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学舎編 一
雁尾と愉快な手下達
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「やれやれ、久しぶりに細かい作業をしたなあ。皆喜んでいるようで、ま…良かったかな」
茂籠茶老に手招きされ師達の座る席まで呼ばれた雁尾は、遅れて参加した事に対し叱責を受けるのではないかと警戒した。しかし茂籠茶老が掛けた言葉に、遅参に関する事はなかった。ただ一方的に褒められて雁尾は神様候補として学舎で学んだ日々を思い出して何だか胸の内がむず痒くなり、逃げるように席に帰ってきた。
「さて…手下達はどのようなひょうかを得ているのか…」
二人の元に近付いて見ると、皿の上には何もなく、意気消沈した様子で氷菓を手に持ってもそもそと口にしていた。雁尾の想像では、手下二人がわいわいと賑やかにして、氷菓の美しさを称えながら舌鼓を打っている筈であった。もしかしたら雁尾の姿を目にした途端すごいすごいと持て囃してくるかもしれないとまで思っていた。雁尾が着席しても手下二人は俯いたままで、一切反応が無いのは最も面白くない展開である。
「手下達、その手に持つ素晴らしい氷菓の仕上げをしたこの私が戻ったよ。労いの言葉を掛けて然るべきじゃないかい?ねえ」
「……」
「……」
雁尾は手下二人ナジュと桃栗の頬を突く。最初は優しくつついていたが余りに反応が無い為、指の第一関節までがめり込む程突くと、二人は口に含んでいた氷菓をブッと吹いて咳き込んだ。
「はしたないなぁ…何をそんなに拗ねているんだい。気に入らぬことがあると黙るのは子どもみたいだよ?」
「気に入らねえ事があるとすぐ手を出すのも子どもだろうが!」
「痛い…絶対爪の跡ほっぺに残ってるよ…」
二人が机にぶちまけた氷菓だったものを拭いている時もむすっとした様子だった。雁尾はしつこく二人の頬を突きながら何があったのか聞いた。正しくは凍らせると脅して聞きだした。
「俺達の氷菓…他の奴らみたいに恰好よくなかった…」
ナジュがぽつりと零した拗ねいてる理由に、雁尾は笑いそうになったが我慢して、もう少し先を聞いてみる事にした。
「格好いいのが良かったんだ?」
「僕だって別にこれじゃなきゃ駄目とかじゃないけどさあ…でもあれはないじゃん…」
「プ……何、オオサンショウウオとかツチノコでも出たのかい?あくまで……フフ…給仕の…印象…だから……」
「後者は知らないけれど、まだそっちの方かまだマシだよ…」
「生き物なだけな…」
ナジュと桃栗の言葉に首を傾げる雁尾。給仕達には動物や伝説上の生き物を中心に想像するように指示していた。全てを確認してはいないが、粗方生き物が再現されていたと思う。二人の皿には何が乗っていたのか、それを確かめる為に再び力を使う。雁尾は二人の皿に手をかざすと、自分の掛けた呪いの痕跡を読み取る。その最中、皿から手に向かって氷の結晶が浮かび、青白い光を纏ってキラキラと輝いている。問題なく呪いは機能している事を確認した雁尾は、次に肝心の氷菓の形を読み取る。
(生き物にしては生成時間が短い…もっと単純な造形をしている……?)
雁尾の脳内に生成された氷菓の情報が届く。ぼんやりとしていた形がやけに直線的となり、土台分の生成が終わり、これからさらに変化が起こるのかと思いきや、そこで完成した。
「えっなにこれ…椅子…?」
皿に手をかざして訝しげに呟いた雁尾。その眉間には皺が寄り、何故と顔に書いてある。その後雁尾に事情を説明させられ、顛末を聞いた彼は珍しく腹を抱えて大笑いをした。理由は知らないが楽しそうな雁尾の様子を茂籠茶老が遠目に見て、ほっこり微笑ましい気持ちになっていた。
茂籠茶老に手招きされ師達の座る席まで呼ばれた雁尾は、遅れて参加した事に対し叱責を受けるのではないかと警戒した。しかし茂籠茶老が掛けた言葉に、遅参に関する事はなかった。ただ一方的に褒められて雁尾は神様候補として学舎で学んだ日々を思い出して何だか胸の内がむず痒くなり、逃げるように席に帰ってきた。
「さて…手下達はどのようなひょうかを得ているのか…」
二人の元に近付いて見ると、皿の上には何もなく、意気消沈した様子で氷菓を手に持ってもそもそと口にしていた。雁尾の想像では、手下二人がわいわいと賑やかにして、氷菓の美しさを称えながら舌鼓を打っている筈であった。もしかしたら雁尾の姿を目にした途端すごいすごいと持て囃してくるかもしれないとまで思っていた。雁尾が着席しても手下二人は俯いたままで、一切反応が無いのは最も面白くない展開である。
「手下達、その手に持つ素晴らしい氷菓の仕上げをしたこの私が戻ったよ。労いの言葉を掛けて然るべきじゃないかい?ねえ」
「……」
「……」
雁尾は手下二人ナジュと桃栗の頬を突く。最初は優しくつついていたが余りに反応が無い為、指の第一関節までがめり込む程突くと、二人は口に含んでいた氷菓をブッと吹いて咳き込んだ。
「はしたないなぁ…何をそんなに拗ねているんだい。気に入らぬことがあると黙るのは子どもみたいだよ?」
「気に入らねえ事があるとすぐ手を出すのも子どもだろうが!」
「痛い…絶対爪の跡ほっぺに残ってるよ…」
二人が机にぶちまけた氷菓だったものを拭いている時もむすっとした様子だった。雁尾はしつこく二人の頬を突きながら何があったのか聞いた。正しくは凍らせると脅して聞きだした。
「俺達の氷菓…他の奴らみたいに恰好よくなかった…」
ナジュがぽつりと零した拗ねいてる理由に、雁尾は笑いそうになったが我慢して、もう少し先を聞いてみる事にした。
「格好いいのが良かったんだ?」
「僕だって別にこれじゃなきゃ駄目とかじゃないけどさあ…でもあれはないじゃん…」
「プ……何、オオサンショウウオとかツチノコでも出たのかい?あくまで……フフ…給仕の…印象…だから……」
「後者は知らないけれど、まだそっちの方かまだマシだよ…」
「生き物なだけな…」
ナジュと桃栗の言葉に首を傾げる雁尾。給仕達には動物や伝説上の生き物を中心に想像するように指示していた。全てを確認してはいないが、粗方生き物が再現されていたと思う。二人の皿には何が乗っていたのか、それを確かめる為に再び力を使う。雁尾は二人の皿に手をかざすと、自分の掛けた呪いの痕跡を読み取る。その最中、皿から手に向かって氷の結晶が浮かび、青白い光を纏ってキラキラと輝いている。問題なく呪いは機能している事を確認した雁尾は、次に肝心の氷菓の形を読み取る。
(生き物にしては生成時間が短い…もっと単純な造形をしている……?)
雁尾の脳内に生成された氷菓の情報が届く。ぼんやりとしていた形がやけに直線的となり、土台分の生成が終わり、これからさらに変化が起こるのかと思いきや、そこで完成した。
「えっなにこれ…椅子…?」
皿に手をかざして訝しげに呟いた雁尾。その眉間には皺が寄り、何故と顔に書いてある。その後雁尾に事情を説明させられ、顛末を聞いた彼は珍しく腹を抱えて大笑いをした。理由は知らないが楽しそうな雁尾の様子を茂籠茶老が遠目に見て、ほっこり微笑ましい気持ちになっていた。
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