127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

唸る触腕

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隣りでぜえぜえと呼吸する南天と側に立つナジュと同じよう様に、第一陣として向かって行った者達以外は安全圏で様子見という判断のようだ。中には漁夫の利を狙って師に一撃加えてさらに評価を高めようと目論む者も居る。第一陣神様候補の一人がじりじりと師の死角に周りこみ、懐から飛び道具を取り出して振りかぶった所で戦闘が開始した。

「あっ!後ろの奴が師に何か投げようとしてるぞ!」
「あれは…苦無ですね。持ち手の先に片刃か両刃の刃が付いていて、近距離戦から中距離用で…通常の物より…小型の物かな……懐に隠しやすい…」
「お前よくこんな距離で見えるな」
「はは…体力は無いんですけど……目は結構いいんです」

苦無が風を切る音は一部の神様候補にしか聞こえていない。手元から素早く投擲された苦無は、一直線に師の赤緑の体表に向かう。その反対側に居る神様候補は衣擦れと風切り音を聞き、一気に踏み込むような動作を見せる。しかしそれは“フリ”であり、師の触腕をこちらに引きつける為の策であった。師は二本の内一本の触腕で正面をいつでも防御できるように傍に寄せる。師に記念すべき初撃を入れた者、という座を得るために、周りで武器を構える者も防御の薄くなった方から飛び掛かる。まさに四面楚歌、対処しなければならない事柄が多数。これを師はどう乗り切るのか、ナジュは真剣な眼差しで見届ける。

「甘い」

師は一瞬のうちにその巨体を床に沈めて苦無を避けると、床に二本の触腕を這わせて素早く一回転。切りかかろうとしていた神様候補達に不意打ちの足払いを仕掛けた。第一陣のうちの二人が触腕に弾き飛ばされ、残りは上手くその場で飛び跳ねて触腕をいなした。しかし、師のもう一つの罠にはまだ気がついていない。人間とは思えぬ跳躍力で宙に飛んだ神様候補は、怪物の如き大蛸の全容を見下ろして闘争本能が刺激される。

「これはこれは珍しき!大蛸五島師に“まいった“と言わせれば、かの尊き御方の妖怪退治の逸話に見劣りせん!光輝く戦果が座への道を照らす源に!」
「ハッハッハ!大海に潜む怪物退治としゃれこもうかァ!」
「ん!?あれ…空飛んでるおっさん柳元じゃないか!?」

一人だけ年代の違う神様候補がいると注視すると、それは現代史と昼餉を隣りで過ごした柳元であった。相変わらず草臥れた様子の柳元は、棍を片手に持ち、上は腹巻に法被、下は股引に草履の格好で三度笠を被っていた。視界全体に大蛸の姿を捉えながら、着地したらすぐに攻撃に転じられるよう獲物である棍を構える。あと三つ数えたら床に着地する。

「あっしの勇姿を見た日にゃァ…惚れ直す方々も大勢いらァねェ!よし、ここは一つ一矢報いて……う゛お゛ッ!!?」

宙に浮いていた神様候補達が床に着地した瞬間、床に残る五島師の触腕から滲む粘液が立位を妨げる。すてーん!!と転んだ神様候補達は強かに頭や尻を打った。五島は、見事罠にかかり痛みにのた打ち回る者達を見下ろして、面倒くさそうに触腕で壁際へと弾き飛ばす。粘液を纏った第一陣は、床をつるつると滑って壁に衝突した。

「これより我が周辺は悪路となった。さあ、どうする…?」

真横に線の走る目玉が、ぎょろりと神様候補達を見渡した。
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