127柱目の人柱

ど三一

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屋敷編

御蔭の懸念

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主様は御蔭を部屋に呼び、学舎の件についての話を切り出した。ナジュと文の遣り取りを始めて2週ほど経過した、とある快晴の日であった。

(推薦状が必要だと言っていたな)
「はい」
(どのように書けばいい…?)
「!……主様、宜しいので?」

御蔭の知る所では、主様はナジュが神様になる事も学舎行きにも、好意的ではなかったはず。何か心境の変化があったのか、御蔭はそれを知らねばならない。

(ああ、既に許すと言ってしまったからな…惜しむ気持ちはあるが、それがナジュの心からの望みであれば手助けしてやらねば。それに神候補となってもまだ私の愛しい者だ。離れていても…ゆっくりとだが、仲を深める事はできるような気がした。だから、書く決心がついた)
「…左様でしたか。では、直ぐにご用意いたします」

御蔭の内心は穏やかでない。主様とナジュの間に何か絆を深める出来事があったのか?と主様の様子を思い出す。

(最近何度か本匠を見るが…それと新入りの使用人。新入りが主様の居所に出入りするのは異例……本匠も既知の上、主様が許可しているからこちらでは何も言えん。気が乗らんが、後程稲葉に探りを入れてみるか)
「こちらに推薦状と記していただき、それから…」

主様の推薦状を手に入れた御蔭はさっそくに学舎に届けるよう使いをやった。


学舎では、競合する座の神様候補の選定が行われていた。神様候補達を指導する知恵者の他、神様も円卓に座り、1人ずつ協議する。何十もの選定を終えて、神様の合図で一時休憩の号令がされると、円卓に座っていた知恵者達は一斉に立ち上がり、会議部屋からまた1人また1人と出て行く。その場に残ったのは神様と長年学者に招かれている4人の知恵者。

「今年は殊更希望者が多いなぁ~…。骨が折れる事」
「仕方あるまいよ、まさか金竜様が引退されるとは思わなかった。突然の宣言であったからこそ、誰彼かまわず飛びついたのだ。金竜様は配下の雷蔵という者を推薦されているよ」
「噂は?」
「いや全く。神様以外で噂に上がる者など、最近は本匠位のものだろう。確か現在は双面の龍神様に仕えていると聞いたが」
「本匠ォ……♡」

神様が本匠の名を聞いて、うっとりとその姿を思い浮かべる。

「我が配下にならないかと折を見て誘っておるのに、双面殿の命令ならばとツレナイ返事ばかりの憎き者め…♡いずれあの凛とした唇を私に向け、主様と呼ばせてくれる……!」

知恵者の中の2人が神様を見てこそこそと話す。

「なあ…何で本匠殿の話になるとなっちゃうんだ?他の神様もだろう?」
「わからん…確かに得難い人物ではあるが…。ご自身の愛妾よりも甘やかな恋心を持っていそうだ…気色の悪い…」

1人で盛り上がっている神様を置いて、他三人は若干の距離を取る。その神様を諌める役割は、本来なら別の神様に頼んでいるのだが、休憩となって出て行ってしまった。そうなれば、神様の本匠談義が始まるのを止める者は居ない。

「しかし、驚いた事と言えばもう一つ。空座の希望者が2人、少ないながらも競合とは」
「しかも、かの双面様の御手付きに、金竜様の御手付きとは…!これは学舎に花が咲きますな」
「金竜様は御手付きから配下に戻されたそうで…」
「……楽しみな事だ」

知恵者の1人は、呪いを使って希望者の姿を紙に念写する。勉強している様子のナジュの姿を見て笑みを深めた。
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