かずくんちのお風呂

アイハル

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かずくんちのお風呂

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 ママが昨日お風呂が壊れたって。それでこんな雪の中、同い年のかずくんのいる親戚の家にお風呂を借りに来た。
「こんばんは、おばちゃん?単語ゆか結花だよ」
 玄関からのぞき込むと人気がしない。おっちょこちょいなおばちゃんだから、またカギ掛けずに家の電気つけたまま家を出掛けたな。
 まあいいや。知らぬ家じゃない。ママが電話で断わってるし、お土産のおせんべいコタツの上において、お風呂借りちゃおうっと。…あっといけない、靴はきちんと玄関に揃えてと。

 おばちゃん家のお風呂は、脱衣所もきれいで、風呂釜はうちのお風呂より大きくて足を伸ばしても充分余裕がある。
 空けた窓から粉雪が頬に落ちてきて気持ちいい。私の肩までの髪の毛先は水面を撫でる。お湯をすくって肩に掛ける。うん、いい気持ちー。
「ただいま」
 あ、やだ、かずくんだ。かずくんが帰って来た。
 てっきりおばちゃんが先に帰ってくるものだと決めつけていた。私もおばちゃんのこと言えないおっちょこちょいだ。
「かあちゃん、石鹸」
 かずくんは玄関を抜けるとこっちへ向かってきた。
 どうしよう、かずくんはおばちゃんがお風呂入ってると思ってるんだ。で、石鹸渡しにお風呂にくる。玄関の私の靴、見て気づかないのかなぁ、私だって。…無理だよなぁ、かずくん、女性の靴なんて興味ないもの。
 足音はどんどん近づいてきた。
 あーん、どうしよう。そうだ、歌でも歌えば、私って分かるかも。
「雪やこんこ。あられやこんこ…」
 私は緊張してかすれた声になってしまった。
「かあちゃん、上機嫌だなぁ」
 うそー。
 そうだった。私とおばちゃんの声は、かなり似ていた。ただ私の方が若い声かもしれない。でも、かすれてそれが返って年齢差を埋めたみたいだ。
 脱衣所のドアが開けられた。
 どうしよう、かずくん、どこまで入ってくるんだろう。いやだ、下着とか丸見えじゃん。恥ずかしい。下着見て、おばちゃんじゃないこと気づくかなぁ?いや、かずくんじゃ気づかないだろうなぁ。もう声もでない。どうしよう、お風呂の扉が私の最後の砦だわ。ああ、神様、仏様、弁天様、かずくんが、お風呂の扉空けませんように。
 私は湯船の中の胸を両手でしっかり押さえた。
「ここ、置いとくよ」
 脱衣所のドアが閉められた。

 家にかずくんとふたりっきりの状況は、長く続いたが、私の胸は終始ドキドキしっぱなし。

「ただいま。あら、結花ちゃん早速来たわね」
 おばちゃんが帰って来た。
 ふぅー。
 私の緊張は、嘘のように溶けた。でもなんかはっきりしない気持ち。もしかして心のどこかで、もうちょっと二人の時間が続くことを望んでたのかもしれない。
 なんかよく分からないまま私は、お湯に頭をすっぽり沈めた。
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