127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

学舎へ

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神様に成る為、主様の屋敷を出発したナジュは、二日掛けて幾つかの町を通り、山を二つほど超えた。道中険しい道もあったが、主様の呪いが掛かった牛車は、それを苦にせず悠々と進み、周りに同じような牛車が増え始めた頃、股右衛門の声が掛かった。

「ナジュ、目的地が見えて来たぞ」
「どこだ?」

股右衛門は前方を指差し、ナジュは御簾から身を乗り出してその方を見る。主様の屋敷とは趣が違う建築物で、朱色の屋根が目を惹いた。ナジュはようやく目的地である学舎を目にして、いよいよこれからだと身が引き締まる思いがする。

「この大通りを真っ直ぐ進めばいいみたいだな。門の所で何か確認して…牛車はそのまま通行していいわけか。荷物も運ばなきゃならねえし」
「俺歩いて行ってもいいぞ。荷物も少ないし」
「馬鹿、ちゃんと宿舎まで送ってやるよ。…別嬪が居ないか物色もしてぇしな!」
「こんな真昼間からお前は……ったく」

ナジュは葛籠を開けて、学舎から送られてきた文を取り出した。正式に入学を許可するという通知を門番に見せるようにと案内に書かれていた。

「おおっあそこの御者、中々男前でいいじゃねえか!ナジュ、見て見ろよ」
「俺は別に興味ない」
「いいからいいからっ!お前を送った後に声かけてみるかな~……おっあそこに歩いてるのも中々可愛いなぁ!」
「頼むからは前だけは見ていてくれよ…」

ナジュは御簾の隙間から同じ方向に向かう牛車を見た。この牛車の側面には、主様である双面忌福の君の紋様が描かれている。主様の居所の天井画に居る二匹の龍を簡略化して、円に収まるように描いたものだ。そのような紋のある牛車がちらほらと見える。ナジュは適当に近くを通っていた豪奢な牛車を指差して股右衛門に聞く。

「なあ、あの印は何処の誰のだ?」
「あの派手な牛車か?ありゃあ……金竜様の御車だな。紋っていうより…あの派手な金色は中々お目に掛かれねえ。派手好きとして知られている金竜様は、御車だけじゃなく屋敷も金金って噂で、これこそ天上界っていう奴もいるとか」
「うっ光が反射して眩しいな…」
「今回座から退かれるってことで、かなり話題になってるみたいだ。神様候補の選抜が遅れたのも、金竜様の座に希望者が集まり過ぎたからって話だぜ。あの金竜御車に乗れるって事は、直属の配下だろう」
「あの牛車は?」
「あれは、西方の…」

ナジュが牛車について股右衛門と話している最中、他の牛車に乗る神様候補や、学舎へと続く道を歩く神様候補達が、双面忌福の龍神様の紋様のついたナジュの牛車を気にしていた。

―もしや、あれが双面様の?
―御手付き様を会合に帯同されたと聞いたが、真の事であったか。成程、納得の美形…。
―蓮の池で指差しされたとか…我が主様が哀れな躯から麗しい珠玉に変わったのを見て、口惜しいと嘆いていたな…。
―愛らしい…あの方と親しくできたなら……。どうか宿舎で同部屋に…!
―呪いを掛けられている気配がする……あの気は……金竜様?牛車の紋様からして、あの者は双面の君の配下の筈…?

周囲の様々な思いが混じった視線に気付かず、ナジュの乗る牛車は漸く門番の立つ場所に辿り着いた。
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