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学舎編 一
”空座”
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ナジュは大広間に入ってくる神様候補を気にしながら、目を付けた席に静かに座った。暫く隣の者を警戒して前だけを向いていたが、咎められるでもなく声を掛けられるでもないので、ひとまず安心できそうだと思い隣を横目でチラッと見た。
「た、他夏…!?」
「……」
その区画、二席の内の一席に座っていたのは他夏であった。ナジュが自身の名を口に出しても一切反応を見せず、前に座る神様候補の頭をぼんやり見ている。昨日話そうとしていた胸飾りの件は、雷蔵に手伝いをしろと言いつけてあるが、ナジュにとっての元凶である他夏本人に恨み言を言わなければ気が済まない部分もある。しかしこの場は一目があり、これから学舎での講義が始まる初日という大切な場である。麒麟にも目を付けられている為早々に揉め事を起こすのは得策ではないだろう。ナジュはぐっと我慢して前を向いた。決まった刻限になると大広間の扉が閉められて、学舎の関係者達が机に置かれた冊子を盆の上に載せ始める。
「これより、本日以降の講義についての説明をする!」
神様候補達の前で仁王立ちしていた師の一人が、声を張り上げて背後手を挙げて合図をすると、部下達が盆を持って一斉に散らばった。まず一番多くの部下が向かったのは雷座。その列の担当が、神様候補一人ひとりに冊子を手渡ししている。他の競合が少ない座は一人が複数を担当しているようで、ナジュは一番最後に冊子を手にした。
(渡されて受け取ったが…見た所他の奴と表紙の色と書いてある文字が違うんだよな……。多分、座ごとに内容が違うんだろうが……俺のこれでいいのか……!?)
ナジュは冊子を大切に抱えながら周囲を見渡してみた。皆自分が手にした冊子を開いて中を確認している様子で、その中にナジュと同じように顔を上げてきょろきょろとしている者は居ない。
(近くにいる部下達に話しかけている奴は居ない……自分の貰ったのが違うと言い出しそうな気配のある奴もなし……皆冊子を呼んでるな…隣のこいつ以外……。じゃあ俺の勘はあっていたって事か?席に空きは無いもんな……)
ナジュはほっとして自分も他の神様候補と同じように冊子を眺めてみる。表紙には題名が記されており、そこには“空座”と書かれていた。
「空座?空座って、今現在は座に誰も居ないって意味だよな?うん…?」
ナジュが首を傾げていると、前に立った師が講義の基本的な日程について説明を始めた。それは大凡この冊子に記されている通りで、冊子の前半部分はどの座も共通のようであった。
「…術、呪法の講義は各々の素養も関係してくる為、検分を経てから特別に組み分けをする。既に高度な術を扱える者はより術を洗練させ、素養の少なき者、今まで術を扱った事のない者は基本的な知識を身に着けた後術の習得に入る。そして、素養の検分についてだが、諸君らの持つ冊子の一枚目に紙片が貼り付けられている」
その言葉に皆一斉に紙片を探しに表紙に戻る。紙片は表紙の裏に貼り付けられており、手に取ると抵抗も無くするりと取れた。
「その紙片に三度息を吹きかけよ。さすれば文字が浮かび上がり、真白から色が変化する。それが組み分けだ。冊子の中に組み分けの項目があるのでそちらを参照する事。後日の講義の際、各自その紙片を持って各々指定された場所に集合するように」
師の説明が一旦区切られると、神様候補達は手に持った紙片に静かに息を吹きかける。変化にそう時間はかからないようで、周囲の者と自分はこれだ、こっちはこうなったと見せ合っている所もあるようだ。他夏は相変わらずぼんやりして興味がないのか夢見心地なのか。ナジュも紙片を目の高さに持ってきて、口を軽く窄めてふう~…と温かい吐息を吹きかけた。
「た、他夏…!?」
「……」
その区画、二席の内の一席に座っていたのは他夏であった。ナジュが自身の名を口に出しても一切反応を見せず、前に座る神様候補の頭をぼんやり見ている。昨日話そうとしていた胸飾りの件は、雷蔵に手伝いをしろと言いつけてあるが、ナジュにとっての元凶である他夏本人に恨み言を言わなければ気が済まない部分もある。しかしこの場は一目があり、これから学舎での講義が始まる初日という大切な場である。麒麟にも目を付けられている為早々に揉め事を起こすのは得策ではないだろう。ナジュはぐっと我慢して前を向いた。決まった刻限になると大広間の扉が閉められて、学舎の関係者達が机に置かれた冊子を盆の上に載せ始める。
「これより、本日以降の講義についての説明をする!」
神様候補達の前で仁王立ちしていた師の一人が、声を張り上げて背後手を挙げて合図をすると、部下達が盆を持って一斉に散らばった。まず一番多くの部下が向かったのは雷座。その列の担当が、神様候補一人ひとりに冊子を手渡ししている。他の競合が少ない座は一人が複数を担当しているようで、ナジュは一番最後に冊子を手にした。
(渡されて受け取ったが…見た所他の奴と表紙の色と書いてある文字が違うんだよな……。多分、座ごとに内容が違うんだろうが……俺のこれでいいのか……!?)
ナジュは冊子を大切に抱えながら周囲を見渡してみた。皆自分が手にした冊子を開いて中を確認している様子で、その中にナジュと同じように顔を上げてきょろきょろとしている者は居ない。
(近くにいる部下達に話しかけている奴は居ない……自分の貰ったのが違うと言い出しそうな気配のある奴もなし……皆冊子を呼んでるな…隣のこいつ以外……。じゃあ俺の勘はあっていたって事か?席に空きは無いもんな……)
ナジュはほっとして自分も他の神様候補と同じように冊子を眺めてみる。表紙には題名が記されており、そこには“空座”と書かれていた。
「空座?空座って、今現在は座に誰も居ないって意味だよな?うん…?」
ナジュが首を傾げていると、前に立った師が講義の基本的な日程について説明を始めた。それは大凡この冊子に記されている通りで、冊子の前半部分はどの座も共通のようであった。
「…術、呪法の講義は各々の素養も関係してくる為、検分を経てから特別に組み分けをする。既に高度な術を扱える者はより術を洗練させ、素養の少なき者、今まで術を扱った事のない者は基本的な知識を身に着けた後術の習得に入る。そして、素養の検分についてだが、諸君らの持つ冊子の一枚目に紙片が貼り付けられている」
その言葉に皆一斉に紙片を探しに表紙に戻る。紙片は表紙の裏に貼り付けられており、手に取ると抵抗も無くするりと取れた。
「その紙片に三度息を吹きかけよ。さすれば文字が浮かび上がり、真白から色が変化する。それが組み分けだ。冊子の中に組み分けの項目があるのでそちらを参照する事。後日の講義の際、各自その紙片を持って各々指定された場所に集合するように」
師の説明が一旦区切られると、神様候補達は手に持った紙片に静かに息を吹きかける。変化にそう時間はかからないようで、周囲の者と自分はこれだ、こっちはこうなったと見せ合っている所もあるようだ。他夏は相変わらずぼんやりして興味がないのか夢見心地なのか。ナジュも紙片を目の高さに持ってきて、口を軽く窄めてふう~…と温かい吐息を吹きかけた。
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