127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

二人の協定

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化物、雷蔵は己の主様をそう評した。激励会での金竜の振る舞いは、遥か高みにて見下ろす者のきまぐれであり、己への憧れを告げる神様候補一人の命など取るに足らないもの。何処に行くも、誰を愛でるも、それを咎める者は滅してしまえばいい。そのような横暴を許される理由は、偏に金竜及び座す神々が破格の化物だからである。故に力ある座を求めて人々が群がり、神様候補となれなくとも直に座を狙う者が後を絶たない。

「俺も何度か主様の座を狙う刺客と殺り合った事がある。呪いを飛ばされるのなんか日常茶飯事。…気楽に生きたいなら神様になんて成らずに、田舎でのんびり暮らした方がいい」
「でも、お前もあいつらも雷座になりたいんだろ?」
「…そうだな、成りたい」

雷蔵は背負われて少々乱れた他夏の衣服を直してやると、ふうと小さくため息を吐いてナジュに向き直る。

「暫く他夏を頼む」
「はあ!?」

ナジュは柱に寄りかかっていたが、雷蔵の言葉を聞いて前のめりになった。その反応は想定内なのか、雷蔵は冷静に続きを話す。

「知っての通り、俺は雷座、他夏とお前は空座の神様候補だ。集合場所は近いが、ずっと側についてる訳にもいかねえ。手っ取り早く分身でもできりゃいいが、そんな術は俺には使えん、だから同じ空座のお前が他夏を助けてやってくれ」
「おいっ俺はそいつにおかしなモン着けられて困ってるっていうのに、面倒まで看なきゃいけねえのかよ!?しかも俺達競合同士だぞ!?」
「わかってる。だが、お前は俺に飾りを外す方法が無いか探すのを手伝えと言っただろう?俺一人でもそれなりには調べられるが、その髪飾りについて一番知ってるのは今の所他夏だ。その他夏が神様候補として不適格だと師達に判断されて、この学舎から居なくなるような事があれば、手がかりが一つ遠方に消えるわけだ」
「くうっ…!」

雷蔵の話はあくまで可能性。早い段階で不適格と判断されても、学舎で神様候補として学ぶ許可が取り消されるのかどうかはナジュにも雷蔵にもわからない。それを決めるのは茂籠茶老や他の師達であるからだ。雷蔵は今、その場しのぎの話でナジュを丸め込もうとしている。

「俺にとっては、他夏が主様の屋敷に帰された方が都合がいい。俺は雷座を得るのに集中できるし、きまぐれな主様とはいえ他夏は元御手付き様だからな。屋敷に居れば、誰かしら面倒を看る使用人をつけてくれるだろう。……まあ、他夏が空座に就いて良い事があるならここに居てくれていいんだが」

大広間への人の出入りが少なくなってきた。そろそろ集合の刻限が来るのだろう。雷蔵は、ナジュの肩にトンと手を置いて、再び他夏の件を念押しする。

「お前にとっちゃあ、他夏がここに居た方がいいのがわかっただろ?飾りの件は手伝う事を約束するから、お前はその代わりに他夏を少しだけ看てくれるだけでいい」
「…足元みやがって」
「お前、そんなに悪い奴じゃなさそうだから他夏を任せても良さそうだと思ったんだ。頼んだぜ、

最後に不貞腐れるナジュの肩をぎゅっと握って、雷蔵は大広間に入って行った。残されたナジュは、どこかにふらふらと歩いて行きそうな他夏の着物の裾を仕方なく握って溜め息を吐いた。
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