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19.もっともっと/暦
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しおりを挟むふと、三浦が壱木を睨んでいることに気付く。
「何かあったのか」
「…別に。ああいう遊んでる人、嫌いなだけ」
「…お前も似たようなもんだろ。誰とも付き合わずに割り切って遊んでる分、あいつの方がマシだ」
「え、」
「おれは独占欲つえーって最初に言った。わかってて付き合っただろ。それでも他の男と遊びたかったなら遊ぶより先に「別れる」って言え。おれで遊ぶな」
三浦が手を伸ばすのが見えた。
自分に触れる前に避わしてボトムのポケットに手を突っ込んで歩き、壱木の正面に立つ。
「…よッス」
所々目にかかる壱木の前髪の間から、壱木の目を見た。
「何があった」
「…あの子と寝た」
「…」
「やっぱ女は抱ける。大体誰でも」
「…」
「何で黙ってンの。何か言ってよ」
思わず拳を握る。
「…何を言えば」
「怒ってる?あ、もしか妬いてんの?」
「壱木」
弧を描く薄い唇が見えた。
「…どっちに?」
「ふざけてんのか」
思わず壱木の胸ぐらを掴んだ。
「彼女見てるよ」
「どうでもいい」
「でもここで揉めたりしたら彼女勘違いしちゃうよ、多分。『私のために暦が怒ってる』とかさ」
「…」
「場所変えようよ」
何も言えずに壱木の服から手を離す。
「…わかった」
「このまま。振り返らずについてきなよ」
壱木の視線がおれの背後の三浦を見たのが分かった。
頷いたら壱木が微かに笑む。
だらだらと壱木の後をついて歩いていたら、以前使っていた喫煙所に着いていた。
「…ここは、高間に使うなって言われてる」
「あー、やっぱんなこと言われてんのか。いーよ、使って。ムツにんなこと決める権限ねーんだから」
「…それは…あんたの返事を聞いてから決める」
「…そ」
フィルターをくわえる壱木の薄い唇に目がいく。
「…」
「…解るかと思ったんだよ」
「何が」
「智田くんが可愛がって付き合ってたんなら、あの子と寝てみたら少しくらいは、智田くんのこと理解できんのかなって――」
壱木がくわえた煙草を奪って自分でくわえ、壱木の下唇を親指で押した。
「…分かった?」
柔い感触に微かに欲情する。
「…わかんね。フラれて泣く程のものだとは思えねーし、あんな、…俺と簡単に寝るのは、…ッ、」
親指で壱木の歯列を割り、舌の感触を確かめた。
「抱いたのか」
「ン、…っ、ぅ、」
苦し気に頷く壱木に目を奪われる。
くわえていた煙草を床に落とし、キスして壱木の下唇を噛んだ。
僅かに切れた粘膜に滲んだ赤を、舌で舐めとる。
「いい度胸してんね」
「…まだ智田くんのもんじゃねーっしょ、俺」
そういえばそうだと思い直し、冷静ではない自分に苦く笑って壱木の頬に口付けた。
「…生でしたの」
「確かに俺は本能に忠実な動物だけど理性もある人間なのよ。ゴムするに決まってンだろ。むしろ生とかありえねーわ。つーか結局どっちよ」
「何が」
「どっちに妬いてんの」
目を細める壱木を抱き寄せる。
「…おれ、」
「え、まさかの自分?」
「おれさ、自分から告ったの初めてなんだよ」
「…っちょ、」
ストールを掻き分け、壱木の耳に舌を差し込んだ。
「つーか決めたの?」
「っなに、を、」
「高間かおれか」
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