127柱目の人柱

ど三一

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屋敷編

踊る重鎮

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酒乱達が踊り狂う騒がしい程の盛り上がりは、当然反対側の席の面々にも聞こえていた。重鎮達は、その踊りの中心で相変わらずの不思議な動きをしている同僚を呆れた目で見る。何度飲みすぎるなと言っても、隣に主様が居たとしても、ただでさえ少ない許容量を大幅に超えて酒を飲み、あのような形容しがたい踊りに辿り着く。最終的には寝転がって大の字になり、それを部屋まで運ぶのは重鎮達の役目である。出来るなら早めに眠ってくれと願うその横で、ナジュが主様を連れ立ち上がった。

「股右衛門が宴で踊るって張り切っていたからな、一回近くで見に行ってやらないと」
「……」―ナジュも踊るのか?

主様は内心期待していた。もしナジュが重鎮の様な摩訶不思議な踊りを披露したのなら流石に困惑するが、それ以外ならば素人踊りであっても愛らしく華がある。主様にとっては白拍子もかくやの舞となるだろう。しかし、期待は儚くも打ち砕かれる。

「俺は踊らないぞ。得意じゃないんだ」
「……」―そうか

少しがっかりとしながらナジュの後ろを着いて行く。使用人達は主様が通ると慌てて平伏しようとするので、“気にしなくていい”と書いた紙を見せると、軽く会釈をして再び楽しげに飲み食いを再開した。

「股右衛門はどこだ?」
(髪飾りが可愛い…それに頬も少し赤くなって……)

踊り好きの酒乱達の中から股右衛門を探すナジュ。その様子や装いを見て、また一つ胸を高鳴らせる主様は、そっとナジュの着物の端を掴み、己の愛しい人だと密かに主張する。仲睦まじく手を繋いで、が理想であったが、この些細な接触も今の2人の距離感には丁度いい。

(着物が似合ってると言っていいだろうか…?髪飾りも…。可愛いと言われるのはあまり好きではなさそうだと瓜絵が話していたからな…。でも可愛い…)

主様は葛藤する。可愛いと思ったのが正直な気持ちなのだが、それを伝えてはナジュが嫌悪しそうである。

(似合っている、と伝えるだけでよいのか…?美丈夫…ではあるが、男らしい姿かといわれれば違うと言えるが……。男前…ううん……美人…嫌がりそうだ……こんなに褒め言葉に悩むのは初めてだ……正直な気持ちで褒め言葉を伝える事と、相手の喜ぶ褒め言葉とは両立しない事もあるのだな…)

悩める主様とナジュは、酒乱達を囲む見物人達の輪の後ろで立ち止まった。

「あっいたいた!」
(ん?)

ナジュは股右衛門を見つけたようで、その場に腰を下ろした。ナジュの着物の端を掴んでいた主様も同様に座る。股右衛門はまだサラシと股引きを身に着けており、逆立ちしたり飛び跳ねて一回転して見せたりと自由に楽しく踊っている。周りの歓声と共にナジュと主様も手を叩く。ナジュは楽しそうに笑い声を上げており、主様はその横顔を見てやはり可愛いと思ってしまうのだった。

「ん、何だありゃ?」

ナジュに見惚れていると、笑顔が一転して怪訝な表情に変わった。折角の貴重な笑顔が!と悲しげに俯く主様の前に1人の踊り手が仁王立ちする。自身に影が掛かったのを見て主様は顔を上げた。

「無礼講の舞ィ~~!」
「ッ!?」(ま、まずいっ!?)

主様は慌てて口を塞いだ。重鎮は態々主様の前に来て、面妖な踊りを開始する。ナジュは信じられないものを見たかのように口をあんぐりと開け、可笑しな踊りから目を離せない。

「ああっ主様があんな所に!しかもあやつが目の前で踊っている!」

主様の前で舞を披露している重鎮を見つけた仲間達は、急いでその場所に掛けつけて重鎮を取り押さえる。主様は顔が床の正面となるほどの前傾になり、ふるふると震えながらこぼれそうになる笑いを必死に抑えている。

(え…この踊りも随分だが……こいつも何してんだ…?)

ナジュはびくびくと震える主様を見て困惑していた。
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