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学舎編 一
目撃するナジュ
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【ウタラ】の術が掛けられた文が遥か彼方へ飛んでいくのを見届けたナジュは、帰ってまた勉強の続きをしようと思い、宿舎近くの庭から自分に与えられた部屋に帰るため踵を返した。すると、先程まで誰も居なかったのだが、壁際に設けられた小庭の中にある紅葉に似た低木の側に、いつの間にか誰かが立っているのに気が付いた。見た所一人のようだが、何かぶつぶつと話している声が聞こえる。ナジュは宿舎の出入り口がある方に歩きながらその人物の側を通ると、話している内容が少しだけ聞こえた。
「うん…、……に丁度……そうな木はこれくらいか…」
(何をしてるんだろう…?一人でぶつぶつとしゃべりながら木を触ってる…?)
ナジュは不思議に思いつつも、なんとなく足音を立てないようにして宿舎へ戻った。後ろ姿ばかりでその人物の顔は見えなかったが、神様候補の支給服を着用していたので同じ学舎に通う身分の者だという事はわかった。花木を愛でているようには思えなかったが特に気にする事でもないとその件はすぐに忘れ、瓜絵に勧められて学舎に来た時から書き始めた日誌を開いた。
(今日は他に書くことが沢山あるからな。【ウタラ】や号左師や……一応他夏の奴の事も書いておくか…あと雷蔵に世話を頼まれた事と……あっ昼餉の“天どん”が美味かったな。天……“どん”は真ん中に点が要るんだっけ?要らないんだっけ?)
部屋で少し時間を過ごし、それから飯処に移動して夕餉を終えた帰り、竹筒に給水しようと一階の給水湯場に立ち寄ると、思いがけない光景に出くわした。暖簾を潜ろうと手で布を除けた隙間から二人の神様候補の姿が見え、しかもその二人は互いを貪り合っている最中であった。
(おっ取り込み中だったか)
一瞬驚いたものの、故郷では開放的な性の場面に遭遇する事はままあったので、声を上げて二人の逢瀬に水を差すようなことはしなかった。耳を澄まさずとも聞こえる唇を合わせ舌が絡み合う湿った音に、どうやら暫くこの場所から離れる気配はなさそうだと判断したナジュは、そっと暖簾を戻して大人しく自分の部屋のある三階の水汲み場に移動しようと決めた。ナジュは一切邪魔する気は無かったのだが、二人の内の片方、ナジュが居る方に正面が向いている神様候補が、接吻の最中に出入り口である暖簾の方を確かめるようにチラと蕩けた視線を向けた。その時、ナジュとその神様候補は確実に目が合った。
(あ、まずい。俺は消えるから遠慮せず続けろ、続けろ)
そう伝えようと手を払うようにして見せるも、目の合った神様候補は「うわあっ」と声を上げてもう片方の神様候補から素早く離れると、顔を袖で隠しながらさらに素早くナジュの横を通って何処かへ行ってしまった。ナジュはやってしまったかと頭を掻きながら、残っている神様候補に声を掛けた。
「すまん。まさかここで逢瀬してるとは思わなくてな。あの、行っちまった奴…俺と目が合わなきゃ逃げなかっただろうからさ。あんまり気にするなよ」
「ふふ…後々埋め合わせをしっかりと、こってりといたしますので……。でも、口寂しさが堪えそうですね……どなたか探さないと…」
そう言って振り返ったのは、唐梳の側近オウソウであった。彼は接吻の熱が残った赤く色付く唇を一舐めして、にんまりと笑みを作りながらナジュの方に歩み寄って行った。
「うん…、……に丁度……そうな木はこれくらいか…」
(何をしてるんだろう…?一人でぶつぶつとしゃべりながら木を触ってる…?)
ナジュは不思議に思いつつも、なんとなく足音を立てないようにして宿舎へ戻った。後ろ姿ばかりでその人物の顔は見えなかったが、神様候補の支給服を着用していたので同じ学舎に通う身分の者だという事はわかった。花木を愛でているようには思えなかったが特に気にする事でもないとその件はすぐに忘れ、瓜絵に勧められて学舎に来た時から書き始めた日誌を開いた。
(今日は他に書くことが沢山あるからな。【ウタラ】や号左師や……一応他夏の奴の事も書いておくか…あと雷蔵に世話を頼まれた事と……あっ昼餉の“天どん”が美味かったな。天……“どん”は真ん中に点が要るんだっけ?要らないんだっけ?)
部屋で少し時間を過ごし、それから飯処に移動して夕餉を終えた帰り、竹筒に給水しようと一階の給水湯場に立ち寄ると、思いがけない光景に出くわした。暖簾を潜ろうと手で布を除けた隙間から二人の神様候補の姿が見え、しかもその二人は互いを貪り合っている最中であった。
(おっ取り込み中だったか)
一瞬驚いたものの、故郷では開放的な性の場面に遭遇する事はままあったので、声を上げて二人の逢瀬に水を差すようなことはしなかった。耳を澄まさずとも聞こえる唇を合わせ舌が絡み合う湿った音に、どうやら暫くこの場所から離れる気配はなさそうだと判断したナジュは、そっと暖簾を戻して大人しく自分の部屋のある三階の水汲み場に移動しようと決めた。ナジュは一切邪魔する気は無かったのだが、二人の内の片方、ナジュが居る方に正面が向いている神様候補が、接吻の最中に出入り口である暖簾の方を確かめるようにチラと蕩けた視線を向けた。その時、ナジュとその神様候補は確実に目が合った。
(あ、まずい。俺は消えるから遠慮せず続けろ、続けろ)
そう伝えようと手を払うようにして見せるも、目の合った神様候補は「うわあっ」と声を上げてもう片方の神様候補から素早く離れると、顔を袖で隠しながらさらに素早くナジュの横を通って何処かへ行ってしまった。ナジュはやってしまったかと頭を掻きながら、残っている神様候補に声を掛けた。
「すまん。まさかここで逢瀬してるとは思わなくてな。あの、行っちまった奴…俺と目が合わなきゃ逃げなかっただろうからさ。あんまり気にするなよ」
「ふふ…後々埋め合わせをしっかりと、こってりといたしますので……。でも、口寂しさが堪えそうですね……どなたか探さないと…」
そう言って振り返ったのは、唐梳の側近オウソウであった。彼は接吻の熱が残った赤く色付く唇を一舐めして、にんまりと笑みを作りながらナジュの方に歩み寄って行った。
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