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第1章
00話 路有【みちあり】と椿
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西暦1281年 弘安四年
まだ薄暗い早朝。
神社の境内で少年は木刀を振っていた。愚直に無心に同じ型を何度も何度も。
歳は10代前半、ぼさぼさの髪を無造作に縛り、質素な直垂は肌寒い早春であっても汗に濡れている。
少年は毎日ここで剣術の修練をし、日が昇るとどこかへ帰っていく。
そんな日々を毎日飽きる事無く眺めている女がいた。
女は境内にある『船岩』とよばれる岩山の上に立つ椿の古木の精霊。
この神社に祀られる二柱の神が船からこの地に降り立った時も今と変わらず古木の傍らにたたずみ精霊は眺めていた。(その当時、この神社のあった場所は海辺だった)
いつしか、この地に神を祀る神社が建立される。
椿の木は何百年もその寿命が続かない。記憶を思い出を一つの木の実に刻み次代の神木へつないできた。
月日が流れ精霊は八代目。
千六百年の記憶を刻んだ木の実を掌に握り、少年が放つ美しい魂の輝きを熱心に眺めていた。
ある暑い夏の朝、精霊は青年になった男の前に思い切って姿を現した。
精霊は神社に参拝に訪れる娘の身なりをまねた着物を身に着け恐る恐る椀に入った水を差しだした。
青年は突然現れた美しい娘に笑顔で礼を言うと椀を受け取った。
男は通有と名乗る。髪を整え、身なりを整えれば都でも女達の熱い視線に晒されるだろう。
精霊は人間のふりをして「椿」とだけ名乗った。
その日から、通有が稽古を終えるとどこからともなく椿が現れ、たわいのない話をした。
そのひと時が精霊にとって百年の記憶にも匹敵する想いを木の実に刻む出来事だった。
ある朝、通有が戦に行くと思い詰めた表情で椿に語った。
強大な異国の兵がこの国に攻めてきている。何時帰ってこられるか、生きて帰ってこられるかも分からないと。
通有は椿に、戦から帰ってきた時、一緒になってほしいと告げる。
椿は心配しながらも了承する。
出立の日、椿は神木の一枝を手折り、自身の加護と魔力を精一杯込め、通有に手渡す。
受け取った通有は帯にその枝を差し、笑顔で手を振り出陣した。
数か月後、怪我を負いながらも伊予の国に戻ってきた通有は、約束通り椿と夫婦となった。
しかし、それから3年後には、命を削り通有の守護の術に力を使い果たした椿の精霊は本来生きながらえることが出来た時間より50年以上早くこの世から消滅し、次代の精霊に立場を譲ることとなった。
通有との間に生まれた男の子を残して。
まだ薄暗い早朝。
神社の境内で少年は木刀を振っていた。愚直に無心に同じ型を何度も何度も。
歳は10代前半、ぼさぼさの髪を無造作に縛り、質素な直垂は肌寒い早春であっても汗に濡れている。
少年は毎日ここで剣術の修練をし、日が昇るとどこかへ帰っていく。
そんな日々を毎日飽きる事無く眺めている女がいた。
女は境内にある『船岩』とよばれる岩山の上に立つ椿の古木の精霊。
この神社に祀られる二柱の神が船からこの地に降り立った時も今と変わらず古木の傍らにたたずみ精霊は眺めていた。(その当時、この神社のあった場所は海辺だった)
いつしか、この地に神を祀る神社が建立される。
椿の木は何百年もその寿命が続かない。記憶を思い出を一つの木の実に刻み次代の神木へつないできた。
月日が流れ精霊は八代目。
千六百年の記憶を刻んだ木の実を掌に握り、少年が放つ美しい魂の輝きを熱心に眺めていた。
ある暑い夏の朝、精霊は青年になった男の前に思い切って姿を現した。
精霊は神社に参拝に訪れる娘の身なりをまねた着物を身に着け恐る恐る椀に入った水を差しだした。
青年は突然現れた美しい娘に笑顔で礼を言うと椀を受け取った。
男は通有と名乗る。髪を整え、身なりを整えれば都でも女達の熱い視線に晒されるだろう。
精霊は人間のふりをして「椿」とだけ名乗った。
その日から、通有が稽古を終えるとどこからともなく椿が現れ、たわいのない話をした。
そのひと時が精霊にとって百年の記憶にも匹敵する想いを木の実に刻む出来事だった。
ある朝、通有が戦に行くと思い詰めた表情で椿に語った。
強大な異国の兵がこの国に攻めてきている。何時帰ってこられるか、生きて帰ってこられるかも分からないと。
通有は椿に、戦から帰ってきた時、一緒になってほしいと告げる。
椿は心配しながらも了承する。
出立の日、椿は神木の一枝を手折り、自身の加護と魔力を精一杯込め、通有に手渡す。
受け取った通有は帯にその枝を差し、笑顔で手を振り出陣した。
数か月後、怪我を負いながらも伊予の国に戻ってきた通有は、約束通り椿と夫婦となった。
しかし、それから3年後には、命を削り通有の守護の術に力を使い果たした椿の精霊は本来生きながらえることが出来た時間より50年以上早くこの世から消滅し、次代の精霊に立場を譲ることとなった。
通有との間に生まれた男の子を残して。
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