おきください」

 わぁ、優しい顔していきなりぶっ込んできたわね。まぁこの程度でビビっているようじゃ冒険者なんてできないってことか。そう考えるとこの警告もある種の優しさであると。

 その後も(詳しくは冊子を読むようにと前置きされた上で)簡単に冒険者制度について説明してくれる。いつどんな依頼を受けるかは自由。提示版に張られた依頼から好きなものを取って受付をすると。

 冒険者ランクはFから始まってE・D・C・B・A・S。ただしSランクへの昇級は国家の承認が必要と。

 迷宮(ダンジョン)に入れるのはEランクになってから。

 ランクによって受けられる依頼も変わってくるけれど、所属するパーティ人員の平均ランクが達していれば受けられるらしい。――ただし、迷宮に入れるのはEランクからというのは変わらないと。

 冒険者証を持っていれば比較的自由に他国まで行けるけど、扱いは流民と一緒なので国家からの庇護は期待するな。らしい。

「では登録を進めさせていただきます。職業ジョブ――いえ、武器は何でしょう?」

「剣で」

「では前衛職で。……未経験でしたら教官からの講義も受けられますよ? もちろん有料となりますが」

「あはは、私が未経験に見えますか?」

「…………」

 その細腕で剣を振るの? と、顔に書いてある受付嬢さんだった。これでも近衛騎士をボコれるくらいの実力はあるんですけどねー。さっきだってここの騎士団をボコってきたしー。

「――ははは、ライラさん。こう見えて、こいつの腕は確かだぜ?」

 と、ニッツが後ろから肩を組んできた。相も変わらず肉欲(本来の意味)がない人だ。

「あぁ。見た目は華奢だが、中身はとんでもないからな」

 ガイル、それは剣の腕のことを言っているのよね? 性格がとんでもないってことじゃないわよね?

「せっかくですから魔法の適性検査と魔力量測定もどうですか?」

 と、ミーシャ。私のためというよりは自分の知的興味(私の魔法適性と魔力量)が勝っていそうね。

「……セナもFランクからなの?」

 と、フェイス君。口数は少ないけどこれは「セナの実力はもっと凄いのに!」と抗議してくれているに違いない。……「コイツがFランクとかただの詐欺だろ」って意味じゃないわよね?

 急に現れた『暁の雷光』に、ライラさんと呼ばれた受付嬢が面食らっている。

「え、え~っと、もしかして、皆さんのお知り合いですか?」

「おぅ、冒険者になったらすぐに勧誘するからよろしくな」

「……皆さんが責任を持って育成すると?」

「まさか。即戦力としてさ」

「即戦力? その、前職で素晴らしい実績を残した、とかですか?」

「……残しているんだろ?」

 確信を込めた目でこっちを見るニッツ。実戦での動きを見れば活躍していないわけがない、ってところかしら?

「そうね。最年少で騎士爵になったことが実績と言えば実績かしら?」

 騎士爵とは一応貴族なのだけど、一代限りの爵位なので他の貴族からはそれほど重視されることはない。ただ、逆に言えば自分の力で勝ち取った爵位なので、その意味では実力を測るのに最適な指針だと思う。

 だというのに、

「――はん、騎士崩れが冒険者をやれるかよ」

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