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3・がぶり。/暦
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「あのコ智田くんの彼女?俺超睨まれた」
喫煙所のドアを開けたら壱木が煙を吐きながらおれのほうを見ずにそう言った。
「ん?ああ、高校からのオトモダチ。てか中野は男だし」
「え、あれで男?」
「ん」
「……俺あのコなら男でも抱けそ……あ、」
にやりと笑った壱木の頭から眼鏡を没収して壱木がしていたのを真似て前髪を持ち上げる。
「おれが告ったの忘れてない?」
「……だって智田くん俺とどうこうなりたいわけでもなさそうだし」
「まぁ無理強いとか趣味じゃないし。普通に考えたら男同士でそういうのは嫌がるだろうってわかんじゃん」
「優しいのか煮え切らないのかよくわかんねーなぁ」
呆れたように肩をすくめる壱木を抱き寄せて、その手から煙草を取って灰皿に落としてキスした。
一瞬だけ身をかたくして、壱木はすぐに力を抜いた。
唇を離して見つめたが壱木は目を伏せたまま俺を見ない。
「……嫌なんじゃねーの。普通はさ、男同士でこういうの」
「……俺は普通ってイマイチよくわかんねーから」
「壱木は嫌じゃねーの」
「……俺からちゅーしたじゃん。……もっと嫌になるもんかと思ったけど……普通に気持ちよかった」
俯いたまま呟く壱木の唾液に濡れた唇に微かに欲情を覚えて深く息を吐いた。
「……でもこれ以上は無理だろ」
「さぁ……考えたことねーから」
おれも考えたことなどない。
でも今、おれは壱木を抱きたいと、思っている。
どうにか落ち着こうと、壱木の身体を解放した。
「……もうちょい警戒しろよ。おれは仮にもあんたのこと好きっつってる男なんだからさ」
「……」
シガレットケースをとりだしてフィルターをくわえる。
メンソールを吸いたい気分だった。
火を点けたら横から手がのびてきて煙草を奪われて壱木に目をやる。
「ハイライトじゃなかったっけ」
「……たまにはいい」
「好きだよ」
「……いきなりなに」
「いや、忘れられねーように言っとこうかと」
「……別に、……忘れてねーし」
頑なにおれのほうを見ようとしない壱木から目をそらして、この喫煙所に一つだけある小さな窓から微かに見える空の青を眺めた。
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