127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

柳元

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ナジュが柳元の席を見下ろしていると、机にドサッと音を立てて先程の講義である"天界史"の冊子が置かれた。冊子は真新しく折り目もついてない。柳元の名札から上に視線を移すと、疎な無精髭を顎につけた気怠そうな雰囲気の三十後半から四十半ば程の齢の男が、腰に手を当ててナジュを見下ろしていた。袖から見える前腕途中から手先にかけてに、丸や直線等複数の刺青が入っている。さらに首の方にもそれらとは違う鮮やかな色彩の刺青がのぞいていた。

「よォ、二枚目のあんちゃん。違ってたらすまねェが、ここ…あっしの居所で間違いねェよなァ?」
「あんた…柳元か?」
「おゥよ」

刺青に気を取られていたナジュは、改めて柳元の顔を見た。

(神様候補って同じような年頃ばかりだと思ってたが、御手付き様の江島みたいなおっさんも居るんだな…)
「兄ちゃん、随分甘ったりィつらァしてるが…童か?」
「どう見ても成人してるだろ!」
「あっはっは!悪ィ悪ィ、え~と……ナジュってェのか。あっしの事は気軽に柳元ってェ呼んどくれ、ナジュの旦那。五人組ならぬ二人組ってわけでもねェが、隣同士まあ一丁よろしくなァ」

柳元はナジュの肩をバシバシと叩いて椅子に座った。それが思いの外強くて、ナジュは肩を摩りながら以前に名を見かけた時のことを聞く。

「そういえば、あんた…柳元。初日の激励会に居なかっただろ?何処に居たんだ?」
「おっ!あっしが居ねェのに気がつくなンざァ驚きだ。さてはこの男前に目ェ付けてやがったか?へへっ今度二人で花火見物でもするかい?」
「"はなび"……?いや、その前におかしな勘違いすんな!お前の名前が書かれた席が俺の居た机にあったんだよ!」

ナジュは少し怒った顔をしているが、それを素直になれないだけだと思っている柳元は、態々近付いて行って馴れ馴れしく肩を組み顔を綻ばせる。激励会に不在だった理由を質問されたという記憶は頭の中から消えてしまったようで、気分良く独り言を呟いている。

「このなりも捨てたモンじゃねェなァ…!こりゃァひょっとして、うぶと呼ばれたあっしも……その内に酸いも甘いも噛み分けた玄人に…」
「何一人で喋ってんだ」
「いやいやっ!こっちの話だ、気にしねェでくれよォ」
「ったく…。激励会で出されたの、美味そうなご馳走だったぞ。出る出ないは自由だろうが、飯だけでも食って帰ればよかったのに」

とは言ってもナジュに用意された食事の殆どは雁尾に横取りされてしまった為、それらを味わってはいない。

(改めて思い出すと口惜しいな…雁尾あいつが来る前に食っとけば…)
「ほゥ!そりゃァ気になるねェ。どんな美味なモンが用意されたのか、あっしに教えてくんなァ!」

柳元は自分の席の椅子を掴み、ナジュの方に寄せた後ドサっと腰を下ろし、先程まで質問を忘れていたのに一転して教えてくれ教えてくれと無邪気に強請る中年男。言葉にできない違和感を覚えつつ、ナジュはどんなに美味そうな食事だったかを語り始めたのだった。
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