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11.逃げるなら今のうちに逃げればいい。/暦
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しおりを挟む「…ん」
「…」
ころりと寝返りを打って、布団から出てしまった中野に手をのばし、自分のほうへ寄せた。
狭いベッド。
おれがソファで寝るから、と言っても中野は一緒に寝る、と言ってきかない。
壱木と出くわして以降、泊まりに来る回数が増えた。
…気がする。
欠伸を噛み殺し、また中野が布団から出ないように抱き寄せて目を閉じた。
※
講義の合間、眼鏡をはずして瞼の上から眼球を押さえた。
「智田、次何だっけ」
「次…、」
眠くて瞼が勝手に落ちる。
「智田ー!」
「お前…なんでそんな元気なの」
「よく寝たし」
「テメーおれはお前の寝相のお陰で寝てねー…んだよ…」
「智田ー!起きろー!」
「うっせー!」
自分だけスヤスヤころころ転がって寝ていた中野は元気なようだがおれは眠い。
おれの手から眼鏡を奪って、中野は俺の前髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「智田ってば、寝んな、」
「…駄目だねみー、珈琲と煙草」
「…おっさん」
「うっせ。お前のせいだし」
立ち上がったら中野が背中にのっかってくる。
軽いのでまぁいいかと好きにさせた。
自販で缶珈琲買って背中の中野をおろす。
「眼鏡」
「ん。智田は眼鏡あるほうがいいな」
壱木と真逆なことを言われた。
「…すんませんね、不細工で」
「まあ俺は智田の顔好きだけど」
「なんもでねーぞ」
「えー」
「てかついてくんな。喫煙所行くから」
「えー…」
膨れる中野を置いて、眠気覚ましに中庭の隅の喫煙所に向かう。
この季節は寒さのせいかほとんど人は居ない。
ベンチに座って珈琲のタブを持ち上げ、シガレットケースを取り出したら視界が陰って、正面の人影を見上げた。
「…壱木」
「隣、座っていい?」
「ああ。…いいのか、高間は」
曖昧に笑って、壱木はおれの隣に少し離れて座った。
「…久しぶり、な気がすんね」
「一ヶ月くらいなもんだろ」
「…智田くんは、…」
「ん」
寒そうに首をすくめる壱木に珈琲を差し出す。
「…ありがと」
「ん」
「…智田くんは、…中野くんと付き合ってんの」
「…なんでそんな話になったんだ」
珈琲は飲まずに両手で缶を掴んで、壱木はうつむいた。
「…ずっと、声かけたかったんだけど、…中野くんと一緒だったから」
「ああ見えても中野は男だぞ」
「俺も男だし」
「…おれの恋愛対象自体が男みたいに言うな」
ハイライトのソフトパックを取り出した壱木に無言でライターを渡す。
壱木も無言で受け取って、石を擦った。
白い煙を吐き出しながら、壱木が呟くのをきいていた。
「…俺、……前みたいに智田くんと話したりしてーんだけど…」
「…高間がいいならいいんじゃねーの」
「…ムツとは別に……、付き合ってねーし」
「…高間が好きなんじゃねーのかよ」
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