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第1章
20話 仲間
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辺りがもとのように明るくなり、巨大な炎の檻もだんだん消えていく。
「あっちっ! 姉貴ぃ、危うく黒焦げになるところだぜぇ?」
「……我慢しろ。生きてるだけましだ」
白髪の女狐の服は焼け焦げて、ところどころうっすらと煙が上がっている。
白髪の女狐は2本の苦無を白に投げ渡して、自分も苦無に炎を纏わせて空中に並べた。
「1着しかないスーツが台無しだ」
お父さんは、ボヤきながらも、油断なく刀を構えて、鋭い視線を二人の狐に向けている。
私も刀を構えなおして狐達と向かい合う。たけど、お父さんがそばにいる安心感からかさっきまでの不安はないかな?
緊迫した状況。そこへ、後ろから大きな騒ぎ声が聞こえてくる。
「颯馬、颯馬! 早く起きて! あんまりコロコロ気絶してたら気絶癖が付くって師範が言ってたよ!」
五百木さんが河野君の頬をぺちぺち叩きながら文句を言ってる。
「毎日、毎日、僕をコロコロ気絶しとるお前が何言いよんじゃ!」
こめかみ辺りを押さえながら河野君がふらふらと立ち上がろうとしてる。
(二人ってどんな毎日どんな稽古してるんだろう?)
私は二人の稽古風景を想像するが、その思考を振り払う。
後ろに気を取られた私より一瞬早く、お父さんが白髪の女狐に切りかかる。
「……いい腕だ。なぜお前から、娘にお役目が引き継がれた?」
ふわふわと攻撃を躱しつつ、短杖と苦無で火炎の攻撃を次々と放つ。
「それはご先祖様が私より娘の方が強いと判断したからだろ?」
狐火を受け止めるでもなく軌道を変えて、爆発させることなく捌いていくお父さん。
私も、目の前の大きな狐の男の人と対峙する。
「へぇ!なっかなかの闘気だな。楽しませてくれよ!」
私が、あっと思った時には間合いが詰められている。2本の苦無が次々と打ち込まれ、致命傷を防ぐだけで必死。この人狐とスピードでは互角でも力では敵わない。次第に押し込まれてくる。
「ハッハァ! どうした? どんどんアゲてくぜぇ? ついて来いよ!」
この人狐の本当の攻撃スタイルは両手でナイフ持って、体術を加えて戦う『ダブル・ナイフ』。
人狐の言葉通り、もう一段回スピードが上がり蹴りや肘などの体術も組み合わせた攻撃に変わる。 私は必死で苦無を弾き防御に必死。後ろにさがらずにはいられない。
「雪輪!」
お父さんの悲鳴のような声が聞こえる。
(一瞬でもこのラッシュを止められれば……)
完全に人狐は私を少しづつ切り刻みながら遊んでいる。
突然、人狐の横から手裏剣が投げ込まれ注意がそれた隙に、後ろから忍び寄った河野君が木刀を振り下ろした。鈍い音が響き、人狐は意識を失い崩れ落ちる。
「かったい頭じゃ、手が痺れた~」
手をひらひら振り、残心をとる河野君。
「颯馬、止めはうちがやるっていったやん! このセクハラ狐! このっこのっ」
五百木さんは気絶している人狐が持っている苦無を奪い取って、脇腹辺りを蹴っ飛ばしてる……
(人間だったら多分、死んでるよ……、はっ!)
「お父さん!」
慌てて私はお父さんに視線を戻す。
今は勝負は互角。お父さんは魔法を警戒してか? どんどん前に出て行って切り結んでいる。
白髪の女狐も次々と空中に苦無を並べて放つ。
女狐の向う脛あたりから鮮やかな赤い血が流れ出して、ガクンと動きが悪くなる。
「あれは【鎌鼬】?」
よく見れば金茶色の小さなイタチが女狐の足元をジグザグに駆け回っている。
そこに、大きな黒いオオカミが現れて女狐を取り囲んだ。
【雪輪またせたのぉ、道が混んでおっておってなぁ。おおっ! 正信殿ではないかひさしいのぉ!】
ひときわ大きいオオカミ。雨霧さまだ。
「……ここまでか。白! いつまで寝ている?」
両の脛から血を流しながら女は弟を呼ぶ。
時間にしたら多分、1~2秒。この場にいる全員の視線が女狐に注がれた瞬間、緋色の瞳の狐は河野君を蹴り飛ばし五百木さんを殴り倒した。
「お~、イテェ。最近の高校生は容赦がないねぇ!」
白髪の後頭部を撫でながら白は少し離れた場所で文句を言っている。
「コラァ、高校生。お前等のツラァ覚えたからな!」
「白、ここは引くよ」
「分かったよ、姉貴ぃ」
「……だけどこのまま逃げ帰るのも癪だな」
ポケットから小さな小箱を取り出す。
「……生活が懸かってるんでね、契約分は働く」
生活苦しいのかな?と思わせるセリフを呟き、女狐は小箱を雨霧様の足元に投げる。
地面とぶつかった反動で小箱のふたが開き……、無数の小さな蛇が噴き出すように溢れ出してくる。
雨霧様の反応も早い。素早く小箱から離れ牙を打ち合わせて火花を散らすと口から大きな火炎を吐き出す。
雨のように当たり一帯に降り注ぐ蛇に灼熱の炎を浴びせる。炎に触れた蛇たちはジジジッと音を立てて黒い煙を立てる。
だけど……これは?
狙いは雨霧様だけじゃない!一緒に現れた若いオオカミたちもだ!
女狐を取り囲んでいたオオカミたちの群れに蛇が雨のように降り注ぎ艶のある黒い毛並に喰い込んでいく。
オオカミたちは地面を転げまわり牙で爪で体に張り付いた蛭を払い除けようするが、蛇は黒い毛並を食い破り身体に潜り込んでいく。
雨霧様は自分の身体に潜り込もうとする蛇を気にせず、仲間のオオカミの身体についた蛇を噛み潰していく。
蛇に潜り込まれた狼たちは全員、妖気を吸収されて体がグングン縮んでいく!
【お前等、しっかりせい!】
雨霧様は若い狼たちの身体に潜り込んでいく蛇を引きずり出していってる。
狼たちは仔牛ほどあった大きさが今はゴールデンレトリバー位に小さくなっている。
しかし、一番蛇に憑りつかれたのは雨霧様だ。身体の表面についていた何匹もの蛇は雨霧様の身体に潜り込み
今の雨霧様の大きさは半分ほどだ。
「颯馬!」
河野君が弾かれたように飛び出し、ほとんど体の”気”を使い果たしているのに鮮やかな緑の闘気を両手の指先に込めて蛇を掴む。
五百木さんが両手にメタリックな赤い闘気を込めて雨霧様の身体に憑いた蛇を掴む。
「おおおおおぉぉぉっ!」
「このおおおぉぉぉっ!」
二人の叫びが重なって蛇が次々引き抜かれていく。
「だめじゃ 一匹潜り込まれた……」
河野君が呟く。
【こんな術は初めてじゃ――、ぐっ】
雨霧様は自分の身体も顧みず仲間のオオカミたちを助けた。しかし、潜り込まれた蛇に妖気を吸われているのか、妖気がどんどん小さくなっていく。
こんなやり方で雨霧様を救えるのか? 迷っている暇はない。私も指を揃えた抜き手に渾身の闘気を込めて雨霧様の身体に突き刺す。
冷たい鱗の感触、握りしめて一気に抜き取る。手の中で蠢いている蛇を手刀で滅する。
「……妖狐吸血呪」
女狐は赤い唇に微笑みを浮かべながら赤い札を飛ばしてくる。避けられない!
お父さんが私を突き飛ばす。札はお父さんの肩に触れると赤い煙を上げて消えた。
「……ふん、白、仕切り直しだ。帰るよ」
ポケットから煙草を取り出し火をつける。姿も消さずにこちらに背を向けて足を引きずりながら登山道を下っていく白髪の狐。
「咲耶! 近いうちに会いに行くからな? 高校生お前もだぜ?」
姉の後を小走りで追いかける白。
【雪輪! 大丈夫ですか?】
肩に【小町】が飛び降りてくる。
「私は大丈夫」
それより、お父さんが私をかばって受けたあの赤い札は?
「お父さん、大丈夫?」
お父さんを見ると肩に手を立て額から脂汗を流している。
(なにこれ……?)
お父さんの肩は札が当たった所に掌くらいの赤黒い瘤が生き物のように蠢いている。
「雪輪、心配するな。これは狐憑きの一種だ。すぐには死なない」
「すぐにはってホントに大丈夫なの?」
「この感じだとどれくらい生きれるかな? 聞いた話だと3カ月位は生きれるらしいけどね」
「3…カ月? お父さん! 治す方法って……?」
ガンッと頭を殴られたような衝撃だ。お父さんが死んじゃう?
「雪輪、心配するなって。術を解く方法は必ずある。刑部様に聞いたらすぐ分かるよ」
「ホントに?」
「ああ、ホントだ。雪輪、スマンが痛み止めの薬をくれないか?」
慌てて、ポーチからバッファリンの箱を取り出しお父さんに渡した。
「雪輪ちゃん! オオカミさんが苦しそうだよ!」
五百木さんが雨霧様を抱きかかえている。
雨霧様も危ない状態だ。どうしよう?
「君たちは雪輪の友達かい? 雨霧様を救ってくれ。今すぐ雨霧様と契約を結んで”精気”を雨霧様に分けて差し上げてくれ! 我々、人狼は雨霧様を眷属には出来ない」
「それって、どうやって契約すればいいん?」
五百木さんが焦った表情でお父さんに尋ねる。
「雨霧様の真名を聞き、口に自分の血を含ませれば契約できる」
五百木さんは雨霧様の耳元で何度も真名を尋ねる。
何度目かの問いかけの後で弱弱しく雨霧様の口が動く。口に耳をくっつけるように聞き取る五百木さん。
「颯馬、お願い」
眼をそむけ河野君の方に向かって人差し指を立てる五百木さん。
「それぐらい自分でやればええじゃろ」
少し躊躇した河野君が小さな三日月型の闘気を五百木さんの指に飛ばすと、パチンと弾けて赤い水滴が雨霧様の口にぽたりと落ちる。
河野君が【鎌鼬】から塗り薬を受け取り、五百木さんの指先につけてあげてる。契約は成立したはず。
「ありがと」
すごく嬉しそうにお礼を言う五百木さん。
「一つ、お前に言わないかんことがあるんじゃけど」
五百木さんの顔から視線を外して恥ずかしそうに河野君がいう。
「ん、なに?」
「お前、眉毛と前髪がなくなっとる。どうしたんじゃ?」
私も言いにくかったことを……。けど、それは河野君を守ったからだよ。
二人のドタバタも終わり、雨霧様も元気を取り戻しているけど、今の姿はハスキー犬の子犬だ……。
【おお~ 400年程若返ったようじゃわい】
五百木さんの”精気”が流れてくるからだろう、これなら数年で元の雨霧様に戻れるかも。
「お父さん、さっきの女の狐を倒せばお父さんの術は解けるの?」
「100%とは言えないけど、この手の呪術は術者が解呪するか死ぬか、だろうな」
痛み止めが効いたのか普段通りのお父さん。怖くないのかな。
「雪輪ちゃん、なるべくうち等と一緒に居れば、向こうから会いに来るって言ってたやん」
「そうだな、後藤さんは学校も一緒になるし、五百木となるべく一緒に居ればいいよ」
二人ともお父さんからもらったリポビタンD(魔力回復の呪い済み)を飲んで元気を取り戻してる。
「そうですね。お願いします。それと私の事は『雪輪』って呼んでください」
「じゃあ、うちの事は『咲耶』でいいよ。さんとかいらんけん」
「じゃあ、僕は『颯馬』で。どうせ五百木と一緒ならうちの道場にもくるだろうから、師範も僕も河野だから」
年上だけど呼び捨てでいいんだろうか? だけど、『颯馬』……さんは3年生だし。
【咲耶殿、わしは何と呼んでくれるんかのぉ】
金色まん丸の眼で問いかける雨霧様。期待で黒い尻尾をふわふわに膨らませている。
「え~と、雨霧、あめ……、レイン、ミスト、れい、『澪』?」
電撃を受けたような表情の雨霧様。
【レイ、わしが? なんとハイカラな名前じゃ!】
ハイカラってあまり聞かない。だけど、名前は気に入ったらしい。黒い尻尾がせわしなく振られている。
「こいつんとこの川で溺れてたネコは『ポチャ』って名前じゃけん」
「颯馬、うちはこいつじゃないけん、咲耶。仲間みたいでいいやんね、雪輪?」
「仲間みたいじゃないじゃろ、仲間じゃ」
私の腕に鳥肌が立つ。尻尾が膨らむ。耳も意識に反して動いてる。
素直にすっごくうれしいって思う。
「私に力を貸してお願い、私もみんなを助ける」
私にもホントの仲間ができた。
「あっちっ! 姉貴ぃ、危うく黒焦げになるところだぜぇ?」
「……我慢しろ。生きてるだけましだ」
白髪の女狐の服は焼け焦げて、ところどころうっすらと煙が上がっている。
白髪の女狐は2本の苦無を白に投げ渡して、自分も苦無に炎を纏わせて空中に並べた。
「1着しかないスーツが台無しだ」
お父さんは、ボヤきながらも、油断なく刀を構えて、鋭い視線を二人の狐に向けている。
私も刀を構えなおして狐達と向かい合う。たけど、お父さんがそばにいる安心感からかさっきまでの不安はないかな?
緊迫した状況。そこへ、後ろから大きな騒ぎ声が聞こえてくる。
「颯馬、颯馬! 早く起きて! あんまりコロコロ気絶してたら気絶癖が付くって師範が言ってたよ!」
五百木さんが河野君の頬をぺちぺち叩きながら文句を言ってる。
「毎日、毎日、僕をコロコロ気絶しとるお前が何言いよんじゃ!」
こめかみ辺りを押さえながら河野君がふらふらと立ち上がろうとしてる。
(二人ってどんな毎日どんな稽古してるんだろう?)
私は二人の稽古風景を想像するが、その思考を振り払う。
後ろに気を取られた私より一瞬早く、お父さんが白髪の女狐に切りかかる。
「……いい腕だ。なぜお前から、娘にお役目が引き継がれた?」
ふわふわと攻撃を躱しつつ、短杖と苦無で火炎の攻撃を次々と放つ。
「それはご先祖様が私より娘の方が強いと判断したからだろ?」
狐火を受け止めるでもなく軌道を変えて、爆発させることなく捌いていくお父さん。
私も、目の前の大きな狐の男の人と対峙する。
「へぇ!なっかなかの闘気だな。楽しませてくれよ!」
私が、あっと思った時には間合いが詰められている。2本の苦無が次々と打ち込まれ、致命傷を防ぐだけで必死。この人狐とスピードでは互角でも力では敵わない。次第に押し込まれてくる。
「ハッハァ! どうした? どんどんアゲてくぜぇ? ついて来いよ!」
この人狐の本当の攻撃スタイルは両手でナイフ持って、体術を加えて戦う『ダブル・ナイフ』。
人狐の言葉通り、もう一段回スピードが上がり蹴りや肘などの体術も組み合わせた攻撃に変わる。 私は必死で苦無を弾き防御に必死。後ろにさがらずにはいられない。
「雪輪!」
お父さんの悲鳴のような声が聞こえる。
(一瞬でもこのラッシュを止められれば……)
完全に人狐は私を少しづつ切り刻みながら遊んでいる。
突然、人狐の横から手裏剣が投げ込まれ注意がそれた隙に、後ろから忍び寄った河野君が木刀を振り下ろした。鈍い音が響き、人狐は意識を失い崩れ落ちる。
「かったい頭じゃ、手が痺れた~」
手をひらひら振り、残心をとる河野君。
「颯馬、止めはうちがやるっていったやん! このセクハラ狐! このっこのっ」
五百木さんは気絶している人狐が持っている苦無を奪い取って、脇腹辺りを蹴っ飛ばしてる……
(人間だったら多分、死んでるよ……、はっ!)
「お父さん!」
慌てて私はお父さんに視線を戻す。
今は勝負は互角。お父さんは魔法を警戒してか? どんどん前に出て行って切り結んでいる。
白髪の女狐も次々と空中に苦無を並べて放つ。
女狐の向う脛あたりから鮮やかな赤い血が流れ出して、ガクンと動きが悪くなる。
「あれは【鎌鼬】?」
よく見れば金茶色の小さなイタチが女狐の足元をジグザグに駆け回っている。
そこに、大きな黒いオオカミが現れて女狐を取り囲んだ。
【雪輪またせたのぉ、道が混んでおっておってなぁ。おおっ! 正信殿ではないかひさしいのぉ!】
ひときわ大きいオオカミ。雨霧さまだ。
「……ここまでか。白! いつまで寝ている?」
両の脛から血を流しながら女は弟を呼ぶ。
時間にしたら多分、1~2秒。この場にいる全員の視線が女狐に注がれた瞬間、緋色の瞳の狐は河野君を蹴り飛ばし五百木さんを殴り倒した。
「お~、イテェ。最近の高校生は容赦がないねぇ!」
白髪の後頭部を撫でながら白は少し離れた場所で文句を言っている。
「コラァ、高校生。お前等のツラァ覚えたからな!」
「白、ここは引くよ」
「分かったよ、姉貴ぃ」
「……だけどこのまま逃げ帰るのも癪だな」
ポケットから小さな小箱を取り出す。
「……生活が懸かってるんでね、契約分は働く」
生活苦しいのかな?と思わせるセリフを呟き、女狐は小箱を雨霧様の足元に投げる。
地面とぶつかった反動で小箱のふたが開き……、無数の小さな蛇が噴き出すように溢れ出してくる。
雨霧様の反応も早い。素早く小箱から離れ牙を打ち合わせて火花を散らすと口から大きな火炎を吐き出す。
雨のように当たり一帯に降り注ぐ蛇に灼熱の炎を浴びせる。炎に触れた蛇たちはジジジッと音を立てて黒い煙を立てる。
だけど……これは?
狙いは雨霧様だけじゃない!一緒に現れた若いオオカミたちもだ!
女狐を取り囲んでいたオオカミたちの群れに蛇が雨のように降り注ぎ艶のある黒い毛並に喰い込んでいく。
オオカミたちは地面を転げまわり牙で爪で体に張り付いた蛭を払い除けようするが、蛇は黒い毛並を食い破り身体に潜り込んでいく。
雨霧様は自分の身体に潜り込もうとする蛇を気にせず、仲間のオオカミの身体についた蛇を噛み潰していく。
蛇に潜り込まれた狼たちは全員、妖気を吸収されて体がグングン縮んでいく!
【お前等、しっかりせい!】
雨霧様は若い狼たちの身体に潜り込んでいく蛇を引きずり出していってる。
狼たちは仔牛ほどあった大きさが今はゴールデンレトリバー位に小さくなっている。
しかし、一番蛇に憑りつかれたのは雨霧様だ。身体の表面についていた何匹もの蛇は雨霧様の身体に潜り込み
今の雨霧様の大きさは半分ほどだ。
「颯馬!」
河野君が弾かれたように飛び出し、ほとんど体の”気”を使い果たしているのに鮮やかな緑の闘気を両手の指先に込めて蛇を掴む。
五百木さんが両手にメタリックな赤い闘気を込めて雨霧様の身体に憑いた蛇を掴む。
「おおおおおぉぉぉっ!」
「このおおおぉぉぉっ!」
二人の叫びが重なって蛇が次々引き抜かれていく。
「だめじゃ 一匹潜り込まれた……」
河野君が呟く。
【こんな術は初めてじゃ――、ぐっ】
雨霧様は自分の身体も顧みず仲間のオオカミたちを助けた。しかし、潜り込まれた蛇に妖気を吸われているのか、妖気がどんどん小さくなっていく。
こんなやり方で雨霧様を救えるのか? 迷っている暇はない。私も指を揃えた抜き手に渾身の闘気を込めて雨霧様の身体に突き刺す。
冷たい鱗の感触、握りしめて一気に抜き取る。手の中で蠢いている蛇を手刀で滅する。
「……妖狐吸血呪」
女狐は赤い唇に微笑みを浮かべながら赤い札を飛ばしてくる。避けられない!
お父さんが私を突き飛ばす。札はお父さんの肩に触れると赤い煙を上げて消えた。
「……ふん、白、仕切り直しだ。帰るよ」
ポケットから煙草を取り出し火をつける。姿も消さずにこちらに背を向けて足を引きずりながら登山道を下っていく白髪の狐。
「咲耶! 近いうちに会いに行くからな? 高校生お前もだぜ?」
姉の後を小走りで追いかける白。
【雪輪! 大丈夫ですか?】
肩に【小町】が飛び降りてくる。
「私は大丈夫」
それより、お父さんが私をかばって受けたあの赤い札は?
「お父さん、大丈夫?」
お父さんを見ると肩に手を立て額から脂汗を流している。
(なにこれ……?)
お父さんの肩は札が当たった所に掌くらいの赤黒い瘤が生き物のように蠢いている。
「雪輪、心配するな。これは狐憑きの一種だ。すぐには死なない」
「すぐにはってホントに大丈夫なの?」
「この感じだとどれくらい生きれるかな? 聞いた話だと3カ月位は生きれるらしいけどね」
「3…カ月? お父さん! 治す方法って……?」
ガンッと頭を殴られたような衝撃だ。お父さんが死んじゃう?
「雪輪、心配するなって。術を解く方法は必ずある。刑部様に聞いたらすぐ分かるよ」
「ホントに?」
「ああ、ホントだ。雪輪、スマンが痛み止めの薬をくれないか?」
慌てて、ポーチからバッファリンの箱を取り出しお父さんに渡した。
「雪輪ちゃん! オオカミさんが苦しそうだよ!」
五百木さんが雨霧様を抱きかかえている。
雨霧様も危ない状態だ。どうしよう?
「君たちは雪輪の友達かい? 雨霧様を救ってくれ。今すぐ雨霧様と契約を結んで”精気”を雨霧様に分けて差し上げてくれ! 我々、人狼は雨霧様を眷属には出来ない」
「それって、どうやって契約すればいいん?」
五百木さんが焦った表情でお父さんに尋ねる。
「雨霧様の真名を聞き、口に自分の血を含ませれば契約できる」
五百木さんは雨霧様の耳元で何度も真名を尋ねる。
何度目かの問いかけの後で弱弱しく雨霧様の口が動く。口に耳をくっつけるように聞き取る五百木さん。
「颯馬、お願い」
眼をそむけ河野君の方に向かって人差し指を立てる五百木さん。
「それぐらい自分でやればええじゃろ」
少し躊躇した河野君が小さな三日月型の闘気を五百木さんの指に飛ばすと、パチンと弾けて赤い水滴が雨霧様の口にぽたりと落ちる。
河野君が【鎌鼬】から塗り薬を受け取り、五百木さんの指先につけてあげてる。契約は成立したはず。
「ありがと」
すごく嬉しそうにお礼を言う五百木さん。
「一つ、お前に言わないかんことがあるんじゃけど」
五百木さんの顔から視線を外して恥ずかしそうに河野君がいう。
「ん、なに?」
「お前、眉毛と前髪がなくなっとる。どうしたんじゃ?」
私も言いにくかったことを……。けど、それは河野君を守ったからだよ。
二人のドタバタも終わり、雨霧様も元気を取り戻しているけど、今の姿はハスキー犬の子犬だ……。
【おお~ 400年程若返ったようじゃわい】
五百木さんの”精気”が流れてくるからだろう、これなら数年で元の雨霧様に戻れるかも。
「お父さん、さっきの女の狐を倒せばお父さんの術は解けるの?」
「100%とは言えないけど、この手の呪術は術者が解呪するか死ぬか、だろうな」
痛み止めが効いたのか普段通りのお父さん。怖くないのかな。
「雪輪ちゃん、なるべくうち等と一緒に居れば、向こうから会いに来るって言ってたやん」
「そうだな、後藤さんは学校も一緒になるし、五百木となるべく一緒に居ればいいよ」
二人ともお父さんからもらったリポビタンD(魔力回復の呪い済み)を飲んで元気を取り戻してる。
「そうですね。お願いします。それと私の事は『雪輪』って呼んでください」
「じゃあ、うちの事は『咲耶』でいいよ。さんとかいらんけん」
「じゃあ、僕は『颯馬』で。どうせ五百木と一緒ならうちの道場にもくるだろうから、師範も僕も河野だから」
年上だけど呼び捨てでいいんだろうか? だけど、『颯馬』……さんは3年生だし。
【咲耶殿、わしは何と呼んでくれるんかのぉ】
金色まん丸の眼で問いかける雨霧様。期待で黒い尻尾をふわふわに膨らませている。
「え~と、雨霧、あめ……、レイン、ミスト、れい、『澪』?」
電撃を受けたような表情の雨霧様。
【レイ、わしが? なんとハイカラな名前じゃ!】
ハイカラってあまり聞かない。だけど、名前は気に入ったらしい。黒い尻尾がせわしなく振られている。
「こいつんとこの川で溺れてたネコは『ポチャ』って名前じゃけん」
「颯馬、うちはこいつじゃないけん、咲耶。仲間みたいでいいやんね、雪輪?」
「仲間みたいじゃないじゃろ、仲間じゃ」
私の腕に鳥肌が立つ。尻尾が膨らむ。耳も意識に反して動いてる。
素直にすっごくうれしいって思う。
「私に力を貸してお願い、私もみんなを助ける」
私にもホントの仲間ができた。
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